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小林泰三のホラー作品を読む


小林泰三『玩具修理者』(角川ホラー文庫)

 日本ホラー小説大賞受賞作品「玩具修理者」「酔歩する男」を収める短篇集。どちらも強烈なインパクトのある作品です。

「玩具修理者」
 壊れたおもちゃを何でも修理してくれる<玩具修理者>。あるとき、弟を誤って死なせてしまった「私」は、弟を<玩具修理者>に修理してもらおうと考えます…。
 人間も修理して生き返らせてしまうという、ファンタジー的な発想の作品ですが、その感触はファンタジーとはほど遠いです。
 <玩具修理者>がクトゥルー神話を思わせるのは愛嬌としても、死んだ弟や「私」の怪我から肉片やら汁やらが垂れてくる描写は、不必要なほどに濃いです。<玩具修理者>がカッターナイフで分解する過程もまた濃密。意外な結末も含めて、ホラー小説好きには非常に面白く読める作品ですね。

「酔歩する男」
 親友である小竹田との三角関係から自殺してしまった恋人、手児奈を生き返らせるため、血沼は、脳の意識を司る部分を破壊し、タイム・トラベルを試みます。しかし、タイム・トラベルには成功したものの、予期せぬ事態が起こってしまいます…。
 タイム・トラベルを扱っていながら、その肌合いはホラーのそれ。宿命の女ともいうべき恋人への執着が、語り手を悪夢へと引きずり込みます。タイム・トラベルは「能力」ではなく「能力の欠如」であるというテーゼが斬新ですね。
 時間の流れは意識の流れであり、脳の意識を司る部分を破壊すれば、タイム・トラベルが可能になるというのです。しかし破壊した部分は、時間の連続性を認識するためのものでもあったために、語り手は永遠に時間の中をさまようことになるという、想像するだに恐ろしい展開。
 ここまで絶望的かつ陰惨な目にあう主人公は、そうそういないのではないでしょうか。強烈なインパクトを残す名作だと思います。




小林泰三『人獣細工』

 3篇を収録した、力作揃いのホラー短篇集です。

「人獣細工」
 動物の臓器が人間に移植可能になった時代。その功労者である研究者の娘が語り手となって、父親のおぞましい実験の数々を語ります。父親によって手術をされた娘は、自分は人間なのかどうか思い悩みますが…。
 マッド・サイエンティストもの作品。手術や臓器の描写がグロテスクで強烈ですね。

「吸血狩り」
 8歳の「僕」は、祖父母の家に滞在していました。ほのかな恋心を抱く年上の従姉は、長身の黒ずくめの男に夢中になります。男が吸血鬼だと疑う「僕」は、男を撃退するためにいろいろな方策を講じますが…。
 幼い少年と吸血鬼との戦いを描く作品、なのですが、本当にそうなのか? という疑いを匂わせながら展開していきます。表面上の物語とは違った解釈も可能な作品になっています。

「本」
 小学校の同級生から送られてきた古びた本。それは小説とも評論ともつかない謎の本でした。本を読み始めた麗美子は不思議な体験をします。友人の未香の話で、同級生たちに同じ本が配られたことを知った麗美子は、彼らがどうなったか調べるべきだと提案します。
 その結果、本を読んだ人間は死んだり発狂していたことが分かります。本の何かが彼らを狂わせたと考える麗美子は、その呪いから逃げ出す方法を調べようとしますが…。
 一種の「クトゥルーもの」作品なのですが、登場する本の設定が非常にユニーク。作中で展開される芸術論、メディア論もなかなか力作です。芸術は情報だ、というテーゼは説得力がありますね。




小林泰三『脳髄工場』(角川ホラー文庫)

 粘着質な雰囲気が楽しいホラー短篇集です。

「脳髄工場」
 ほとんどの人間が、人間の理性や感情を抑制する「脳髄」を装着するようになった時代、主人公は「脳髄」が人間の自由意志をなくすものだと反発しますが…。
 この作家らしい、救いのない結末にはインパクトがありますね。

「友達」
 小心者の少年が、憧れの自分をイメージして話相手にしているうちに、相手が実在性を帯び始める…という話。ここまでならよくあるパターンなのですが、そこから先のひとひねりがなかなか面白いです。

