仕掛けのある本
 「仕掛け」のある本が好きです。
 といっても、飛び出す絵本とか、ああいう露骨な「仕掛け」じゃなくて、本の装丁や組版にちょっとした工夫のある本のことです。
 例えば稲垣足穂の『人間人形時代』(工作舎)という本があります。これ、表紙の表から裏まで、ぶちぬきで本の真ん中に穴が開いているという、おかしな本。初めて見たとき、驚きました。別に穴には特に意味があるわけじゃないんですが、本に穴を開けてしまうという試み自体に驚かされたんですね。
 最近では、恩田陸の『ユージニア』(角川書店)に感心しました。本の文字組がわざとずらされていたり、紙が不揃いだったりと、作品の雰囲気を高めるための「物理的」な工夫がしてあります。
 こういう特殊な例を見るとよくわかりますが、本の内容とその装丁やデザインというのは、相互に影響し合うところが大いにあるように思います。面白そうな内容の本だけど、表紙絵が安っぽくて買うのをやめた、とかいう経験がみなさんにも、おありになることでしょう。
 その点すぐれた装丁の本は、たとえ内容が期待したほどのものでなかったにしても、あんまり損をした気がしなかったりすることがあるのも事実。
 現代芸術なんかでは、本のこうした物質的な側面を逆手にとった作品なんかもあるようです。具体的な作者名や作品名は忘れてしまったのですが、たしか、こういうのがありました。たった一部しか作らなかった詩集を機械仕掛けの箱に封印したという作品。これ、開けようとすると自動的に発火して詩集は燃え尽きてしまうというものです。「絶対に読むことのできない本」という寓意のあふれる作品で、非常に感心した覚えがあります。
 あと、物理的な「仕掛け」としては無理なんですが、読書家の夢としてよく語られる「終わらない物語」というのもあります。これは作品の内容としては、けっこう挑戦している作家がいますね。物語自体がループするという仕組みの話もよくあります。
 個人的にすぐ思い浮かぶのは、アルゼンチンの作家エンリケ・アンデルソン=インベルの『魔法の書』(国書刊行会『魔法の書』所収)。途中で一度でも読むのを中止すると、とたんに書いてある内容がわからなくなるという「魔法の書」。主人公は何度も最初から読み直し、最後まで読んでやろうとするのですが、何回やっても途中で力尽きてしまいます…。寓意物語としても非常に面白い一編ですので、機会があったらご一読を。
 あとは、そうですね、ミロラド・パヴィチの『ハザール事典』。謎の民族ハザールをめぐる物語を事典形式で描いた本です。事典形式の本というのは、前例があると思いますが、項目のそれぞれが物語になっていて、総体として大きな物語を形成する、という点ではやはり前例がないものでしょうか。
 同じくパヴィチの『風の裏側』なんてのも面白いですね。本の両側から、それぞれ物語が始まり、ちょうど真ん中で二つの物語が出会う、というアイディア勝ちみたいな本です。
 それで今気になっているのは、マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』(ソニーマガジンズ)という作品。あんまり値段が高いので、なかなか買えないんですが、タイポグラフィを多用したり、構成が非常に工夫されているようで、大変気になっています。

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この記事に対するコメント
パラパラ漫画
最近おもしろかった小説の仕掛けは鯨統一郎の『パラドックス学園』。
本の左下の余白がパラパラ漫画(アニメーションの原型ですね)になっていて、最後に本文のストーリィとドッキングするというもの。当然途中で気がついてパラパラしてみるはずですからネタバレではないです。
あとそれを読んだら死んでしまうという貞子ビデオみたいな本をテーマに、朝松健と倉阪鬼一郎がそれぞれ書いていて、仕掛け心を感じました。
紹介されている『人間人形時代』、エリック・カールの絵本『腹ペコあおむし』を連想してしまいました。こちらは必然性のある”穴”だけにつまらない?
【2006/07/04 22:31】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

なかなか面白いですね
日本の現代ミステリには詳しくないので、よくわかりませんが「叙述トリック」のヴァリエーションでけっこう「仕掛けのある」話は少なくないようですよね。
読んだら死んじゃう本! いま思いついたんですが、フレドリック・ブラウンの『うしろを見るな』とかフリオ・コルタサルの『続いている公園』なんてのも、読者に対しての「仕掛けのある」話しですね。
エリック・カールの絵本にも穴が開いてるんですか? 絵本にはけっこう物理的な「仕掛け」があるものが多いように思います。こないだ出たブルーノ・ムナーリ『闇の夜に』というのも穴があいてます。これは穴が開いた部分がページごとに月になったりと、いろいろな対象に変化するというすぐれもの。
『人間人形時代』の穴は全く意味がないんで、そこのところが考えたらすごいですね。
【2006/07/04 23:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんにちは!
初めまして!
時々、お邪魔させてもらっています。

ダニエレブスキーの「紙葉の家」は、値段に見合う面白い本ですよ。 
実験的な内容もですけれど、あの分厚さと辞書並みの紙の薄さが、読書欲を更に更に刺激します。
【2006/07/04 23:17】 URL | ユイー #- [ 編集]

