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ウェストールの短篇を読む  ロバート・ウェストール『遠い日の呼び声』『真夜中の電話』
 『遠い日の呼び声』『真夜中の電話』は、ロバート・ウェストールの全短篇から傑作を選り抜いたという作品集。それぞれ9篇ずつの短篇が収められています。


真夜中の電話 (児童書) (日本語) 単行本 – 2014/8/8


ロバート・ウェストール『真夜中の電話』(原田勝訳 徳間書店)

「浜辺にて」
 家族と共に浜辺に遊びに来ていた少年アランは、家族が眠ってしまっているあいだに、美しい水着の少女に話しかけられます。彼女は自分は既に死んでいる、と言うのですが…。
 白昼で展開されるゴースト・ストーリーです。これはなかなか怖いですね。

「吹雪の夜」
16歳の少年サイモンは、牧師の娘アンジェラと恋人になります。神を信じていないサイモンはしかし、アンジェラと共に奉仕活動をする内に、胸に暖かいものが芽生えるのを感じていました。しかし宗教的なことが原因で二人は喧嘩別れをしてしまいます。
吹雪の夜に妊婦のいる家に出かけようとしたアンジェラを心配したサイモンは、彼女を追いかけますが、二人とも遭難してしまいます…。
無神論者の少年と、敬虔な少女、真逆の信仰を持つ二人が、吹雪の夜の困難を通して心を通じ合わせる…という物語。互いに頑固なところのある二人がくっついたり離れたりを繰り返す過程にはドキドキさせられます。
前半の少年少女の恋模様といい、後半の吹雪の中の救助活動といい、いろいろな見せ場のある、面白い作品になっています。

「ビルが「見た」もの」
 失明した初老のビルは、失った視力の代わりに得た鋭敏な聴力とその洞察力で、身の回りの出来事を推察していました。家のそばにやってきた、不良じみた少年とその恋人らしき少女の会話を耳にしたビルは、何か不穏なものを感じ取りますが…。
 耳にしたことだけから、事件を推察するという「安楽椅子探偵」のバリエーション的作品です。主人公が耳にする音から、様々な出来事や情報を得る…という過程は、読んでいて楽しいですね。

「墓守の夜」
 妻を亡くした墓守の男セムには不思議な力がありました。埋葬した人間たちの霊が彼の前に現れて、話を聞くことができたのです。霊たちは、セムの前に現れては後悔や愚痴など、様々なことを話します。ある日、埋葬したばかりのミルリック医師がセムの前に現れます。
 彼は、生前から評判の悪い男でした。ミルリックが言うには、彼は完全に死んでおらず、身体を掘り出してもらえれば生き返れると言うのです。もしそうしなければ、ミルリックはセムにあることをすると、脅迫的な態度を取りますが…。
 霊と話せる孤独な男の心温まる物語、と思いきや、急転直下、非常に怖い話になるというゴースト・ストーリーです。こういうパターンのお話は、あまりないのではないでしょうか。

「屋根裏の音」
 父親が戦争に行ってしまってから、母親の健康がすぐれないことを娘のマギーは心配していました。ある日突然、母親が元気になったのを見てマギーは不審に思います。母親の留守中に屋根裏から何かがいるような気配を感じたマギーは、屋根裏を調べ始めますが…。これはお話の予想がついてしまうと思うのですが、味わいのある作品だと思います。
 親に対して愛情を抱きながらも、心無い言葉をかけてしまう、娘の心の不思議な動きが読みどころでしょうか。

「最後の遠乗り」
 バイクを乗り回し、いたずらを繰り返す「おれ」とその仲間たち。ある日、彼らは風変わりなカップルの乗った車に追い回されることになりますが…。
 無軌道な若者たちの青春を描いた作品です。著者ウェストールが息子を若くして失った直後に書かれており、著者も思い入れがあった作品だとか。

「真夜中の電話」
 人々の相談を電話で受けるボランティア団体のサマリタン協会。元支部長のハリーは、長年クリスマスイブの夜勤を一人で務めていました。急な病のため、ハリーの代わりを務めることになったジェフとメグの夫婦は、その夜、夫に殺されるという妻の電話を受けることになりますが…。
 殺人を予感させる電話を受けた夫婦が奔走するサスペンス、と思いきや、超自然味豊かなホラー作品です。夫婦が無事に一夜を過ごすことができるのか?というのがメインになりますが、なぜ支部長ハリーが長年一人で夜勤を務めていたのかがわかるラストにも、ある種の感動がありますね。