「停留所まで」
 都市伝説をテーマにした作品。うわさ話をしているうちに、自分がその渦中にいることに気づく、という話。しかも語り手はそれに気がつかない…という技巧的な作品です。

「同窓会」
 二十年ぶりに、同窓会にあらわれた一人の女。彼女は「この世」に来られるはずがなく、出席者はみな驚愕しますが…。
 軽く楽しめるショートホラー作品です。

「影の国」
 会社からも家庭からも疎んじられている中年男。彼はコミュニケーションを断つことによって人間関係を消滅させることができると、精神科医に話します。それが高じるとこの世から消滅し「影の国」に行くことができるのだと。精神科医は一笑に付しますが、それを忘れてしまいます…。
 自分だけが実在だという「唯我論」テーマをひねった作品。世界全体が幻想なのではなく、自分に関するものだけ幻想だというところが面白いですね。

「声」
 ある時かかってきた電話の声。声の主は、株を即刻売るように指示します。指示に従わなかった結果、損をした「わたし」は声が未来の自分だと知りますが…。
 過去改変テーマの作品ですが、それをホラー風味で語ったところに新味がありますね。

「C市」
 「クトゥルー」に対抗するために世界中の科学者の知を結集して作った最終兵器。しかし自らを増殖し巨大化した兵器は、恐るべき怪物になってしまいます…。
 自分たちは怪物を作るための道具でしかなかった…という逆説的な結末がユニークなクトゥルー神話作品。

「アルデバランから来た男」
 探偵事務所に現れた男はアルデバランから来た異星人だと名乗ります。男は反政府の罪で追われていると語ります。政府は、人口解消のために人格をコピーした上で実在の人間を削除しているというのですが…。

「綺麗な子」
 近未来、見た目は本物と全く変わらぬペットが流行していました。粗相もせず、充電も自分でするペットに慣れきった人々は、やがて人工の子供を欲しがるようになりますが…
 外見が本物と全く変わらず、愛情も示すペットや人間は、本物と変わらないのではないか? というシリアスなテーマを打ち出しています。破滅SFのヴァリエーションとしても面白い作品です。

「写真」
 心霊写真を受け取った鑑定家のもとに、写真の当事者の少女が現れます。この写真を見た人の元にはやがてその霊があらわれるという少女ですが、鑑定家は信じません…。
 「同窓会」と同様、ひっくり返しが楽しいショート・ショート的作品。

「タルトはいかが?」
 姉の元に弟からの手紙が届きます。弟は、血の混じったお菓子を食べなければ体がおかしくなる、と奇妙なことを書いてきます。事態はエスカレートし、彼は勤め先のホストクラブでつかまえた女の血を搾り取るようになります…。
 吸血鬼もの作品。ミステリ的な仕掛けが面白いですね。




小林泰三『肉食屋敷』(角川ホラー文庫)

 4篇収録、安定した出来のホラー短篇集です。

「肉食屋敷」
 古代生物を再生しようとした研究者が、間違えて地球外生命体を復活させてしまいます。生物を取り込み屋敷と一体化した怪物は、さらに人間を取り込もうとしますが…。
 「ジュラシック・パーク」をホラー風味で語ったような作品。怪物が粘液質で気色悪いのが小林泰三風味でしょうか。

「ジャンク」
 人間を狩って死体を売りつける〈ハンター〉、そしてその〈ハンター〉を狩る〈ハンターキラー〉。主人公の〈ハンターキラー〉は、胸に恋人の女の顔を移植していました。彼は途上で〈ハンター〉に襲われてしまいますが…。
 西部劇風の世界にゾンビをもちこんだ異色作品です。相変わらず粘液質な描写が光ります。特に腐りかけの「人造馬」の描写は秀逸ですね。

「妻への三通の告白」
 寝たきりになった愛妻「綾」への手紙が新しい順に並べられます。過去に妻を争った磯野に再会した語り手は、彼の態度に困惑しますが、その真相が徐々に明らかになります…。
 妄想を膨らませてゆくという、歪んだラブストーリーです。

