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優しい怪物  バリ・ウッド『エイミー』

エイミー (扶桑社ミステリー) (日本語) 文庫 – 1989/10/1


 バリ・ウッドの長篇『エイミー』(倉本護訳 扶桑社ミステリー)は、酒乱の父に母を殺された少女がショックから超能力を発現し、それが惨劇を呼んでしまうというサイコ・サスペンス・ホラー作品です。

 酒乱の父マイクルが家を出ていってしまい、母親のエヴィと共に困窮した暮らしをしていた八歳の少女エイミー。ある日酔って家に現れたマイクルは、エヴィに暴力を振るいとうとう妻を殺してしまいます。マイクルはそのまま立ち去り、とっさに母親によって物置に隠されていたエイミーは、そのまま放置され、死に近づいていました。
 一方、生まれつき超能力を持つがゆえに精神のバランスを崩し病院に入院していたマイクルの兄ジョナサンは、姪のエイミーが危機に陥っていることを感じ取り、警察に助けを求めるよう働きかけます。
 助けられたエイミーは、事件に関与したジョゼフ・レヴィン警部の家に引き取られることになります。家族から歓迎されるエイミーでしたが、唯一息子のパウリーのみは、エイミーを憎み、彼女を追い出そうと考えていました…。

 もともと超能力の素養を持っていた少女が、母親が殺される現場に居合わせたことからその能力を発現させる…というホラーサスペンス作品です。
 少女エイミーの能力は「精神支配」。相手の精神を思い通りに操るというもので、相手の意思を無視してコントロールすることができ、自殺させることすら可能なのです。
 エイミーは非常に優しい少女で、自分の能力を認識した後もそれを思い通りに使おうとしません。しかし引き取り先の息子パウリーは、彼女を憎み、家から追い出すために、さまざまな嫌がらせをし続けます。問題を起こせば家から追い出される可能性があり、そもそもパウリーに対しても、父親の愛情を求めるがゆえの裏返しの行動ではないかと、哀れみを覚えたりもするのです。しかしどんどんエスカレートするパウリーの行動に対して、エイミーがいつ暴発してしまうのか…という部分が読みどころでしょうか。

 エイミーの能力による死者が出ていることから、彼女の能力を危険視する伯父のジョナサン。精神病院を抜け出したジョナサンはたびたび彼女に働きかけますが、惨劇は近づいてきていました。また彼女にかかわることになった医者のモランやホールは、レヴィン家に居る限り、エイミーが何かを引き起こすと考え、レヴィンにエイミーを手放すように忠告しますが、レヴィンは受け入れません。
 そもそも、エイミーが引き取られたレヴィン家自体が危うさを抱えている家庭で、息子のパウリーが不良じみた仲間とつきあい、両親との齟齬を来たしています。
 エイミーを迎え入れることによって、パウリーもまた変わるのではないかと期待したレヴィンでしたが、それは逆効果となってしまうのです。レヴィン自体も頑固な性格で、その失敗をなかなか認めることができません。

 人を簡単に殺せる能力を持ちながらも、少女エイミーはその優しさのため、その能力を頻繁には使うことがありません。彼女に嫌がらせをし続けるパウリーの行為に対して、耐え忍び続けようとするエイミーは健気で、読者は彼女に感情移入してしまうのではないでしょうか。
 それだけに、クライマックスでエイミーが暴発してしまうシーンには衝撃があります。

 序盤から悲劇が決定付けられた作品ではあるのですが、この手の作品には珍しく「救い」があり、読後感は悪くありません。精神障害でまともに生活することもできなかった伯父のジョナサンが、姪のために駆け回り、一人の人間として立てるようになる、というジョナサンの成長小説的な側面も面白いところですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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