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取り戻せる過去  ナンシー・エチメンディ『時間をまきもどせ!』

時間をまきもどせ! (日本語) 単行本 – 2008/10/1


 ナンシー・エチメンディの長篇『時間をまきもどせ!』(吉上恭太訳 徳間書店)は、謎の老人から時間を遡れる機械を手に入れた少年が、妹の死を回避するために何度も過去に戻るという、SFサスペンス作品です。

 少年ギブ・フィニーのその一日は最悪でした。友人の少女レイニーと実験をめぐって喧嘩したり、先生へのいたずらがばれてしまったりと、ろくなことがありません。そんな時、家の近くの森で出会った見知らぬ老人は、ギブに不思議な機械を渡します。
 <パワー・オブ・アン>と呼ばれるその機械は、過去に戻り、いろいろなことをやり直せるというのです。半信半疑のギブに対し、老人はそれを使う時が必ず来るといいますが、詳しい使い方を教える前に老人の姿は消えてしまいます。
 帰る途中に<パワー・オブ・アン>を落としてしまったギブでしたが、夜に友人のアッシュと一緒に移動遊園地に行く約束になっていたためにそのまま出かけることになります。両親が出かけるため、妹のロキシーも一緒に遊園地に連れていくことになります。
 遊園地で目を離したすきに、野良犬に追いかけて走り出したロキシーは、トラックにはねられ、昏睡状態になってしまいます。
 妹の事故を防ぐために、ギブはなくした<パワー・オブ・アン>を取戻し、過去に戻ろうと決意しますが…。

 タイムマシン(に類する機械)で、妹の事故を回避しようと試行錯誤する少年を描いた、SFサスペンス作品です。
 時間旅行者らしい老人から機械を譲り受ける主人公ギブですが、何かの制約からか老人は機械に関する説明ができないまま去ってしまいます。恐る恐る機械をいじりながら過去に戻るギブですが、過去の出来事をどこまで変えていいのか、また変えるべきなのかを思い悩むことになります。いくつかの失敗や災難を防いでも大勢は変わらない一方、何の気なしに変えた出来事が仇になり、再び事故が起こってしまうのです。
 妹を救いたいという強い気持ちを持ちながらも、さすがに子供である主人公だけにちょっとした気のゆるみや、友人たちに対する配慮などが原因で、のっぴきならない状態に追い込まれてしまうという展開には説得力がありますね。

 過去を変えたことによって、妹や友人たちが、それぞれの性格ゆえに行動を変えていくところなど、その描写は丁寧で、物語の伏線としても機能しています。
 主人公に機械を渡す謎の老人の正体や、機械を渡す理由などについては、最後まで完全には明かされないのですが、結末に至ってそのあたりに不穏な空気が漂い始めるのも、独特の味わいがあります。SF的な「タイムマシン」という題材を扱いながらも、読み味的にはホラーに近い読み心地の作品になっていることもあり、ブラム・ストーカー賞の児童文学部門受賞作というのも、なるほどという感じです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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