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〈奇妙な味〉の物語  ジョーン・エイケン『レンタルの白鳥 その他のちょっと怖いお話十五篇』

 ジョーン・エイケン『レンタルの白鳥 その他のちょっと怖いお話十五篇』(秋國忠教訳 文芸社)は、児童文学作家として有名な著者の、大人向け幻想短篇を集めた作品集です。

「間借り人」
 子どもを見てくれていた間借り人が急に部屋を出ていってしまい、ローズは困っていました。息子と娘が同時に病気にかかってしまい、仕事も急に休むことはできないのです。そんな折、勤務先の上司の紹介だというコールゲイト夫妻が部屋を間借りしたいと訪れます。
 子どもの面倒も見てくれるということで喜ぶローズでしたが、夫婦の行動は常軌を逸していました…。
 異様な夫婦を間借り人として置いてしまったシングルマザーの物語です。夫婦は傍迷惑な性格だけでなく、どうやら怪しい魔術のようなものさえ行っているようなのです。スラップスティックなコメディ調でありながら、結末の戦慄度は高いホラー作品です。

「ミセス・コンシディーン」
 ジューリアはミセス・コンシディーンのもとで刺繍を習うことになり、彼女の家に入り浸るようになります。ジューリアには奇妙な能力がありました。夢で見たとおりに現実に事件が起こるのです…。
 予知なのか、それとも現実を変える力なのか、どちらかはわからないのですが、現実が夢に見たとおりになってしまうという少女を描く物語です。幸運の夢らしいものがある一方、悪夢のようなものもあります。結末でミセス・コンシディーンに起こる夢は、本当に悪夢のようで気味の悪い作品になっています。

「シワニー・グライド・ダンス」
 女中だった姉モードが資産家の伯爵と結婚したことで、立派な屋敷に住むことになった妹ノーラ。夫の死後未亡人となった姉とともに数十年も暮らしているノーラは、姉のせいで婚期を逃したことを根に持っていました。
 そんな折、リスを処分するための毒入りクルミを運んだトラックが盗まれ、そのトラックを盗んだ連中が屋敷の隅に隠れて車を止めているのにノーラは気がつきます…。
 結末は途中で予想できてしまう人が多いと思うのですが、物語の筋がどうこうというよりも、主人公である妹ノーラと姉のモードの性格や確執が事細かに描かれており、その人物描写だけでも面白く読めてしまいます。
 タイトルとなっている「シワニー・グライド・ダンス」は、夫が発明したというダンスで、それによって収入を得ていることを恥ずかしく思っている…という描写は上手いですね。

「聴き方」
 音の「聴き方」について教えている女教師ミセス・シェイバーに終身在職権を与えるかどうかで、彼女の授業を査察することになった教師のミドルマス。その内容に感銘を受けるミドルマスでしたが、途中でミセス・シェイバーの家に泥棒が入り、彼女が長年録り溜めたテープが壊されてしまったことを聞かされます…。
 オチらしいオチはなく、ミセス・シェイバーの授業や彼女の被った災難などを通じて、主人公の教師ミドルマスの中に生じた心象や意識の流れが描かれていくという、何とも奇妙な味わいの短篇です。文学味も強いですね。

「コンパニオン」
 充分な資産も持ちながら、退屈な田舎のコテージに住み続けるミセス・クライラード。かってその家で家政婦をしていたミス・モーガンはその能力の無さから解雇されてしまいますが、ミセス・クライラードに自分を雇ってくれないかと何度も頼んでいました。
 妹と同居することになったミス・モーガンが去ってしばらくしてから、ミセス・クライラードは部屋の中に霊的な何かを感じ取ります。霊的なことに詳しい地方執事の旧友ロウジャーは、霊媒を連れてミセス・クライラードの家を訪れることになりますが…。
 極めて人間的な幽霊を描いたゴースト・ストーリーです。生前同様、死後も無力ながら、住む人間の気を重くさせるという幽霊が描かれています。主人公の女性が一人で何でも出来て不満を覚えない性格という設定なのですが、そのあたり「幽霊」と対比的に描かれている節もありますね。

「レンタルの白鳥」
 作品が飛ぶようにヒットする劇作家デーヴィッドは、快適なフラットに住まいを移すことになります。その部屋の契約には執事がついているのみか、白鳥までもがついていたのです。やがてデーヴィッドの生活に白鳥はなくてはならない存在になりますが…。
 部屋に住み着いた白鳥の正体とは…? おとぎ話を現代風の装いで語り直したモダン・フェアリー・テイルです。ただ結末は少々ブラック。

「ウサギ肉の煮込み料理」
 妻のセアラは、セールスマンのコーンと浮気のまねごとをしていました。射撃の名手である夫ヘンリーは、コーンのそばに矢を打ち込みます。殺されかねないと警告するセアラに対し、コーンは頓着せずに彼女との不倫を続けますが…。
 夫婦と浮気相手の男の三角関係を描いたクライム・ストーリーです。妻は浮気性、夫はいささか異常な性格だけに、物語の展開もブラックです。

