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評論・ブックガイドを読む
 最近読んだ評論・ブックガイド的な本をまとめて紹介しておきたいと思います。


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風間賢二『きみがアリスで、ぼくがピーター・パンだったころ おとなが読むファンタジー・ガイド』(ナナコーポレートコミュニケーション)

 欧米のファンタジーの流れを時代順に分かりやすく解説した、啓蒙書的なガイドブックです。
 グリム童話、アンデルセン、アラビアン・ナイトあたりから説き起こし、ドイツ・ロマン派のメルヒェン、ジョージ・マクドナルド、チャールズ・キングズレー、ルイス・キャロル、ラファエル前派、ジェイムズ・バリー、ボーム、ネズビット、C・S・ルイス、トールキン、ル・グィン、エンデ、そして『ハリー・ポッター』に代表される現代のファンタジーまで、要所要所のポイントを押さえた、非常に分かりやすいファンタジーの概説書となっています。
 代表的なタイトルが挙げられるものの、古典的名作でも、つまらないものはつまらないと言い切っているところが清清しいですね。
 個人的に面白く読んだのは、主にイーディス・ネズビットの業績について語った<エブリデイ・マジック>の章。<エブリデイ・マジック>とは、別世界に旅立ちそこで魔法と出会う物語の逆で、現実世界に魔法(やその代行者・アイテム)が侵入してくるというタイプのファンタジー。
 ネズビットの強い影響で、別世界ファンタジーがしばらく影を潜めてしまったそうです。ネズビットの代表的なフォロワーであるエドワード・イーガーを始め、彼女の影響が及んだ後続の作家は数多いと言うことで、C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』にもネズビットの影響があるとか。
 2002年刊行ということで、現代ファンタジーに関してもその年代までの作品が取り上げられていますが、結構辛口で、J・K・ローリング『ハリー・ポッター』、クリフ・マクニッシュ『レイチェルと滅びの呪文』、ポール・スチュワート『崖の国物語』などは評価が低いです。
 逆に評価されているのは、フィリップ・プルマン『ライラの冒険』、『ダレン・シャン』、レモニー・スニケット『世にも不幸なできごと』など。
 ファンタジーの原型ともいうべき民話や『アラビアンナイト』の改変問題、「フォルクスメルヘン」と「クンストメルヘン」の違い、ラファエル前派の絵画の影響、アンデルセンやルイス・キャロルの人物像など、いろいろと面白くためになるトピックが盛り沢山で、短めながら充実したガイドとなっています。
 小谷真理『ファンタジーの冒険』(ちくま新書)、石堂藍『ファンタジー・ブックガイド』(国書刊行会)、リン・カーター『ファンタジーの歴史』(東京創元社)などと並び、日本におけるファンタジー概説書の基本図書となり得る本だと思います。



たのしく読める英米幻想文学 (シリーズ文学ガイド (4)) (日本語) 単行本 – 1997/5/1


大神田丈二、笹田直人編『たのしく読める英米幻想文学』(ミネルヴァ書房)

 英米の幻想文学作品を120作紹介したブックガイドです。
 18世紀頃から現代までの英米の幻想文学の名作を紹介しています。あらすじ、読み方、作家の履歴、読書案内、さわりの部分の原文引用などが、それぞれ分かりやすくまとめられています。アン・ラドクリフやジェイムズ・ホッグといったゴシック小説から、ピンチョンやバーセルミといった現代の文学的な幻想小説まで、幅広く取り上げられていますね。
 執筆陣は大学の研究者たちから成るようで、いわゆる文学中心のセレクションになっています。ただブラックウッドやラヴクラフトといった怪奇プロパーの作家や、ブラッドベリ、バラード、ル・グィンといったエンタメ系の作家もちょくちょく取り上げられており、全体的にバランスの良い入門書となっているのではないでしょうか。
 個人的には、純文学系の作家の知られざる幻想作品を知ることができる、という意味で面白く読みました。基本的には邦訳のある作品が紹介されていますが、中には未訳作品の紹介もあって、参考になりますね。
 1997年初版(で改版はされていないようです)なのですが、まだ在庫があるようで、新刊で買えます。幻想文学に興味のある人には参考になるガイドではないかなと思います。



