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邪悪なる一族  ジャック・ウィリアムスン『エデンの黒い牙』

エデンの黒い牙 (創元推理文庫) (日本語) 文庫 – 2007/5/1


 ジャック・ウィリアムスンの長篇『エデンの黒い牙』(野村芳夫訳 創元推理文庫)は、古代から生き続ける邪悪な一族と人間との戦いに巻き込まれた青年を描く、伝奇ホラー作品です。

 ゴビ砂漠での調査から、弟子たちと共に帰国した人類学の権威モンドリック博士。博士が現地から持ち帰ったものは人類にとって重大な発見だと言われていました。
 かっての博士の弟子の一人であり、現在は新聞記者であるウィル・バービーは、博士の会見を取材するために空港を訪れますが、同じ場所に居合わせた、女性記者エープリル・ベルに魅了されてしまいます。なぜか子猫を連れてきていたエープリルに、バービーは、持ち合わせている情報をいろいろと話してしまいます。
 バービーは、モンドリック夫人ロウィーナに、エープリルを紹介しますが、なぜかロウィーナはエープリルに敵対的な態度を取ります。
 やがて現れたモンドリック博士はその場で緊急会見を行いますが、話の途中で倒れ、急死してしまいます。
 博士は猫アレルギーであったということが分かり、彼を殺したのは猫を持ち込んだエープリルではないかという疑惑が持ち上がりますが、バービーはそれを信じることができません。やがてエープリルは、自らの生い立ちと特殊な能力をバービーに明かすことになりますが…。

 かっての人類を脅かし、現在でもわずかながら存在しているという亜人類の一族。彼らと人類との抗争に巻き込まれた青年の冒険を描く伝奇ホラー作品です。
 モンドリック博士とその弟子たちは、現代でも暗躍しているという亜人類が人類に及ぼす危険を知り、彼らを撃退しようとしていました。
 しかしバービーが一目惚れしてしまったエープリルは、その亜人類の一人であり、博士だけでなく弟子たちも排除しようとしていたのです。しかもバービーも亜人類の血を強く引いていることから、エープリルによりバービーは操られてしまいます。
 彼女の魔力(?)によって、バービー自身が持つ亜人類の力を呼び覚まされ、その結果、彼は獣の姿に変身したうえで操られてしまうのです。しかし、バービー自身はその変身が夢であると思っており、なかなか真実に気付くことができません。
 自らが精神の病ではないかと考え、精神病院に駆け込んだりもすることにもなります。
 バービーは、かっての恩師の夫人、友人である弟子たちを守ろうと考え行動するのですが、エープリルに操られたバービーの行動が真逆の結果を生み、彼らの命を次々と危険にさらすことになってしまうのです。
 主人公バービーが亜人類の血を引きながら、人間の味方をすることになるのか、それともエープリルと共に人間を滅ぼす側に回るのか、というところが読みどころでしょうか。

 獣に変身できる血族が登場するなど、いわゆる<人狼>テーマの作品といえるのですが、この作品に登場するのは、<人狼>とはちょっと異なります。変身するのも狼に限られるわけではなく、他の獣の形に変身もできます。霊体化することも可能で、その場合、普通の人間にはその姿を見ることもできません。
 その活動に疑似科学的な設定がつけられているところもユニークで、例えば亜人類たちが相手を殺す場合、単純に肉体的に傷つけるだけというわけではなく、相手が死に陥るであろうタイミングに干渉することで、相手を結果的に殺してしまう、という独特の方法になっています。

 主人公バービーが「ヒロイン」エープリルにベタ惚れになってしまい、彼女にいいように操られてしまう結果、あまり主人公らしい積極的な行動というのは描かれません。もともと優柔不断ということもあり、エープリルのなすがまま、どんどんと深みにはまっていってしまうという流れは、どこか「巻き込まれ型サスペンス」の趣もありますね。

 <人狼>を描くのに、魔法や呪いなど、オカルト的な設定を使うのではなく、人類学や心理学、果ては量子力学的な発想まで、作品全体に科学的な衣をつけたのが特徴です。1948年の発表当時は、かなり斬新なスタイルだったのではないでしょうか。
 そのあたりの衝撃は今では薄れてしまっていますが、それを差し引いても十分に面白い作品です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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