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ユーモアとファンタジー  ハンス・ファラダ『あべこべの日』
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 ドイツの作家、ハンス・ファラダ(1893-1947)の童話集『あべこべの日』(前川道介訳 ハヤカワ文庫FT)は、ユーモアとファンタジーに満ちた作品集。動物が主役になったり活躍したりする作品が目立ちますね。

 卵を生めないメンドリが体の一部を失うたびに、魔法使いの手により金属や宝石で身体を飾られてゆくという「不幸なメンドリ」、隠れるのが好きな少年の家が、姿を隠す魔法の帽子を持った動物たちに襲われる「魔法の帽子」、様々な出来事があべこべになってしまう日を描いた「あべこべの日」、弟を欲しがる少女が星の子と出会う「星の子」、作物を荒らすハリネズミを追い払おうとする男を描いた「忠実なハリネズミ」 、発音が不明瞭なために、言葉を聞き間違えた人々にトラブルを起こしてしまう少年の物語「もぐもぐペーター」、天涯孤独なメスネズミがパートナーを求めて冒険する「ネズミのぐらぐら耳」、罰として部屋の外に出された少年が、部屋の中で母親がするお話を何とか聞こうとする「短いお話のお話」、犬や家畜たちのように自分を養ってほしいと申し出る厚かましいネズミを描く「悪賢いネズミ」、孤児になった少女が祖母の言い残した言葉に従い幸運の金貨を求めるという「ターレル金貨」、子供を多く欲しいと思っていた父親が、実の二人の子供の他に空想上のきょうだいがいるかのように振舞う「空想のきょうだい」の11篇を収録しています。

 特に面白く読んだのは「不幸なメンドリ」「魔法の帽子」「もぐもぐペーター」 「ターレル金貨」などでしょうか。

「不幸なメンドリ」
 魔法使いのもとで暮らすメンドリが主人公。金や銀の卵を産む他のメンドリと比べ、普通の卵も生めないメンドリはわが身を嘆いていました。
 しかし、魔法使いはいずれメンドリを使って、死人をよみがえらせるスープが作れると考え、彼女を大事にしていました。その話を漏れ聞いた魔女の家政婦はメンドリを料理してしまいます。魔法使いは魔法でメンドリを蘇らせますが、片方の足は元に戻せません。
 黄金細工師に頼んで黄金の足を作ってつけることにしますが、それからもメンドリは災難に会い続け、その度に体の一部が金属や宝石に置き換わっていきます…。
 メンドリが魔法の力によってどんどんと「サイボーグ化」していゆくという物語。体がいくら飾られても、状況が良くなっても、不幸を嘆き続けるメンドリのキャラクターがユニークですね。

「魔法の帽子」
 物音を立てずにさっと隠れるので「さっちゃん」と呼ばれる少年を主人公にした物語。「さっちゃん」が留守番中、突然ドアが開きとっさに彼は姿を隠しますが、侵入者の姿は見えません。声だけがするのを聞く「さっちゃん」ですが、それによれば、彼らは小人から姿を消す魔法の帽子を奪いやってきたキツネとクマだというのです。両親が帰ってくればクマに殺されてしまうと考えた「さっちゃん」は何とかしようと策を練りますが…
 普段から隠れるのが得意な少年が、魔法の帽子を使ってやってきた動物たちを出し抜くという物語です。智恵と特技を使って敵を追い出そうとする少年の活躍が楽しい作品です。

「もぐもぐペーター」
 いつも口をもぐもぐさせて、ものをはっきり言わない少年ペーター。買い物を頼まれたペーターは出かけます。途中で出会った人々から話しかけられますが、もぐもぐ話したために、答えた言葉は全く違う風にとらえられてしまいます…。
 少年の言葉を全く違う風にとらえた人々が次々にひどい目にあってしまい、あとで少年が逆襲にあってしまうという物語です。主人公にとっては「災難」ではあるのですが、彼自身もそれを利用してずるいことをしたりするので、お互い様、という感じのお話になっていますね。

「ターレル金貨」
 お祖母さんと暮らしていた少女アンナ・バルバラは、祖母を失いますが、ターレル金貨を手に入れれば幸福になれるという遺言に従い、外の世界に出てゆくことにします。
 ハンス・ガイツという、のっぽで痩せた男から、自分のもとで働けば金貨を手に入れられるという話を聞きたアンナは、彼を信用し、ともに旅立ちます。しかし彼女に与えられた仕事は、地下室で大量の樽に詰められた硬貨を一つ一つぴかぴかに磨き上げることでした。
 逃げ出したいと考えるアンナでしたが、上には地獄から連れてきたという、炎を吐く二匹の犬が入り口を守っているのです。仕方なしに仕事に取り掛かるアンナでしたが、洗剤の入った瓶の中に小さな男がいることに気がつきます…。
 幸運の金貨を手に入れるために働く少女が、悪魔(のような)男に捕まってしまう…という物語です。膨大な硬貨を磨かなくてはならないという仕事の詳細がリアルで、ヒロインの感じる絶望感が伝わってくるようです。
 幸福の象徴が「金貨」、少女が科される仕事も硬貨磨きと、お金そのものがモチーフになっているところも、どこか寓意を秘めているようで、面白い作品になっていますね。
 集中でも幻想性の高い、本格的なファンタジー作品です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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