境界への欲望あるいは変身-ヴィクトリア朝ファンタジー小説- (日本語) 単行本 – 2009/1/1


桐山恵子『境界への欲望あるいは変身 ヴィクトリア朝ファンタジー小説』(世界思想社)

19世紀イギリスのファンタジーや、そうした要素を含んだ文学作品について語った評論集です。
 全9章、それぞれ興味深いテーマなのですが、一番興味深く読んだのは「第1章 プリンセスでなくなるお姫さま」。メアリー・ド・モーガン、イーヴリン・シャープなど、ヴィクトリア朝に書かれた5つのフェアリー・テールを取り上げ、それらが型どおりのハッピー・エンドではなく、ヒロインが独自の立ち位置を手に入れる…というのを語った論考です。
 「第8章 『不思議な訪問』の文明化された空の妖精」も面白いです。ヴィクトリア朝に書かれた、ゴブリンが登場する童話をいくつか取り上げ、それらを比較考察するというもの。
 クリスティーナ・ロセッティ、マリー・コレリ、ディケンズ・ジョージ・マクドナルドらの作品について触れています。マリー・コレリに関しては、未訳の『サタンの悲しみ』についても一章が割かれていますね(「第3章 欲望の生産および達成メカニズム」)。



シンポ教授の生活とミステリー (光文社文庫) (日本語) 文庫 – 2020/7/8


新保博久『シンポ教授の生活とミステリー』(光文社文庫)

 ミステリに関わる様々な話題について触れたエッセイ集です。ミステリに関する該博な知識と、ユーモアたっぷりの語り口が楽しい本になっています。数十年間の文章を精選したそうで、それだけに密度が濃いですね。
 個人的に面白く読んだのは、サスペンス小説のジャンルについて語った「ウールリッチとハイスミスの間には深くて暗い河がある」、<奇妙な味>について語った「“奇妙な味”とはアンチ人情話である」でしょうか。特に「ウールリッチと…」は、サスペンス小説好きは必読の文章だと思います。
 あと、カルチャースクールの講座について面白おかしく語った「カルチャーな日々」も楽しいですね。



フリースタイル45 短篇ミステリとは何か(小森収×杉江松恋) (日本語) 単行本 – 2020/8/8


「フリースタイル vol.45」(フリースタイル)

収録されている対談「短篇ミステリとは何か」(小森収×杉江松恋)が大変面白いです。30ページ近くある長丁場の対談なのですが、短篇ミステリについてのいろんな論点が出されています。
 いろいろ興味深い話題が挙げられてるのですが、短篇ミステリのハイタイムが1980年までではないか、という小森さんの意見はなるほどと思いました。僕も短篇ミステリは好きで、邦訳されたアンソロジーや雑誌は結構読んでるのですが、1980年代あたりの作品から、全体に短篇の傾向が変わってきているような気がしていたのですよね。
 現にエドガー賞の受賞作を年代順に集めたアンソロジー『エドガー賞全集』『 新エドガー賞全集』『エドガー賞全集 1990~2007』を読むと、やはり『エドガー賞全集』が圧倒的に面白いのです(好みによる要素もあるかもしれないですが)。
 どんなジャンルでも自分がそれを読み出した年代のものが一番面白く感じる、といわれることがあります。僕が短篇ミステリを読み出したのは1990年代ですが、その時点で1980~1990年代の作品はあまり面白く感じず、1950~1970年代ぐらいの作品を面白く読んでいたような気がします。
 あと、対談で面白いと思ったのは、ミステリとSFのジャンル的な比較でしょうか。ミステリが「EQMM」のおかげでスリックマガジンとのつながりができたのに対して、SFには「EQMM」のような存在がなく、またファンダムの力が強かったために、内省を迫られ、その結果ニューウェーブが生まれたというのです。
 他にもいろんな意見や論点が出てきて面白い対談です。



