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子どもたちのための物語  リヒャルト・レアンダー『ふしぎなオルガン』

ふしぎなオルガン (岩波少年文庫) (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2010/3/17


 ドイツの作家リヒャルト・レアンダー(1830‐1889)による童話集『ふしぎなオルガン』(国松孝二訳 岩波少年文庫)は、医師だった著者が、従軍した独仏戦争(1870‐71)時に、故郷の子どもたちに向けて書いたという童話がまとめられています。

 思い上がったオルガン作りの若者がショックのために妻を置いて失踪してしまうという「ふしぎなオルガン」、小さな女の子が動物たちと語らい不思議な経験をする「こがねちゃん」、夢の中のお姫さまに憧れた男が夢の国の王様を助け、その国に招待されるという「見えない王国」、おっちゃこちょいな悪魔が聖水の中に落ちてしまう「悪魔が聖水のなかに落ちた話」、不信心な行いの罰として左半身が錆びてしまった騎士と彼の呪いを解こうとする敬虔な妻の物語「錆びた騎士」、互いに相手に対してないものねだりをする王様とそのきさきを描く「コショウ菓子の焼けないおきさきと口琴のひけない王さまの話」、何でも一つだけ願いの叶う魔法の指輪を手に入れた百姓を描く「魔法の指輪」、ガラスの心臓を持った姫たちと姫を愛する青年の冒険を描く「ガラスの心臓を持った三人の姉妹」、墓の前で遊ぶ幼い少年少女とその姿に生前を思い出す死者の老人を描く「子どもの話」、青年の嫁候補について母親が知恵を出すという「ゼップの嫁えらび」、王子が身分の低い女性を愛したことから困難が起こるという「沼のなかのハイノ」、生まれつき不幸なことを嘆く陰気な青年と幸福の塊のような姫との恋を描く「不幸鳥と幸福姫」、若返ることのできる臼を求めてやってきた老婆の物語「若返りの臼」、赤ん坊を運んでくるコウノトリと子どもを受け取った夫婦を描く「カタカタコウノトリの話」、神さまが恋人同士の少年少女の願いを叶えるものの行き違いになってしまうという「クリストフとベルベルとが、自分から望んでひっきりなしにゆきちがいになった話」、その根元で見た夢は本当になるという伝説のブナの木をめぐる物語「夢のブナの木」、仲睦まじかった夫婦が、小鳥のひなをめぐって仲たがいしてしまうという「小鳥の子」、神と天使たちの演奏する音楽をめぐるファンタジー「天の音楽」、びんぼう人とお金もちがそれぞれの天国と地獄に行くという「天国と地獄」、ほうぼうを旅行して歩く老人が手にしている汚いトランクの秘密を描いた「古いトランク」を収録しています。

 一番印象に残るのは「夢のブナの木」でしょうか。
 古くからある大きなブナの木には、その下で眠ると、見た夢が本当になるという伝説があり、村の人々はそれを信じていました。しかし意図的にそういう夢を見ようと試してみても上手くはいかないというのです。
ある日通りかかった職人は、木の下で眠ってしまい夢を見ます。それは、妻や子供とともに家族でテーブルを囲んでいるという夢でした。職人は、初対面の宿屋の娘に夢のことを話します。実際は違ったものの、夢で見たのは彼女だったと嘘をついたところ、娘は、青年は自分の運命の人だと信じ込みます。
 やがて娘と結婚した職人は、急死した義父のあとを継いで、宿屋の主人となり、安楽な地位を手に入れますが…。

 夢が叶うという伝説のブナの木をめぐって展開される物語です。実際に夢が現実になるかどうかについてははっきりせず、嘘(というほどではないですが)をついて、娘と結婚した青年が、結果的に夢のとおりの立場を手に入れる、という話になっています。
 面白いのはその後の展開。青年が嘘をついたことを妻が知ってしまいパニックになってしまうのです。自分は本来決められていた運命の相手と引き裂かれてしまったのではないか、ということと、自分は伝説に引き摺られていただけで、本当に夫を愛しているのだろうか?という疑問が、妻の頭の中に思い浮かんできてしまうのです。
 村人たちが皆、夢のお告げを信じているという前提なので、青年はそれを利用した形になるのですが、それさえも夢の運命で決められていたことなのか、ということも含めて、考えると「夢」と「現実」の相互作用について、面白い物語になっていますね。

 「魔法の指輪」も面白いです。
 ひょんなことからタカの子を助けて、お礼に何でも一つだけ願いを叶う魔法の指輪を手に入れた百姓。しかし金細工師にだまされて指輪をすり替えられてしまいます。大量のお金を願った金細工師は、お金につぶされて死んでしまい、百姓の方は指輪を本物と思い込み家に帰ります。願いを叶えるよう妻はたびたび夫に言いますが、夫はいざというときに使えばいいと、真面目に働いているうちに、立派な身代の持ち主になってしまう…という物語。

 思い込みと努力で、幸福を手に入れてしまう…という、良く出来た寓話になっています。
 印象に残るといえば、指輪を騙し取った金細工師が、上から降ってくる大量の銀貨によって圧死する…というシーンも、やけに凄惨なシーンで強烈なインパクトがありますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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