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<不思議>な物語  レオポルド・ルゴーネス『アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集』

 レオポルド・ルゴーネス『アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集』(大西亮訳 光文社古典新訳文庫)は、ボルヘスも影響を受けたという、アルゼンチンの作家レオポルド・ルゴーネス(1874~1938)の傑作集。独特の幻想世界が魅力の作品集です。

「ヒキガエル」
 ヒキガエルを殺してしまった少年に対して、女中は、ヒキガエルは焼き殺さなければ復讐のため生き返るのだと話します。彼女が友人アントニアの息子に実際に起こったこととして話し出したのは…。
 ヒキガエルに関する迷信と思われたものが実際は…という恐怖小説。テーマがヒキガエルだけに、どこかユーモラスなものを感じてしまうのですが、その実、かなり怖いお話になっています。

「カバラの実践」
 「わたし」が女友達カルメンに語ったのは、友人エドゥアルドが体験したという話でした。エドゥアルドは若い女性の骸骨の標本を手に入れて、それに話しかけていたところ、骸骨の代わりに美しい女が現れたというのです…。
 どこか官能的な要素も感じさせるゴースト・ストーリー。結末にはブラックなユーモアがあふれています。

「イパリア」
 独り身の男が引き取った身寄りのない少女イパリア。長ずるにつれ美しくなっていくイパリアでしたが、彼女は自分の美貌に見とれるあまり引きこもります。地下室の壁を見続るイパリアは、壁には自分の姿が映っているのだと話しますが…。
 自らの美貌を愛するナルシスティックな少女が描かれる作品ですが、その展開はファンタスティック。結末にも奇妙な味わいがありますね。

「不可解な現象」
 「わたし」は紹介状を持って、いささか変わり者だというイギリス人の屋敷を訪れます。「わたし」と意気投合した男は、自分がヨガの修行によって得たという能力のことを話し始めますが…。
 これは何とも奇妙な味わいのストーリー。男の語る話は妄想なのか真実なのか…? どこか、レ・ファニュの名作「緑茶」と通底するところもある作品ですね。

「チョウが?」
 幼なじみで恋人同士のリラとアルベルト。しかしリラは幼い内に亡くなってしまいます。チョウの採集を趣味とするアルベルトは、時間が経つにつれリラのことも思い出さなくなっていました。ある日、見たこともない美しいチョウを捕まえたアルベルトはチョウに針を刺しますが、なかなかチョウが死なないことに驚きます…。
 チョウをモチーフにして、幼い恋人たちを叙情的に描く物語かと思いきや、とんでもなく残酷な結末に驚かされます。「時間」「変身」「夢」など、短い中にも多様なモチーフが詰め込まれている幻想作品です。
 リラとアルベルトのお話自体が、「ぼく」がアリシアに語った話とされており、メタフィクショナルな構造の作品ともなっています。

「デフィニティーボ」
 精神病院に収監された患者は「デフィニティーボ」について熱く語ります。「デフィニティーボ」とはいったい何なのか…?
 「デフィニティーボ」とは何なのかをめぐる、シュールな奇譚です。

「アラバスターの壺」
 ニール氏はエジプトの古代魔術についてある話を始めます。責任者のカーナーヴォン卿と共にエジプトの墳墓発掘に赴いたニールは、部屋の入り口にアラバスターの壷を見つけますが、カーナーヴォン卿がその栓を外した途端に、異様な香りを嗅ぎます。
 同行したエジプト人の召使いムスタファは、それは〈死の芳香〉であり、それを嗅いでしまったカーナーヴォン卿は死んでしまうだろうと予言しますが…。
 古代エジプトの呪いを描いています。神秘主義的な色彩が濃い作品ですね。

「女王の瞳」
 ニール氏の自死を聞き、彼の葬儀に訪れた「わたし」は、帰路、見知らぬ男と一緒になります。ニール氏の死に謎のエジプト人女性が関わっていることを告発しようとする「わたし」に対して、彼女の後見人だと名乗る男は、女性をかばいます。彼女は、古代エジプトのハトシェプスト女王の生まれ変わりだというのですが…。
 古代のエジプトの女王の生まれ変わりをめぐる神秘小説です。話自体に起伏はあまりなく、著者のエジプト趣味を楽しむ作品といったところでしょうか。前作「アラバスターの壺」よりも更にミスティックな雰囲気の作品になっています。

「死んだ男」
 その男は数十年も前から、自分は死んでいると言い張っていました。しかし、周囲の人間はまともに取り合いません。ある日、その男が死んでいるふりをしているところに、よそ者の二人の人夫が通りがかりますが…。
 数十年前から死んだといい続ける男は狂っているのか、それとも…? E・A・ポオの某作品を思わせる怪奇小説です。