「獣の記憶」
 多重人格者である男は、もう一人の人格「敵対者」から攻撃的な振る舞いを受けていました。「敵対者」とのコミュニケーションに使われるノートには、彼を挑発する不可解な言葉が書き連ねられます。とうとう「敵対者」は殺人を犯してしまいますが…。
 多重人格ものの新機軸。「バカミス」に近い風味の作品なのですが、タッチは本格的なホラーのそれという、面白い味わいの作品です。




小林泰三『目を擦る女』(ハヤカワ文庫JA)

 SFホラー的な作品が集められた短篇集です。仮想世界や唯我論的なモチーフを扱った作品が多くなっています。

 この世界は私が見ている夢だという女を描く「目を擦る女」、不可能犯罪から超絶的な推理を導き出す探偵の物語「超限探偵Σ」、人間の脳を奪う異星人と人類の闘い「脳喰い」、タイム・パラドックスをユーモラスに扱った「未公開実験」、算盤計算によって作られた仮想世界を描く「予め決定されている明日」などが面白いですね。

 表題作「目を擦る女」は文字通り「世界を夢見る」女というボルヘス的なテーマを扱っています。女は本当に世界を夢見ているのか、それとも妄想なのか…。
 SFともホラーともつかぬ味わいの作品です。

 「超限探偵Σ」は、不可能犯罪はありえない、不可能でないか犯罪でないかだ、とする立場から、唖然とするような結論を導き出す探偵の話。唖然とはするのですが、確かに論理的にはおかしくないところが逆にすごいです。

 「予め決定されている明日」は、仮想空間に構築された世界を扱った作品なのですが、その世界が算盤を使って計算されているというユニークな設定。電子計算機というものが実在しない世界で、それならば仮想空間で計算してもらおう、という発想には腰を抜かします。
 仮想空間、ヴァーチャル・リアリティを直接扱った作品に限らず、現実とは異なった異様な世界が説得力豊かに描かれているのが魅力です。ハードSF的な当否はわかりませんが、その世界の異様さ、奇妙さだけでも惹かれてしまうものがありますね。




小林泰三『人外サーカス』(KADOKAWA)

 メジャーな場で芽の出なかったマジシャンの蘭堂は、自分の芸を活かせる場としてサーカスに入ります。しかしそのサーカス「インクレディブル・サーカス」は経営不振で、しかもメンバーの大部分が引抜にあい、わずかな人数しか残らなくなっていました。
 脱出マジックで致命的なミスをして以来、蘭堂は鬱々としていましたが、そんな折、団員たちを異形の怪物たちが襲います。吸血鬼だと名乗る彼らは、人間離れした怪力と能力を使って団員たちを殺そうとします。団員たちは劣勢に立たされながらも、自分たちの特技を使って吸血鬼たちを撃退しようとしますが…。

 廃業寸前になったサーカスの団員たちが吸血鬼の群れに襲われてしまう…というホラー作品です。この吸血鬼たちの能力がすさまじく、人間離れした怪力なのはもちろん、怪我を負わしたり体の一部が吹っ飛んでもあっという間に再生してしまったり、さらに変身能力や飛行能力もあったりするのです。
 「インクレディブル・サーカス」と吸血鬼たちが遭遇する前に、吸血鬼に対抗する公的機関と吸血鬼たちの戦闘シーンが描かれ、高い戦闘能力を持つ機関員たちでさえ吸血鬼には莫大な損害を負わされていることが描かれます。
 それだけに、戦闘には素人であるサーカス団員たちが、いかに工夫して吸血鬼を撃退するのか?というところが読みどころになっています。団員たちが射撃や空中ブランコ、動物使いなど、それぞれの役割を生かして吸血鬼たちに一矢報いるシーンには爽快感がありますね。
 主人公の蘭堂に至っては、大技である脱出マジックの仕掛けを使って戦うなど、まさに力対技、といった趣があります。
再生能力を備えているだけに、吸血鬼たちは自分の肉体が損壊するのにも頓着しないのですが、その肉体の損壊や再生シーンなどのグロテスクさは強烈で、このあたり、著者の面目躍如、といった感じもあります。
 智恵を絞って一矢報いるものの、力及ばず死んでしまう団員もあり、誰が生き残るのか?といった面でのハラハラドキドキ感もありますね。
 また、著者の別作品でもお馴染みのキャラがゲスト出演していたりと、そうしたお遊びも楽しいです。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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