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世界の終末  ウィリアム・ホープ・ホジスン『異次元を覗く家』

異次元を覗く家 (ナイトランド叢書) (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2015/10/22


 異次元の怪物、宇宙の終末…。ウィリアム・ホープ・ホジスンの長篇『異次元を覗く家』(荒俣 宏訳 アトリエサード)は、巨視的なスケールで描かれた怪奇幻想作品です。

 いわくのある古い屋敷にやってきた老人の「わたし」は、妹のメアリ、愛犬のペッパーと共に、そこに長らく住んでいました。ある日書斎で「わたし」は奇妙な体験をします。それは自分の体が地球から離れ、別の世界へ行くというものでした。
 そこで「わたし」は、巨大な異教の神々のようなものに取り囲まれた円形の場所で、自分の家とそっくりながら、ずっと大きな建物を目撃します。その体験からしばらくして、家の近くの深い谷間〈窖(ピット)〉を訪れた際に、ペッパーが何者かに襲われ怪我をしてしまいます。
 「わたし」がかすかに目撃したのは、ブタに似た顔を持つ人間に似た生物でした。それからその怪物たちが太陽に屋敷の周囲に現れ、家の中に侵入しようとし始めます。「わたし」は屋敷にこもり、怪物たちを撃退しようとしますが…。

 様々な要素の盛り込まれた、魅力的な怪奇幻想小説です。一見、つながりや理由のわからない現象や事件が立て続けに起こり、その意味ではバランスが悪いと言えるかもしれないのですが、その個々のエピソードや要素が、どれも魅力的なガジェットに満ちているのです。
 いわくのある謎の館、ブタに似た怪物の襲撃、時間の加速現象、宇宙の終末の幻視、幻の恋人…。メインとなるのは、怪物に襲われた屋敷を守ろうとする主人公の冒険が描かれる部分でしょうか。アクション要素も多く、血湧き肉躍るエピソードとなっています。

 一番印象に残るのは、中盤から突然現れる時間加速現象です。屋敷で老人が気がつくと、周囲の時間の経過速度が異常に早まっていたのです。愛犬の体が灰のようになってしまったり、部屋の周囲が段々とくずれていく、という描写には、強烈なインパクトがあります。
 地球どころか、太陽、さらには宇宙自体の終末を示唆するかのような描写までが描かれ、その巨視的なスケールには唖然としてしまいます。

 物語の構成も入り組んでいます。館に住む老人が体験したことを手記に綴っており、これが本編となっています。その手記をアイルランドのクライテン村の南の廃墟で発見したのが、そこにキャンプに訪れていた二人組の男性ビレグノグとトニスン。
 その手記を手に入れたホジスンが、註を付して公開した、という設定になっています。ですので、わかりにくいのですが、序盤のトニスンと共にキャンプに訪れて手記を発見したという「わたし」はホジスンではなくてビレグノグになります。

 物語が終わっても不可解な点が多く残るのも特徴です。館に住む老人と妹の素性や、なぜいわくのある館に住むことに固執したのか、館はいったい何なのか、時間加速現象は実際にあったのか、異教の神々のような存在は何なのか、ブタ人間たちの正体とは、〈窖(ピット)〉とは何だったのか、など、山のような謎が残るのですが、逆にそれがこの作品のミステリアスさでもあり、想像力を刺激するところでもありますね。
 全てが手記の著者の老人の妄想と取る解釈も、難しくはあるでしょうが、取れなくもありません。また、個人的な意見ですが、結末付近で明かされる事実からは、パラレルワールドという解釈もできそうな感じもします。
 いちばんはっきりしないのは、老人の前に何度か現れる、謎の女性の存在でしょうか。実在した女性の魂なのか、そもそも初めから精神的な存在なのかもはっきりしません。ただ、物語の他の要素にインパクトがありすぎて、この女性の存在は少しかすれ気味にはなっていますね。

 とにかく、懐の広い怪奇幻想作品(という言い方も妙ですが)で、読む人によってその感想もいろいろ変わってくる作品かと思います。

 解説で、ホジスン作品が作中で言及されている作品として、ヘンリー・S・ホワイトヘッドの「あかずの部屋」が紹介されています。こちらの短篇が近年邦訳紹介されたので、こちらもついでに読んでみました。


ナイトランド・クォータリーvol.10 逢魔が刻の狩人 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2017/8/28


H・S・ホワイトヘッド「開かずの間」(牧原勝志訳「ナイトランド・クォータリー vol.10」アトリエサード 収録)

 ある宿屋での奇怪な事件の調査を依頼されたカルース伯爵は、ジェラルド・ケインヴィンと共にブライトン街道にあるというその宿に向かいます。
 宿の主人のウィリアム・スノウが語るには、宿内の皮の靴が消え始め、やがては革製品全般が消えるようになったというのです。大量の金銭の入った袋までが消えるに及び、スノウは助けを求めることになったというのです。
 宿屋の中にある「開かずの間」に関心を抱いたカルース伯爵は、その来歴を聞くことになりますが…。

 オーソドックスな幽霊物語なのですが、革製品ばかりが消えるという、どこかユーモラスな設定もあり、楽しいゴースト・ストーリーになっています。登場する幽霊もすごく「人間的」ですね。
 作中で、類似する怪奇現象の例として、ホジスンの『幽霊狩人カーナッキ』が言及されています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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