「黒い鏡」
 パウリン博士が出してきたその黒い鏡は、思い浮かべた人の姿を写すことの出来る魔法の鏡だといいます。実際に試してみてほしいと言われた「わたし」はなぜか、処刑された犯罪者の姿を思い浮かべてしまいます…。
 思念によって人の姿を写すことの出来る鏡をめぐる奇談です。浮かび上がった霊(?)の姿が怖いですね。
 魔法とはいいつつ、博士が語るその魔法の仕組みは論理的で、疑似科学的であるのも面白いところです。

「供儀の宝石」
 敬虔な修道女である従妹エウラリアは、司教のための上祭服に素晴らしい刺繍を仕上げます。礼拝の当日、一羽の鳩がエウラリアの前に現れますが…。
 これはキリスト教的な奇跡譚というべきでしょうか。結末の情景にはインパクトがありますね。

「円の発見」
 狂気に取りつかれた幾何学者クリニオ・マラバルは、精神病院に収監されていました。彼は、円の中に入っていれば不死が達成されると思い込んでおり、円を地面に描いてはその中に入っていました。しかし、病院に着任した新しい医師はそれを妄想とし、円を消してしまいます…。
 円の中では人間は不死になるという、どこかボルヘスを思わせる〈奇妙な味〉の作品です。マラバルの死後に起きる現象はかなり不気味で、恐怖度が高いですね。

「小さな魂(アルミータ)」
 不毛の土地に暮らす、幼なじみの幼い少女ソイラと少年フアンシート。ソイラが死んでしまったことを受け入れられないフアンシートはある日、歩いて姿を消してしまいます…。
 少年と少女は再び出会うことができたのか? これは美しい幻想小説ですね。

「ウィオラ・アケロンティア」
 その庭師は「死の花」を作るために試行錯誤していました。色を黒にするのを皮切りに、毒を持つ植物を周囲に植え影響を与えようとするなど、その行為はエスカレートしていきます…。
 「死の花」を作ろうとする庭師の物語です。作中に登場する、声を発する植物も不気味なのですが、植物について語る庭師の言動がそれ以上に禍々しいという作品です。

「ルイサ・フラスカティ」
 ある夜、「わたし」は通りがかった家で美しい娘を見つけ、挨拶を交わすようになります。やがて互いに恋を語るようになったその娘ルイサ・フラスカティは何故かいつまでも、暗い中でしか会おうとしません…。
 暗闇の中でしか会おうとしない娘の秘密とは…。〈奇妙な味〉の恋愛幻想小説です。

「オメガ波」
 変わり者の科学者は音を力学的に研究しており、その結果、音をエネルギーとして変換する装置を開発します。装置から出るエネルギー波はオメガ波と呼ばれ、それが当たると、あらゆる物質は崩壊してしまうのです。しかし、その装置は他人が触っても効果がなく、科学者当人が操作しなければ作動しないのです…。
 あらゆる物質を破壊するエネルギー波を開発した科学者を描く物語です。ブラックユーモアも感じられるSF風味の作品になっています。オメガ波について説明する、科学者の疑似科学的な蘊蓄も面白いですね。

「死の概念」
 妻が亡くなった後、病気になってしまった友人セバスティアン・コルディアル。妻の死に関してセバスティアンに責任があるのではないかという噂を「私」は信じていませんでした。人手のなくなったセバスティアンの看護は「私」とラミレスとで行っていました。
 妻が可愛がっていた犬は、妻が死んで以来、寝室に立ち入ろうとしなくなったのに「私」たちは気がつきますが…。
 霊というべきか、思念というべきか、ゴースト・ストーリーの変種的な作品です。

「ヌラルカマル」
 考古学的な価値を持つ金細工の出展者であるアルベルティは、便宜を図ってくれたお礼にと「私」にある話を始めます。彼は恋をした部族の長の一人娘ヌラルカマルと結婚するために、占星術師モアズの手を借り、金細工を手に入れたというのですが…。
 東洋的な転生を扱った幻想小説です。ルゴーネスはゴーチェを愛読していたとのことですが、アラブやエジプトが背景として登場する作品がまま現れるのは、ゴーチェの影響なのでしょうか。

 ルゴーネスの作品、エジプトやアラブなどオリエンタリズム的なモチーフは別として、作品自体の骨格は、英米型の怪奇幻想小説に近いものが感じられますね。名前を伏されて読んだら、A・ブラックウッドやE・F・ベンスンかと思ってしまいそうな味わいの作品も多数です。英米の怪奇幻想小説やゴースト・ストーリーが好きな方には、楽しく読める作品集だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
火の雨も心に残ります。
小説も不思議な読後感ですが、ルゴーネス本人と血縁者が辿った数奇な運命も・・・。オラシオ・キローガもですがラテンアメリカの作家さんは小説よりもドラマチックな人生を送っているのですね。
【2020/08/17 20:58】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
ラテンアメリカの作家は、実人生も波乱に飛んだ作家が多いですよね。ルゴーネス、「火の雨」も良いと思います。
【2020/08/18 17:56】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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