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生命の秘密  アラン・エンゲル『遺伝子操作』

遺伝子操作 (ハヤカワ文庫NV) (日本語) 文庫 – 1991/5/1


 アラン・エンゲルの長篇小説『遺伝子操作』(堀内静子訳 ハヤカワ文庫NV)は、遺伝子操作されたミュータントの子供をめぐる医学スリラー作品です。

 パリに住む女性遺伝学者イレーヌ・セヤンのもとに現れたロシア人少年イワンは、八歳でありながら老人のような顔をしていました。イワンは徒歩で、ロシアの研究機関から脱出してきたというのです。知力・体力共に常人離れしたイワンは遺伝子を操作して生まれたのではないかと推測され、何らかの原因により急激に老化が進んでいるようなのです。
 特殊機関を通じて、アメリカの神経生化学者ジョージ・マリガンに少年の調査の依頼がなされますが、マリガンが到着する以前にイワンは老衰で死んでしまいます。やがてイワンの兄弟であるらしい別の少年が現れることになりますが…。

 遺伝子操作されたらしい少年が急激に老衰し、少年を救おうとする女性科学者と彼女に協力することになった主人公の科学者が、少年をめぐる米ソの陰謀に巻き込まれる…という、謀略小説風味の医学スリラー作品です。
 アメリカとソ連が遺伝子実験の秘密をめぐって争っており、主人公たちもその陰謀に巻き込まれて襲われることになります。ただその襲撃もそれほど深刻なものではなく、追及の手もそれほど派手なものではありません。その意味で、序盤で予想されるほど、謀略小説的な味わいは濃くありません。

 主人公である科学者マリガンとその恋人イレーヌが、国の道具として生み出され、さらに別の形で利用されようとされつつある少年の命を救いことができるのか? というのが読みどころとなっています。
 実験で急激な老化を余儀なくされた少年たちの悲哀、そして彼らを救おうとする科学者カップルたちを通して、人体実験は許されるのか?といった倫理的な問いかけがなされていく、という部分がメインとなっていますね。

 少年は並外れた知性を持っており、教育次第では数日単位で現役の科学者の知性を上回る可能性があることから、主人公たちは急激な少年の教育とその研究の手伝いをすることになります。
 老衰による死の前に、それを止める手段を生み出すことができるのか? というタイムリミット・サスペンス的な味わいもあります。

 正直、主人公の科学者カップルはあまり目立たず、天才的な知能を持つ早老症の少年の方が、主人公のようになってしまっています。彼とその兄弟の人生が描かれるパートは、悲哀を帯びたトーンで味わいがありますね。
 1988年の作品ということもあり、遺伝子操作というテーマも正直古びているのかなと思います。ただ謀略と医学をメインとした作品でありながらも、少年をめぐるエピソード部分はしみじみとしており、ミュータント哀話といった感じで今でも楽しめる作品になっています。


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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