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黄昏の物語  W・デ・ラ・メア『デ・ラ・メア幻想短篇集』

デ・ラ・メア幻想短篇集 (日本語) 単行本 – 2008/5/1


 W・デ・ラ・メア『デ・ラ・メア幻想短篇集』(柿崎亮訳 国書刊行会)は、イギリスの詩人・作家デ・ラ・メアの、怪奇・幻想要素の濃い短篇を集めた作品集です。

 古い長持に近づいた子供たちが次々と消えてしまう「謎」、邪悪な顔をした老人を尾行したことからある屋敷に導かれる男を描いた「悪しき道連れ」、屋敷を相続した甥が死んだ伯母に取り憑かれるという「五点形」、変化のない死後の世界について語られる「三人の友」、少女が狂ったような女性に出会う「ミス・ミラー」、育った家に戻ってきた青年が幻影に囚われる「深淵より」、前妻の肖像画をめぐって夫妻の軋轢が起こるという「絵」、霊魂を追及するあまり、死後も妄念が生き続けるという「ケンプ氏」、ある女性の奇怪な悪夢が描かれる「どんな夢が」、生家を離れることになった初老の男が過去の記憶を想起する「家」、目の不自由な青年が家族の反対をよそに貧しい女店員に恋をするという恋愛小説「一瞥の恋」の11篇を収録しています。

 一番印象に残るのは、既訳もある名作「謎」でしょうか。
 「おばあさま」の家にやってきた沢山の子供たちが、屋根裏の古い長持には近づかないように注意されますが、禁を破って長持を開けてしまいます。その長持に入りこんだ子供たちは次々と消えていきますが…。
 子供たちが消えてしまうのにもかかわらず、そこに恐怖感はなく、どこか叙情的な雰囲気さえ漂います。結末に現れる「おばあさま」の描写も味わいがありますね。「神韻縹渺(しんいんひょうびょう)」と形容したいような、これは本当に名作です。

 デ・ラ・メアの小説作品、明らかに超自然現象が起こっているのは確かなのですが、それが具体的にどうなっているのか、作中人物に何が起こったのか? というところが曖昧で、読み終えて結局何が起こったのかが分からない…という作品も多数です。
 この作品集で言うと「絵」などは、情報が全く明かされず、仄めかしに終始しているので、本当に何がどうなっているのか全く分からないです。
 ただ、得体の知れない不気味さがあり、デ・ラ・メアにしか書けない作品であるのは確かなのですよね。
 「悪しき道連れ」「五点形」などは、割合ストーリーラインが分かりやすく、明確な怪奇小説として楽しめる作品です。

 「悪しき道連れ」は邪悪な顔の老人を見かけた語り手が、気になって男の後を尾行していくと、ある屋敷にたどり着いて、思いもかけないものを発見する…という話です。
 たどりついた屋敷が幽霊屋敷であったり、そこで幽霊が出たりするのであれば、幽霊屋敷物語としてオーソドックスな展開なのですが、この作品ではその構造が反転しているのが面白いところです。

 「五点形」は、資産家の伯母の屋敷を相続した甥が、そこに移り住んだことから異常な現象に悩まされるという物語。どうやら彼は伯母の例に憑依されているようなのですが…。
 一見、霊に取り憑かれたように見えるものの、甥の精神状態がおかしくなっている可能性もあるようにも読めます。

 家によって過去の幻影を呼び覚まされるというモチーフを共有しながらも、大分テイストが異なるのが「深淵より」「家」
 「深淵より」では過去の幻影がのしかかり、主人公の青年は死に追いやられてしまうのですが、「家」では生家を離れることになった男が、どこかノスタルジーを伴った幻影を見ることになります。その過去の回想には、悔恨の念が少し混じっているところが微妙な味わいを出していますね。

 巻末の「一瞥の恋」は幻想小説とは少しトーンの違う作品なのですが、これはこれで面白い作品になっています。
 完全に盲目ではないものの、目が相当に不自由な青年セシル。ある日、落とした手袋をきっかけに知るようになった女性に恋をするようになります。やがて彼女が貧しい店員であることをセシルは知ります。
 祖母のル・メルシエール夫人や、セシルの世話を焼く従姉妹のアイリーニはその恋に反対しますが…。
 主人公セシルは相手の顔をろくに知りもせずに恋をすることになります。その恋はプラトニックどころか、宗教的な熱情に近く、その描かれ方は、確かに「幻想的」ではありますね。この「一瞥の恋」、短篇としてはかなり長い作品で、人によってはこれを長篇と見なす人もいるそうです。
 純粋な恋愛小説として読んでも面白い作品だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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