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地下室の物語  バリ・ウッド『地下室の亡霊』

地下室の亡霊 (扶桑社ミステリー) (日本語) 文庫 – 1997/11/1


 バリ・ウッドの長篇『地下室の亡霊』(青塚英子訳 扶桑社ミステリー)は、内気な主婦が住む家の地下室をめぐって、超自然現象が発生するというホラー作品です。

 町有数の由緒正しい家に生まれ、資産家でもある主婦マイラ。夫のボブと共に平穏な生活を送っていたマイラが気にかけていたのは、家の地下室のことでした。腐敗臭が漂い、入った人間がことごとく気分が悪くなるというその地下室を改装することをマイラは決心します。
 数ヶ月の工事を経て、見違えるように綺麗になった地下室でしたが、相変わらず不気味な気配は消えません。友人のラミーと共に、ふと軽い気持ちで占い盤を使ってみたマイラは、その場所には霊がいるという結果を見て驚きます。
 調べた結果、その霊は、17世紀に魔女の疑いをかけられて処刑された女性のようなのです。マイラは古い魔術書を参考に、幼馴染みの友人たちと共に御祓いをしようと考えます。友人の一人である精神科医リードは霊の存在を信じてはいませんでしたが、マイラの精神的な安定のために必要ではないかと考え、他の友人を巻き込んで、御祓いを実行することになります。
 その直後、犬の鳴き声をめぐってトラブルになっていた隣人の男パストーリが、ミツバチの群れに襲われて変死するという事件が起こりますが…。

 誰もが異様な雰囲気を感じ取る地下室、そこに霊が存在しているのではないかと考えた主婦が、友人たちと共に御祓いを行った結果、超自然的なものとしか思えない事件が相次ぎ、死者が発生する…というホラー作品です。
 マイラと言葉を交わし、軋轢を起こした人物が次々と犠牲になることから、精神科医リードは本当にそれらの事件が霊の仕業なのか疑問に思い始めます。マイラは霊に取り憑かれているのだろうか、それとも…?
 連続変死が霊の仕業によるものか、それともそうでないのか、というあたりが取り沙汰される前半は、オカルトチックな要素の濃い手堅いホラーとして読ませます。ただ、最初の変死事件が起きるまでが結構長いです。
 それまでは、主人公マイラとその友人たちの関係性やそれぞれの家庭環境などがじっくりと描かれていくので、このあたり、がっつりとしたホラーを期待していると、ちょっと拍子抜けしてしまうかもしれません。
 ただ、この主人公周辺の描写があとあとの伏線になっているのと、作者の人物描写も上手いので、こちらはこちらで、群像劇的な味わいがあって面白く読めますね。

 主婦のマイラ含め、幼馴染の友人グループは皆、資産家で、経済的には裕福な人間たちばかりなのですが、例えば、アンジーは酒乱の夫からの暴力、ラミーは傲慢な姑ジョアンとの軋轢、精神科医のリードは患者との関係に悩むなど、それぞれの問題を抱えています。心優しいマイラは友人たちの悩みに同情し、それがまた後半で問題を引き起こす要因にもなってゆくのです。
 地下室の件は別として、特に悩みもないように見えるマイラにも、彼女なりの憤懣があるのではないか。そう考えたリードは、一連の事件の真相が霊の仕業ではないのではないかと疑問を持つようになっていきます。後半ではリードの視点がクローズアップされ、その中で、重病患者の老婦人ベルとの関係をめぐって、その家族との軋轢に関連してある事件が起こり、それがまたマイラの行動にも影響を及ぼしていく、という流れも興味深いですね。

 ネタバレになってしまうので具体的なところは記しませんが、オカルトチックなゴースト・ストーリーだと思っていた物語が、後半別の方向にシフトしていきます。それに伴って、物語上の夾雑物ではないかと思われていた諸要素がしっかりとメインの話に絡んでいくのには感心させられます。
 地味ではありますが、しっとりとした面白さのあるホラー小説といっていいかと思います。
 「地味」とは書きましたが、クライマックスに登場する超自然的な趣向は意外に強烈で、これには驚かされる読者もいるかもしれませんね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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