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英雄の旅  ロバート・ネイサン『タピオラの冒険』

タピオラの冒険 (1979年) (ハヤカワ文庫―FT) 文庫 – 古書, 1979/11/30


 ロバート・ネイサン『タピオラの冒険』(矢野徹訳 ハヤカワ文庫FT)は、英雄に憧れる小犬が、仲間と共に冒険の旅に出るというファンタジー作品です。
 作品は「タピオラの旅」「タピオラの勇敢な連隊」の、大きく二部に分かれています。

「タピオラの旅」
 出版業者の妻ポッペル夫人の愛犬ヨークシャー・テリアのタピオラは、外の世界で何かを成し遂げたいという意欲にかられ、家を出ていくことを決意します。
 タピオラの決意を聞いた友人のカナリア、リチャードもその旅に同行することになります。途中で知り合った老ねずみのエレミアを加え、冒険を続けることになりますが、彼らの試みはなかなか成功しません…。

 臆病で小心者の犬のタピオラが、仲間と共に冒険の旅に出るという作品です。その意気とは裏腹に、トラブルに遭遇するたびに、タピオラは臆病風に吹かれて逃げ出したり、痛い目にあったりと、彼自身が望むような「英雄」とはほど遠い行動を取ることになります。出版社の家に飼われていただけあり、文学的な知識が豊富なタピオラは、ことあるごとに文学や哲学的な演説を繰り返し、自らの失敗や臆病さをごまかしていく、というのが楽しいですね。
 それは相棒となるカナリアのリチャードも同様で、自分を芸術家・歌手として任じるリチャードは、たびたび自分の音楽的な才能を誇示しますが、それは特に役に立たないのです。
 唯一、現実的に役に立つことになるのが、ねずみのエレミア。年老いた知恵者として描かれており、一行の中では比較的現実的な提案もすることになります。しかしその体の小ささもあり、彼に関しても劇的に活躍するということもありません。

 結局のところ、主人公の動物たちは理念こそ崇高なものの、何事も果たせず元の日常生活に戻ることになるわけで、その意味では、一種の諷刺小説といってもいいのでしょう。けれど、諷刺といっても、そこに登場人物たちに対する悪意や軽蔑の念などはありません。むしろ作者の暖かい視線があるだけに、読み心地は大変良い作品になっています。
 作中、タピオラが文学的な演説をするシーンで、作者ロバート・ネイサンの名前を言及するシーンもあり、そのあたりは楽しく読めますね。

「タピオラの勇敢な連隊」
 かっての旅から時間が経ち、自分が老いつつあることを感じていたタピオラは、巨大な原牛の夢を見ます。彼らに立ち向かうためにタピオラは軍隊を作ることを考えて、動物たちを集めていきます。
 相棒のリチャード、ねずみのエレミアのほか、鳩のヘンリー、エレミアの孫ミカなどを加えて、彼らは旅立ちますが…。

 時間を経て、再度旅立ったタピオラ一行の冒険を描く作品です。相変わらずメンバーは小動物ばかり、特に何もできずに帰還する、という流れは前編と同様なのですが、新たに加わったメンバー、エレミアの孫ミカは存在感を発揮しています。
 タピオラたちに憧れ、メンバーに参加したミカは美しいねずみの娘に出会ったり、強大な敵に向かっていったりと、タピオラたちよりもよっぽど活躍します。
 書かれたのが第二次大戦前夜という状況も関係しているのでしょうか、やたらと軍隊のイメージやアナロジーが使われています。ただ、前編と同様、主人公たちは全然活躍したり、敵を倒したりするわけではないので、「戦意高揚」的な意味で書かれたわけではないようですね。

 タピオラを含め、登場する動物たちが皆やたらとプライドが高く、持論や哲学的な談義を繰り返すのですが、それらの演説や議論がちょっと見当外れで「薄味」なところは、作者が諷刺的に描いているゆえでしょうか。
 その意味で作中で一番好感度が高いのは、やはりエレミアの孫のねずみのミカで、彼は自分が何も知らない若者だということを認識しているがゆえに、何事にも熱心なのです。クライマックスでは、タピオラの代わりに彼が「英雄」になることにもなります。
 最初から最後まで、肝心の主人公のタピオラは口だけで何もできない…というのも何とも可笑しいところです。これほど主人公が「成長しない」話も珍しく、その意味でユニークではありますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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