「羊飼いの部屋」
 山の上の家の「羊飼いの部屋」に泊まって過ごすことになった「ぼく」と友人のアラン。しかし設備もトイレもない家に対して、アランは文句を言い続けます。吹雪になり命の危険まで出てきたにも関わらず、何もしようと市内アランに「ぼく」は憎悪の念さえ覚え始めますが…。
 何もない山の家で吹雪から生き延びなければならなくなった二人の少年を描く物語です。この二人が水と油で、互いに憎み合うようになり、果ては殺意さえ覚え始める…という不穏な展開です。
 「ぼく」がいわゆるアウトドアに長けているのに対して、アランはそうした面が不得手なばかりか、文句ばかり言い募るのに対して、「ぼく」が段々といらついてくるのがわかる描写が見事ですね。物語は「ぼく」の一人称で語られていくのですが、最初は「アラン」と名前で呼んでいたのが、そのうちに「あいつ」とか「やつ」としか呼ばなくなってくる、という部分は面白いですね。
 解説にもありますが、本作品集に収録されている「吹雪の夜」とシチュエーションは似ていながらも、全く違ったタイプのお話になっているのが面白いところです。

「女たちの時間」
 戦争中の漁村で、少年の「わたし」は周囲の女性たちにかわいがられて育ちます。隣人のマージーは、10代で嫁いですぐに夫を失った未亡人でした。年齢の近い「わたし」はマージーと仲良くなりますが…。
 語り手の少年時代と「初恋」(?)がどこか夢幻的に描かれる作品です。随分時間が経ってから過去を回想するという形式になっており、ノスタルジックな雰囲気も濃いですね。



遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION) (日本語) 単行本 – 2014/11/12


ロバート・ウェストール『遠い日の呼び声』(野沢佳織訳 徳間書店)

「アドルフ」
 ふとしたことから、近所に住むアドルフという足の悪い老人の代わりに、買い物の用をいいつかった少年ビリー。ビリーは偏屈な老人のことを嫌いながらも、彼の話す戦争や世の中の不条理の話に関心を抱くようになっていきます。
 やがてビリーは、アドルフがナチスのある人物ではないかと疑うようになりますが、その噂は周囲にも広まってしまいます…。
 世の中の不幸や不条理について話す老人に惹き付けられていく少年の姿を描いています。現実的で世の中に対して働きかけようとはしない両親に比べ、老人の話は少年の知らない世界を知らせてくれるのです。
 老人の描く絵は残酷ながら、見ずにはいられない…という描写にはインパクトがありますね。老人が、かっての戦争での犯罪人ではないかとの思い込みは、やがて悲劇を導くことにもなります。
 戦争犯罪、罪の意識、貧困、周囲の思い込みによる迫害…。様々な問題意識が盛り込まれた意欲作です。

「家に棲むもの」
 独身で、なおかつその家に住み続けることを条件に遺産を譲る…。大おばから、奇妙な条件で相続を受けた若い女性サリーは、その家にいると、生気を奪われていくかのような感覚を覚えていました。ふと迷い込んできた野良猫を家に入れたことから、その感覚が楽になったことに気付いたサリーは、沢山の猫を飼うようになりますが…。
 家に取り憑いた何物かが若い女性を襲うというホラー作品。怪物の正体は最後まで分からないのですが、猫によってそれを追い払う、という展開はとてもユニークですね。

「ヘンリー・マールバラ」
 裕福な家に生まれ、資産家の青年とも結婚したジラは、その環境に不満を持ち、自立して何かを成したいと考えていました。ふと見た墓碑銘から知った遠い昔の男性ヘンリー・マールバラに憧れの念を覚えたジラは、彼が生きていた時代に興味を持ちます。
 新聞に記事を投稿するようになったジラは、やがてヘンリー・マールバラと彼が生きていた時代をモチーフにして小説を書き始めますが…。
 何不自由ない環境にありながらも、自立心旺盛な女性が、過去の一男性にロマンティックな憧れを抱き、そのエネルギーを糧に成功する…という物語。なのですが、そのロマンティックな憧れが砂上の楼閣でしかなかった…となる後半の展開は強烈な皮肉に満ちています。
 過去の幻影によって突き動かされていたと思っていたヒロインが、過去の幻影すら存在しなかったと悟る結末は、ちょっと怖いですね。ある意味、幽霊の登場しない幽霊物語、といってもいいような作品です。

