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冷たい触れ合い  メアリー・ダウニング・ハーン『深く、暗く、冷たい場所』

深く、暗く、冷たい場所 (海外ミステリーBOX) (日本語) ハードカバー – 2011/1/1


 メアリー・ダウニング・ハーンの長篇小説『深く、暗く、冷たい場所』(せなあいこ訳 評論社)は、過去の悲劇が家族二代に渡って影響を及ぼすという、シリアスなゴースト・ストーリーです。

 13歳の少女アリソン(アリ)は、屋根裏部屋で母親の子ども時代の写真を見つけます。姉のダルシーと並んで写っている母親のクレアのとなりには三人目の少女が写っていましたが、写真がちぎれているためその顔は分かりません。名前が書いてあるものの「テ」という断片しか分からないのです。
 その写真について母とおばのダルシーに訊ねるものの、二人とも何も覚えていないと話します。母とおばは子供時代はよくシカモア湖畔の別荘で過ごしたといい、ダルシーはそのコテージに、幼い従妹エマのお守り役を兼ねて旅行に行かないかとアリを誘います。喜ぶアリでしたが、母親はなぜか反対します。
 現地に着いたアリは、楽しい日々を過ごしますが、突然現れた意地の悪い少女シシィに調子を乱されてしまいます。名字や家の場所も教えてくれず、はぐらかすシシィにアリは困惑しますが、彼女はアリの母親やおばがかってひどいことをしたと、アリやエマに話します。
 シシィに感化されてしまったエマは、性格が変わったように意地が悪くなり、同時にダルシーの精神状態も不安定なものになっていきますが…。

 おばと従妹と共に湖を訪れた少女アリが、謎めいた少女シシィに翻弄されているうちに、過去に起きた悲劇的な事件を知り、子どもだった母親とおばがその事件に関係していたことを知ることになる…という、サスペンス味豊かなホラー作品です。
 ゴースト・ストーリーという惹句通り、幽霊が正面を切って現れる物語です。ただ読んでいると、誰が幽霊なのか、なぜ現世に現れたのか?というあたりは、早々に予想がついてしまいます。

 一番の読みどころは、謎の少女シシィに感化(というより洗脳といった方が近いでしょうか)されてしまった幼い従妹エマが、危ないことをしたり、傷つけられそうになるのをアリが何とか防ごうと努力を繰り返す部分でしょうか。
 このシシィ、非常に意地が悪く、気まぐれな行動をするだけでなく、罵倒を繰り返すのにも関わらず、なぜかエマはシシィの気に入られようと、言うがままに動いてしまうのです。シシィの正体を探ろうとするアリですが、毎回簡単に巻かれてしまいます。
 突然現れては突然消える、その神出鬼没さにアリはノイローゼ気味になってしまうほど。しかもシシィのせいで、エマが不審な行動を取ったりするのに対し、おばのダルシーはアリにその責任を負わせるような発言を繰り返すのです。
 過保護で自由を許してくれない母親に反発する形で旅行にやってきただけに、母親よりも自分を理解してくれていると思っていたおばの態度にアリがショックを受けてしまうくだりには、切なさがありますね。

 過去の悲劇にダルシーとクレア(アリの母)が関わっていることが段々と判明し、クレアに至っては、30年前からずっとトラウマを抱えて、神経症的な状態になってしまっています。持ち前の積極性から画家として成功しているというダルシーもまた、湖の別荘に来てから異常な精神状態になってしまうのです。
 シシィに感化されてしまったエマと、精神状態のおかしくなってしまったダルシーにはさまれる中、主人公アリがシシィにどう相対し、エマを守るのか?という部分はサスペンスがたっぷりですね。

 すごく大まかに言ってしまうと、幽霊の復讐譚であり、その意味では意外な展開はあまりないオーソドックスなお話なのですが、それに絡む家族の心情と軋轢が丁寧に描かれており、結末の予想はつきながらも、終始面白く読むことができます。
 また、登場する幽霊が、自分の立場と思いを切々と語る、というのもユニークではありますね。これだけ雄弁な幽霊も珍しいのではないでしょうか。将来を奪われた幽霊が、その悔しさを語るクライマックスのシーンには味わいがあります。

 幽霊と、それが生まれることになった悲劇、親子二代にわたるトラウマの蓄積と、かなりシリアスな問題意識の盛り込まれたお話なのですが、最終的には罪の赦しや救いの手がもたらされたりと、読後感は非常にいい作品です。
 幽霊に対して憎しみを抱いていたアリが、最終的には「共感」を示し、それが受け入れられる、というのもその一因でしょうか。

 作中で、子どもたちが読む沢山の絵本や児童書のタイトルが言及され、その点でも楽しい作品なのですが、その中のいくつかのタイトルに関しては、物語の設定としっかり結びついているところも良いですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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