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架空の短篇集『ダンセイニ怪奇小説集』の目次について
 昨年まとめて読み返していたロード・ダンセイニ作品。読んでいると、怪奇・恐怖小説的な要素が強い短篇がままあることに気付きました。
 ダンセイニの怪奇小説を集めた架空の短篇集を作ってみたら楽しいのではないかと思い、実際に目次を考えてみました。以下、『ダンセイニ怪奇小説集』(仮題)です。収録した個々の作品についても紹介しています。


『ダンセイニ怪奇小説集』目次

「食卓の十三人」『世界の涯の物語』河出文庫 収録)
「不幸交換商会」『世界の涯の物語』河出文庫 収録)
「チェスの達人になった三人の水夫の話」『世界の涯の物語』河出文庫 収録)
「流浪者クラブ」『世界の涯の物語』河出文庫 収録)
「三つの悪魔のジョーク」『世界の涯の物語』河出文庫 収録)
「幽霊」『夢見る人の物語』河出文庫 収録)
「潮が満ちては引く場所で」『夢見る人の物語』河出文庫 収録)
「哀れなビル」『夢見る人の物語』河出文庫 収録)
「オットフォードの郵便屋」『時と神々の物語』河出文庫 収録)
「エメラルドの袋」『時と神々の物語』河出文庫 収録)
「茶色の古外套」『時と神々の物語』河出文庫 収録)
「秋のクリケット」『時と神々の物語』河出文庫 収録)
「電離層の幽霊」『時と神々の物語』河出文庫 収録)
「狂った幽霊」『最後の夢の物語』河出文庫 収録)
「リリー・ボスタムの調査」『最後の夢の物語』河出文庫 収録)
「実験」『最後の夢の物語』河出文庫 収録)
「悪魔の感謝」『最後の夢の物語』河出文庫 収録)
「四十年後」『最後の夢の物語』河出文庫 収録)
「二壜の調味料」『二壜の調味料』ハヤカワ・ミステリ文庫 収録)
「新しい名人」『二壜の調味料』ハヤカワ・ミステリ文庫 収録)
「アテーナーの楯」『二壜の調味料』ハヤカワ・ミステリ文庫 収録)
「バルカンの魔女」『未収載短篇集Ⅱ』収録 ※同人出版)

「食卓の十三人」
 狩の最中に迷ってしまった語り手が一夜の宿を求めたのは風変わりな主人のいる館でした。主人は食事の席で自分たち二人以外にも客がいるようなふりをしていたのです…。
 結末の急展開が読みどころですね。風変わりなゴースト・ストーリー。

「不幸交換商会」
 パリにある「不幸交換商会」は災厄や不幸を他人と交換することができる店でした。わたしは自分の持つ「船酔いへの恐怖」の交換を希望しますが…。
 結末を含めて間然するところのない傑作。作中のセリフも警句のように気が利いています。奇妙な味の名品です。

「チェスの達人になった三人の水夫の話」
 ある日突然現れた三人の水夫を描く物語。彼らは必ず三人でしかチェスをしようとせず、しかしその状態でプレイすると達人にまで勝つことができるのです。一見素人の集まりの彼らの秘密とは…?
 ほら話的要素の濃い楽しい作品ですが、考えると、ちょっと怖い作品でもありますね。

「流浪者クラブ」
 ふとしたきっかけからエリティヴァリアの前王の晩餐に誘われた「わたし」は、館の地階で食事をすることになります。そこに集まったのは王の血筋を引きながらその地位を追われた人間ばかりでした…。
 零落した王族たちを描く風刺的な作品かと思いきや、とんでもない展開に。直接的に真相を描かないところが秀逸です。序盤から張られた伏線が結末の一行で判明するという構成は見事の一言。恐怖小説的な味わいの濃い作品です

「三つの悪魔のジョーク」
 風変わりな長所と交換に「三つのジョーク」との交換を持ちかけられた男は契約をしてしまいます。それらのジョークを聞いた人間は笑い死にしてしまうというのですが…。
 悪魔との契約もの。怪奇味とユーモアが渾然となった作品です。リドル・ストーリー的な味わいもありますね。