>ユイーさん
ユイーさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
『紙葉の家』は、やっぱり面白そうですね。
何回か、本屋で手に取りながらも、値段が値段だけに、ためらってました。でもほとんど同じ値段の『ジョン・ランプリエールの辞書』は買ってたりして(笑)。もうあの装丁だけで購買欲をそそられてしまいます。
【2006/07/05 07:08】 URL | kazuou #- [ 編集]

その昔
内職で、絵本などのポップアップを手がけていました。
仕掛け絵本というのは、内職さんが一冊一冊手作業で組み立てているんですよ。
仕掛け絵本を見るにつけ、内職さんご苦労様、と心の中で感謝してしまう私です。

アートンという出版社から出ている大人の絵本シリーズは、ボーモン夫人「美女と野獣」が宇野亜喜良の絵画で楽しめるなど、ビジュアル重視で人の目をひきつける魔力を持ったシリーズです。
以前、kazuoさまに紹介していただいた「神秘の薔薇」の世界幻想文学大系は、各ページが素敵ですよね。
ちょっと読みにくいけど(笑)
私は装丁がシンプルで、内容の邪魔にならないものの方が好みですが、内容とシンクロしていて本文を2倍も3倍も楽しめる相乗効果があるものも大好きです。
【2006/07/05 09:21】 URL | くろにゃんこ #Rr/PoIDc [ 編集]

趣味的なレイアウト
おお、そうでしたか。手作りの「仕掛け」だったのですね。
世界幻想文学大系の本文のレイアウトは賛否両論あるようですが、僕は大好きです。一冊一冊違うイラストや模様が入っているところも贅沢でした。ちなみに同じ国書刊行会から出ている〈ドイツロマン派全集〉は、さらに趣味的なレイアウトと装丁で、非常に凝ってますよ。本文のインクまで色刷りなのが、読みにくくて、やりすぎな感じもしますが、あのくらいやってくれると本を買った人に喜んでもらえまるように思います。
国書の本は、どれもたいてい値段が高いだけあって(笑)、凝った装丁をしてくれるのが嬉しいところです。
【2006/07/05 12:40】 URL | kazuou #- [ 編集]

文庫での仕掛け本
恩田陸でいえばハードカバー版の「MAZE」もきれいな表紙でしたねえ。
「紙葉の家」は私もクラッときたんですが、やっぱり値段に躊躇してしまいました。
装丁買いってのはたまにありますが、私の場合は内容が期待はずれだと後悔してしまいます。
仕掛け本といえば泡坂妻夫の「しあわせの書」と「生者と死者」の仕掛けには驚かされました。特に後者は裁断していないフランス綴りの文庫で、そのまま読むと短編小説ですが、閉じたページを切って開くと長編小説となってしまう仕掛けです。短編で読んだ場合と長編で読んだ場合と、同じ箇所でも全く違う内容になってしまう超絶技巧に唖然としたものです。
【2006/07/05 13:43】 URL | Takeman #- [ 編集]

たしかに
『MAZE』も綺麗なカバーでしたね。
まあ、あんまりつまんないと困りますが(笑)、装丁が綺麗なら僕はそれだけで、ある程度満足しちゃいますね。
『紙葉の家』ネットで感想などを見てみると、ホラーっぽい話みたいですね。そういうの大好きなので、購買欲が増進しております。
おお!泡坂妻夫にそんなのがあったんですか。そういえば、短編をはさんだオムニバス長編っていうのは、よくありますが、ただ単なる挿話であることが多くて、解釈が変わってくるとか、意味が反転するとか、そういう技巧的なのは少ないですよね。
【2006/07/05 18:48】 URL | kazuou #- [ 編集]


遅レスで失礼します・・・。

Takemanさんがご紹介くださっている泡坂妻夫さんの『生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術』(新潮文庫)、
私は二冊持ってますよ(^^;)。
勿論、袋とじを開いてしまうと、文字通り、短篇だったお話が消えてしまうからです。
長篇用に切り開いたほうと、保存版として切り開いていないほうとをキープしてます。

それと、都筑道夫さんの『猫の舌に釘を打て』(講談社文庫)をお見かけになったら、これまた是非。
後半になると、ミョーに空白や乱丁だらけになってしまう本なのですが、そこがミソなのです。

 最近出版された本では、浅暮三文の『実験小説 ぬ』(光文社文庫)の中の、「カヴス・カヴス」というお話が抜群に面白かったです。
本に穴は開いていないのですが、「穴が開いているつもりで読みなさい」というコンセプトでした。
【2006/07/07 20:55】 URL | ねこでら #17ClnxRY [ 編集]

さすがは愛書家!
ねこでらさんはお持ちでしたか。しかも二冊!
読書用と保存用、袋とじ本の常識でしょうか。なかなか面白そうな本ですね。
『猫の舌に釘を打て』、実は、以前途中で挫折しています。あのまま読んでたら面白くなったんでしょうか。
『実験小説 ぬ』は読みました。「カヴス・カヴス」もなかなかでした。ちなみにこの本面白かったのですが、どうも決め手に欠けるというか、際だった傑作がなかったのが、ちょっと物足りませんでしたね。
【2006/07/07 22:33】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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