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失われた時間  リンウッド・バークレイ『失踪家族』

失踪家族 (ヴィレッジブックス) (日本語) 文庫 – 2010/8/20


 リンウッド・バークレイの長篇『失踪家族』(高山祥子訳 ヴィレッジブックス)は、自分以外の家族が全て失踪してしまった少女が、数十年後に再度家族を捜そうとするというサスペンス作品です。

 ある夜、ボーイフレンドと共に羽目を外した14歳のシンシア・ビッグはその現場を父親に見つかり、喧嘩をした後にふて腐れて寝てしまいます。翌朝目覚めたシンシアは、父のクレイトン、母のパトリシア、兄のトッドの家族全員が姿を消しているのに気がつきます。家族は時間が経っても戻らず、彼らは何らかの事件に巻き込まれて失踪したと考えられます。
 それから25年、結婚し娘も生まれていたシンシアは、過去の失踪事件について、テレビのドキュメンタリー番組に出演することにしますが、それを機に、家族がまだ生きているかのようなメッセージがシンシアのもとに届きます。彼女は家族を探したいと考え、探偵を雇うことにしますが…。

 家族全員が行方不明になってしまった少女が大人になり、家族が生存しているのではないかという疑いを持ち始め、その行方を捜すというサスペンス作品です。
 何といっても、家族全員がある日何の痕跡も残さずに消えてしまうという、中心となる謎の吸引力が強烈です。あまりにも手がかりがなく、全く何も分からないのです。誘拐殺人なのか? だとするとなぜ娘のシンシアのみが残されたのか? 果ては、娘が家族を惨殺したという理不尽な噂までもが流れるのです。
 やがて現れたシンシアへの謎のメッセージ。兄や父の痕跡と思われるものを見つけたシンシアは、家族を再び探したいと考えるようになります。妻が精神のバランスを崩しているのではと考える夫のテリーも、半信半疑ながら妻の捜索に協力することになります。

 トラウマを抱えるヒロイン、シンシアの心理が丁寧に描かれています。娘のグレースに対して過保護になったり、夫が自分のことを信じ切っていないと感じ取って喧嘩になってしまうなど、危うい心のバランスを描く部分も読みどころでしょうか。
 雲をつかむようだった事件について、ちょっとした手がかりや証言から、少しづつ真相に近づいていく流れは非常にサスペンスフルですね。やがて殺人事件も発生し、主人公の家族に敵意を持つ者が存在することが示されます。

 シンシアの夫の「わたし」ことテリーがメインの視点人物として物語が語られていくのですが、妻を愛してはいるものの、妻が思い込みに囚われているのではないかなど、信じ切れない部分も出てきてしまいます。すれ違いが度重なり、一時的に妻と娘と離れてしまうことにもなるのですが、
 後半ではテリーの積極的な行動が描かれ、妻の過去に関する秘密、そして現在の妻の苦難を救うことにもなります。
 このテリー、良き教師という設定で、素行不良ながら文章の才能があるらしい少女ジェーンに所々で目をかけているのですが、後半これが伏線となって物語が展開するのも面白い趣向です。

 基本的には、結末までに謎が全て合理的に解明されるミステリ作品です。序盤で中心になる家族の失踪の謎が余りに魅力的なので、まとまるところにまとまってしまった感のある結末にちょっと不満を覚える読者もいるかもしれません。ただ、全篇にあふれるサスペンスは強烈で、魅力ある作品だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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