FC2ブログ
レンズの魔法  ジェイムズ・P・ブレイロック『魔法の眼鏡』

 ジェイムズ・P・ブレイロックの長篇『魔法の眼鏡』(中村融訳 ハヤカワ文庫FT 1991年発表)は、別世界が見えるようになる魔法の眼鏡を手に入れた兄弟が、閉じ込められた世界から脱出するために冒険するというファンタジー作品です。

 慎重な性格の兄のジョンと冒険家肌の弟ダニーの兄弟は、突然商店街の中心に現れた骨董店で、金魚鉢に入った綺麗なビー玉に目を惹かれます。彼らが拾った、両面とも表の一セント銅貨と交換にその金魚鉢を手に入れた二人は、家に帰ると、鉢の中に一緒に入っていた眼鏡をかけてみます。
 すると周囲の物が全く見えなくなる一方で、ある一つの窓だけが見えていました。それは近所の古い屋敷に住むミセス・アウルズウィックからもらった窓で、兄弟が壊してしまった窓の代わりにはめ込まれていた物でした。しかもその窓からは、森や小川など見たこともない光景が見えていました。
 ダニーに誘われ、ジョンは愛犬のエイハブと共に窓からその世界に入り込み、ちょっとした冒険をしようと考えます。しかし直後にゴブリンたちに襲われて、眼鏡の片方のレンズをなくしてしまいます。途端に入ってきた窓は見えなくなり、兄弟は家に帰れなくなってしまいます。
 再びゴブリンたちに襲われる兄弟を救ったのは、石鹸銃を持った太った中年男性ミスター・ディーナーでした。レンズを取戻し眼鏡を直さなければ、家に帰れないことを確信した兄弟は、ミスター・ディーナーとその仲間たちに協力してもらい、レンズを探そうと考えますが…。

 魔法の眼鏡により別世界に入り込んだ兄弟が、冒険を繰り広げるというファンタジー作品です。
 レンズを片方なくしてしまった結果、通ってきた窓が見えなくなってしまい、それを取り戻そうとすることになります。どうやらその世界のゴブリンたちが持っていってしまったようなのですが、そのゴブリンたちが現れた原因がミスター・ディーナーにあることが分かります。
 ミスター・ディーナーの仲間である少女ポリー、フロー伯母さん、ミセス・バーロウたちによれば、彼は心に問題を抱えており、その問題を解決することが脱出につながることにもなるというのです。

 襲ってくるゴブリンたちを撃退するのと同時に、いかにしてミスター・ディーナーの心の病の原因を探り、それを解決していくのか、といったところが物語の鍵になっていきます。
 世界そのものが、ミスター・ディーナーという人物の心のありようを反映しているというわけなのですが、心の良い部分と悪い部分が枝分かれして別の存在になっていたり、全く同一人物に見える人物が別の人格として存在していたりと、奇妙奇天烈ながらその世界観は魅力的です。

 主人公である兄弟も独自の個性を与えられていて、冒険家肌で積極的な弟ダニーと、弟を気にかけながらもいささか臆病で慎重な兄ジョンが冒険を通して成長していく姿も描かれます。特に弟を見殺しにしようとしたことを後悔するジョンが、自分を認められるようになるという部分には読み応えがありますね。

 窓、ガラス、眼鏡、金魚鉢、ビー玉など、ガラスやレンズなどが全体のモチーフとなっており、それらに魔法が掛け合わされるという世界観も魅力的です。
 コメディ調で語られる物語ながら、真摯なテーマも含んでおり、ファンタジーの良作といっていい作品だと思います。

 『魔法の眼鏡』の解説で、ブレイロックの短篇「十三の幻影」が言及され、傑作だという旨が書かれていました。そういえば掲載されている「SFマガジン」を持っていたはず、ということで取り出して来て読んでみました。こちらも紹介しておきましょう。

ジェイムズ・P・ブレイロック「十三の幻影」(中村融訳「SFマガジン1998年11月号」早川書房 収録)

 ランダーズは、カミングス未亡人から家を借り受けることになります。その家は1924年に建てられて以来、夫の死後も90歳になるまで夫人が住んでいた家でした。
 ランダーズは、屋根裏部屋にあった箱の中に、古い雑誌のつまった箱を見つけます。<アウスタンディング・サイエンス・フィクション>1947年の12月号の裏表紙に、スクワイアーズ・プレスなるところから刊行されたクラーク・アシュトン・スミスの限定本『十三の幻影』の広告を見つけたランダーズは、冗談半分に本の注文票を記入し、料金の一ドル札とともに封筒を送ります。
 一方、ニュートニアン協会の会合を行っていたスクワイアーズと友人のラトザレルは、本の注文票を受け取りますが、見たこともない精巧な切手と一ドル札を見て、手の込んだ悪戯なのではないかと考えていました…。

 人生にくたびれた男が、昔のSF雑誌の広告に冗談半分に出した封書が過去に届く、というジャック・フィニィ風のファンタジー短篇です。
 題材になっているのがSF雑誌やSFグループ、架空の本としてC・A・スミスが取り上げられているのが楽しい作品です。解説によれば、スミスの同名の短篇は存在しますが、単行本は存在しないそうです。
 過去に封書が届いたことを知った主人公が、その時代にはなかった品物を何か送ってやろうと、茶目っ気を出すところも洒落ています。特に劇的な出来事が起こるわけではないものの、しみじみとした味わいのある佳作です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/1148-6ea8c9d5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する