「幽霊」
 ある古い屋敷で「わたし」が出会った幽霊たちは「罪」の象徴をともなっていました。それらに触れた「わたし」にはいわれのない兄に対する殺意が生まれますが…。
 幽霊だけでなく彼らの残した「罪」が獣の姿になって現れるという寓話的な作品です。

「潮が満ちては引く場所で」
 ある忌まわしい行為のせいで地獄にも居場所がなくなり、潮が満ちては引く場所に死体を放置されることになった「わたし」。たまに埋葬されることがあっての、何者かによって再び同じような場所に放置されてしまうのです…。
 半永久的に苦しみ続ける魂の物語。夢の話と断りながらも、ひどく息詰るような物語だけに、結末にはカタルシスがありますね。読み方によっては、すごく怖い話です。

「哀れなビル」
 ことあるごとに船員に呪いをかける横暴な船長を食料とともに島流しにした船員たちは、船長の呪いにより船を港につけることができないことに気付きます。やがて食料のなくなった彼らがとった手段とは…?
 終始ユーモラスに語られながらも、内容は残酷かつハードな恐怖小説的作品です。

「オットフォードの郵便屋」
 毎年のように秘密めかした郵便を受け取る荒れ果てた丘陵の一軒家。妻にそそのかされてその秘密を探ろうとするオーットフォードの郵便屋が見たものとは…。
 恐怖小説的な味わいもある作品ですが、結末はやはりファンタスティック。

「エメラルドの袋」
 ある夜酒場を訪れた老人は巨大なエメラルドを入れた袋を持っていました。彼からエメラルドを奪った客たちを襲った運命とは…?
 人々を襲った存在の正体をはっきり描かないところが効果的ですね。語り手が最後まで見届けずに逃げるという演出も技巧的です。

「茶色の古外套」
 競りで茶色の古外套に執着する男の姿を目撃した語り手は、その外套に何か秘密があると思い高値でそれを落札します。やがて男はさらなる高値で外套を買いたいと申し出てきますが…。
 何かいわくがあるらしい古外套の秘密とは…。物語の展開もナンセンス極まりないのですが、結末ではさらに唖然とするようなシーンが描かれます。

「秋のクリケット」
 高齢の老人は誰もいない夜のクリケット場で観戦をしていました。彼には、死んだ名選手たちがクリケットの試合をしているのが見えるというのですが…。
 幽霊たちの試合を観戦する老人という、どこか叙情的で、ノスタルジックな雰囲気も感じさせる作品です。

「電離層の幽霊」
 改装した古い屋敷の「幽霊」が気になったジャン・ニーチェンズは、科学者の友人に頼み幽霊を除去するという装置を据え付けてもらいます。除去には成功するものの、思わぬ結果が男を襲います…。
 科学装置によって幽霊を排除しようというユーモア怪談。語り口も楽しい作品です。

「狂った幽霊」
 うら淋しい町ボーアーロウンを訪れた「わたし」は、町で何の反応も示さない余人の狂った男たちを目撃します。彼らは奇怪な体験をしたというのですが…。
 悪夢的な雰囲気を持つゴースト・ストーリー。戦慄度の高い「怖い」作品でしょう。

「リリー・ボスタムの調査」
 愛鳥家シモンズ氏が失踪してしまいます。少女探偵リリー・ボスタムは、シモンズ氏の顧客の一人ヴァネルト夫人が怪しいとにらみ独自の調査を開始しますが…。
 何ともファンタスティックな幻想ミステリ小説。完全に謎が明かされない展開も魅力の一端になっていますね。

「実験」
 クラブで罰せられない犯罪について議論がされていました。会員の一人が話し出したのは、生きながら人間の皮をはいだ男の物語でした…。
 ダンセイニ屈指の残酷な犯罪が描かれる作品。細かい描写はないものの強烈な印象を残しますね。

「悪魔の感謝」
 食品会社に勤める青年ボスターは、悪魔の訪問を受けます。彼の作った新商品が「悪いもの」として評価されたので、褒美を上げようというのです。ボスターは最高の詩が書けるようになりたいと願いますが…。
 人によってさまざまな反応を引き出す「悪魔の詩」を描くリドル・ストーリーです。