ベストミステリー大全 (日本語) 単行本 – 2002/5/1


北上次郎『ベストミステリー大全』(晶文社)

 1988年から2001年にかけて「小説現代」に掲載された海外ミステリの書評をまとめたガイド本です。400冊以上の本が取り上げられています。
 ミステリだけでなく、SFやホラー・冒険・ロマンスなど様々なジャンルの本が取り上げられており、読み応えがあります。後世には残らないようなB級作品や「変な作品」も紹介されているところが面白いですね。
 紹介されている中では、地下鉄で暮らすことになった少年を描いた『地下鉄少年スレイク』(フェリス・ホルマン 原生林)、老人の顔を持つ少年を描いた医学スリラー、『遺伝子操作』(アラン・エンゲル ハヤカワ文庫NV)の二冊が特に気になりました。



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横田順彌『ヨコジュンの読書ノート 附:映画鑑賞ノート』(盛林堂ミステリアス文庫)

 先年亡くなった横田順彌の学生時代の読書感想ノートを、ノートのような体裁のレイアウトで再現した本です。つまらないものはつまらない、とはっきり書かれているところも良いですね。
 1960年代半ばから後半にかけて書かれていて、当時邦訳されたり創作されたSF作品に、リアルタイムで触れた読者の素直な感覚が伝わってくる貴重な本になっています。
 アシモフ、ハインライン、ブラッドベリ、ブラウンなど、名作SFのタイトルがぞろぞろ出てきて楽しいのですが、どうやら横田さんは怪奇幻想的な作品が苦手だったらしく、その種の作品の評価は低いようです。例えば何回か作品が登場して評価も高いH・G・ウェルズも、「モロー博士の島」など、幻想小説的な作品はあまり面白くないと言っていますね。
 異色作家系もあまり合わなかったらしく、ブラッドベリは例外のようですが、レイ・ラッセル、シオドア・スタージョン、リチャード・マティスン(マシスン)などはあまり評価が高くないです。特にスタージョンに関しては「よくわからない」という感想。
 意外だったのは、モルデカイ・ロシュワルト『レベル・セブン』やピーター・ブライアント『破滅への二時間』など、当時の政治状況を反映した「破滅SF」的な作品の評価が高いこと。
 作家になる前の学生時代、発表する予定もなかったノートだけに、当時の一人の読者としての素直な感想が綴られており、その意味でも興味深いですね。若い頃の感想なので、後年評価が変わったものもあるのかもしれないですが、これはこれで「時代の証言」として面白いものです。



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『カモガワGブックスVol.1 非英語圏文学特集』
『カモガワGブックスVol.2 英米文学特集』


 評論やブックガイドを中心とした文学同人誌です。
 ブックガイドが非常に充実しています。≪フィクションのエル・ドラード≫や≪東欧の想像力≫全レビュー、柴田元幸編アンソロジー全レビュー、プリースト全レビューなどのブックガイドは本当に重宝します。
 あと面白く読んだのは、ボルヘス最後の短編について語ったエッセイ「失われた短編を求めて -ボルヘス唯一の未訳短編「シェイクスピアの記憶」について」(鯨井久志)。
 おまけとして付けてくれていた頒布ペーパーに、この短編の翻訳が載っており、こちらも読んでみました。
 ある男から「シェイクスピアの記憶」を譲り受けた男の物語で、ボルヘスらしさの横溢する作品でした。記憶に関して、意図的に思い出そうとするのではなく、たまたま見つからなくてはならない…というのもボルヘスらしい発想ですね。

 こちらで購入できます。 
 https://hanfpen.booth.pm/


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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