「赤い館の時計」
 現実的な考えを持つ父親のもとで育った少年の「ぼく」は、長じて様々な道具や機械を修理することに喜びを見出すようになっていました。古物商のティップのもとで働くようになった「ぼく」は、村中から尊敬されていた少佐の家が破産したことを知ります。
 体の不自由な令嬢が亡くなった後、金貸しのマクリントックが原因で、父親の少佐も経済的に困窮し自殺に追い込まれてしまったのです。少佐の屋敷の品物を競売にかけることになり、ティップと共に家を訪れた「ぼく」は、音の出る仕掛けのある時計を見つけ、それに魅了されます。
 時計に目を付けたマクリントックはそれを自分のものとしますが、その時計の音は彼を苦しめ、結局、時計を捨ててしまいます。時計を拾った「ぼく」はそれを修理しようとしますが…。
 因業な金貸しが、自分が破滅させた相手の品物によって精神的に苦しめられる、という因果応報的なお話です。時計によって精神的に追い詰められた金貸しが何度も時計を捨てたり壊したりするたびに、「ぼく」が修理してしまう、という繰り返しが強烈ですね。
 悪人が罰を受けるという面では痛快なのですが、その過程で、共に時計を修理してくれた父親に愛情を覚える「ぼく」が、しかしその父親の無情さにも気がつき戦慄する、というサブテーマも盛り込まれており、さりげなくはあるものの、こちらのテーマの方が強烈な印象を残しますね。

「パイ工場の合戦」
 かっては貴族として高い地位を誇りながら、イギリスにやってきた今ではパイ工場を経営するシコルスキー伯爵夫人。彼女のパイは上手いと評判になっていました。パイ工場に住み、両親とともに働く少年の「ぼく」は、飼っている猫ゴライアスが、猟犬たちに襲われて殺されてしまのではないかと、恐怖を抱いていました…。
 これは猫が主人公と言ってもいいお話でしょうか。ゴライアスという強そうな名を与えられた猫が、その名に恥じぬ振る舞いをするお話になっています。
 パイを焼く伯爵夫人といい、猫に翻弄される猟犬たちといい、全体にユーモラスなお話ではあるのですが、その中にも、争いごとを好まない父親と、最終的には世の中に対して戦いを挑むことになる息子との間に、目に見えぬ壁が生まれてしまうというお話にもなっており、深いテーマの作品といえますね。

「遠い夏、テニスコートで」
 我流ながらテニスの才能を持つ少年ジミーは、ひょんなことから上流階級の娘であり、学校でも随一のテニスプレーヤーである少女フェリシティと一緒に練習をする仲になります。やがてほのかな恋心が二人の間に生まれますが、フェリシティが大会のパートナーにジミーを選ばなかったことから、二人は決裂してしまいます。フェリシティにライバル心を燃やす少女パットはジミーに、一緒に組んで、フェリシティに一泡吹かせてやろうと誘いかけますが…。
 ほのかな恋心を抱きながらも、階級的なものが原因で捨てられたと思い込んだ少年が、復讐のためにテニス大会で相手を倒してやろうと息巻く、というお話です。少年の恋心と裏切られたと思ったときの復讐心が強烈で、そのエネルギーで最後まで読み進めさせられてしまいます。

「空襲の夜に」
 両親を戦争で失った少年の「ぼく」は、海沿いの町で祖父母と共に暮らしていました。ドイツ軍の侵入に備えていた矢先のある夜、一人でいるところを「ぼく」は上陸したドイツ兵らしき男に襲われてしまいます。
 庭の穴に落ち込んで溺死しかかっていた兵士を「ぼく」はとっさに助けますが、彼をなぜ助けたのか、「ぼく」は思い悩むことになります…。
 少年は自分の両親を殺したことで憎んでいたドイツ軍の兵士をなぜ助けたのか…? ヒューマニズムにあふれた作品です。

「ロージーが見た光」
 戦争中、防空監視員になった大柄な娘ロージーは、突然の空襲に慌てて近場の避難所に逃げ込みます。しかしその中にいたのは陰鬱な人々ばかりでした…。
 陽気さのかけらもなく陰鬱な人々。彼らは何物なのか…。これはちょっと怖い怪奇譚ですね。

「じいちゃんの猫、スパルタン」
 愛する祖父の死後、その財産が息子である父親ではなく、孫である自分に直接遺されたことを知った少年ティムは、祖父の遺志を継いで農場の世話を始めます。現実的な母親とそれに感化されている父親は、祖父の家を売るように説得しようとしますが…。
 自然と動物を愛した祖父と、金や利得など徹底的に現世的な両親とが対比的に描かれます。やがて、祖父の遺志は、家を守ることだけでないと悟るティム。ただ両親に反抗するのではなく、彼らの考えも変えていこうと決心するラストには大人の味がありますね。
 祖父の遺した高齢の猫スパルタンも、脇役ながらいい味わいを出しています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「かかし」と「ブラッカムの爆撃機」も怖い。
息子さんは18歳で亡くなっているんですね。学校の先生らしい温かいお話もあるけと、殆どの作品に戦争と死の影がさしています。宮崎駿監督が大ファンだそうですね。
【2020/08/23 21:01】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
ウェストール作品、人気ももちろんあるのでしょうが、宮崎駿監督がファンであるおかげで、廃版にならずに流通している…という面もあるように思います。「かかし」「ブラッカムの爆撃機」もそうですが、この人の作品は結構怖いものが多いですね。
【2020/08/24 12:24】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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