「四十年後」
 教師のブリンリイは、かっての教え子に会ったことから過去の体験を思い出します。ある日教室の教え子たちがみな大人の姿で見えたことがあったのです…。
 未来を幻視するという物語ですが、その「夢」を見ていることを当事者が認識しているというメタな展開が面白いです。

「二壜の調味料」
 調味料「ナムヌモ」を売り歩くセールスマンのスメザーズは、ひょんなことからリンリーという紳士とルームシェアをすることになります。リンリーは推理力に優れた男で、殺人と思しき難事件の真相を推理することになります。
 スティーガーという男が大金を持った娘と同棲した後、娘が姿を消してしまったというのです。死体が運び出された形跡はありません。しかもなぜかスティーガーは庭の唐松の木を切り倒しているというのですが…。
 残酷な事件を扱っていながらも妙なユーモアの漂う、まさに<奇妙な味>というにふさわしい作品です。特に結末の一文の破壊力がすごいです。江戸川乱歩が感銘を受け<奇妙な味>の代表例として挙げた作品ですが、それももっともと思わせる名作ですね。

「新しい名人」
 チェスに執着する男アラビー・メシックは、費用をつぎ込み人間を上回る知能を持つチェス専用機械を作り出します。しかし機械は人間以上の知能を持ちながらも、自らを誇り相手に嫉妬するという下品な性質を持っていました…。
 「人間的な」機械というユニークなアイディアを扱った作品です。いわゆる「フランケンシュタインもの」「ロボット怪談」の古典として挙げられることもある作品ですね。

「アテーナーの楯」
 探偵リチャード・ラクスビーは彫刻家ジェイムズ・アードンを疑っていました。彼の彫刻は人間そっくりと評価されていましたが、アードンが彫刻を学んだ事実も、材料である大理石を購入した形跡もないというのです。
 しかも彼の作品である女性像を、行方不明になった妹そっくりだと証言する男も現れるに及び、ラクスビーは、アードンはギリシャを旅行した際、ある品物を持ち帰ってきたのではないかと推測しますが…。
 ミステリ的な構成を持ちながらも、その実、完全な幻想小説です。ファンタスティックなモチーフ、そこはかとないユーモア…ダンセイニ後期の作品の中でも傑作といっていい出来の作品ではないでしょうか。

「バルカンの魔女」
 バルカン地方で魔女とされている老女が殺されそうになっているのを知った男は、自分が魔女の魔法にかけられれば村の者は安心だからと魔女の家に向かいます。
 魔法を信じない男は魔法をかけてみろと言いますが、気がつくと自分の姿が猫になっていることに気がつきます…。
 自身にかけられた魔法を解こうとする主人公が登場したり、魔女が使う魔法が漢字で記されているなど、長篇『魔法使いの弟子』ともかなり通底する要素を持った作品です。
 ただ、こちらの短篇では魔女はそれほど邪悪な存在ではなく、猫にされた主人公もその生活に馴染みそうになってしまうなど、どこか柔らかな雰囲気を持つ作品で、妙な味わいがありますね。

 ダンセイニ作品の場合、幽霊や悪魔、魔女などが出てきても、それほど怪奇・恐怖小説的な方向に向かわないことが多いのですが、たまに戦慄度の高い作品もあります。
 零落した王族たちの晩餐を描く「流浪者クラブ」、幽霊によって狂ってしまった男たちを描く「狂った幽霊」などは、かなり恐怖小説への指向性が高い作品ですね。
 ユーモラスな語り口ながら次々と人が死ぬという「哀れなビル」、脅威の正体がはっきりせず恐怖度の高い「オットフォードの郵便屋」「エメラルドの袋」なども怪奇的な作品でしょうか。
 自分の屍が何度も運ばれ放置されてしまうという夢幻的な短篇「潮が満ちては引く場所で」は、一見ファンタジーなのですが、かなり怖く、実質的に恐怖小説といっていいのではないかと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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