「黒と白のゲーム」
 誕生日を迎えた少年トウビーは、歯医者の後に母親から自転車を買ってもらう約束をしていました。店で待ち合わせていたトウビーは、やってきた母親が彼女に似た別人であることに気づき愕然とします。
 本当の母親が自分に似た少年と一緒にいるところを見たトウビーは逃げだそうとしますが…。
 母親が姿の似た別の存在に入れ替わっている…という幻想作品です。子どもの視点から描かれるだけに、その不気味さと恐怖感は強烈ですね。非現実的な事件の顛末を聞いた歯医者が、それを自然に受け入れてしまうという部分も含め、後半の展開はどこか悪夢のようです。

「笑う時刻」
 人の気配がしないのをいいことに資産家の夫妻が住んでいるはずの立派な屋敷に忍び込んだ少年マット。窓を間違えて閉めてしまい、他の場所から外に出ようと中を探索することになります。妙な笑い声を聞いたマットはそれが時計の音だと言うことに気付きます。しかも家の中には老婦人がいることにマットは気がつきますが…。
 無人だと思って入り込んだ家の中で不気味な老婦人と遭遇する少年の物語です。間の悪いところを見つかった少年が老婦人の言うがままに動くのですが、老婦人の意図がよくわからないだけに、不気味な雰囲気が醸し出されています。

「彼」
 大おばのギーザラは、かってポーランドから祖母とともに移民として船旅をしてきた過去を語り出します。家族の友人ミセス・ポーラナーは、旅の途中で乱暴な少年に怪我を負わされ、それが元で死んでしまいます。ギーザラはミセス・ポーラナーが遺した、願いを叶えるという不思議な箱に向かって、少年が痛い目を見るようにと願いますが…。
 友人の復讐のための呪いが自らに返ってきてしまうという、ひたすら暗く、救いのない物語です。これは怖いですね。

「カルーソーにまつわるお話」
 亡き夫の高齢のおじロウジャーを好意から引き取ったロレーンは、おじとの同居に嫌気がさしていました。それは徐々に殺意にまで発展していきますが…。
 親戚との同居生活(この場合義理ですが)に嫌悪感を覚え始める未亡人を描いた物語。自らの意思で引き取ってはいるものの、そのストレスに耐えきれなくなっていく心理がじっくりと描かれるという「嫌な物語」です。

「助手」
 かって娘の親友だった少女メニスプ。その父親アヴェラーン教授が開発したロボットの特許の販売のために、パリを訪れたフロスト。しかし妻子の死の間接的な原因となった父娘のために働くことに嫌悪感を覚えた彼は、仕事に手を付けず放置してしまいます…。
 物語が始まった時点で、主人公の妻子は亡くなっているのですが、その遠因となったのが現在訪れている家の父娘であることが仄めかされます。過去に主人公の娘と父娘との間に何があったのかははっきり描かれないのですが、父娘に対する主人公の考えが正当なものであるのか、また嫌悪感を抱いている親子の特許販売になぜ協力する気になったのかなどを含めて、人間心理の不可解さが描かれた作品ともいえるでしょうか。

「停電」
 トマスとシーリアの夫妻は壊れた夫婦仲を修復するために山荘に来ていました。彼らの間にわだかまっているのは、悪魔的な行動で彼らを困らせていた、死んだ息子サイモンのことでした。そんな折り、隣人の老婦人ミセス・トレディニクが、飼っている猫が見つからないと訪ねてきますが…。
 こじれてしまった夫婦のすれ違いが描かれている時点で不穏なのですが、さらに死んだ息子サイモンが彼らをかき回していたこと、別荘でも何かをやらかしていたのではないかという疑惑が持ち上がってきます。父親は息子のせいで失明をしてしまったことも語られており、不穏の塊のような物語になっています
 結末ではさりげなくこの作品がゴースト・ストーリーであったことが語られますが、それよりも実際には登場してこない息子サイモンとそれをめぐる事情の方が不気味だという作品です。

「この暗い道路を下って行くのはだれか」
 教師のソーニクロフトは、教え子の中でも優等生であるアマンダの母親から、娘の精神状態を心配する声を聞きます。当人から話を聞くと、アマンダの頭の上に古代のガリア人の一族が住み着いているというのです。アマンダが知るはずのないような外国語の知識を披露するに及び、ソーニクロフトは彼女の言うことを信じ始めますが…。
 素っ頓狂な発想のブラック・ユーモアにあふれた作品です。どう展開するのか予想のつかない物語だと思っていると、唐突ともいえる結末に。まるで、ホラー映画『ファイナル・デスティネーション』のよう、と言うと、その味わいが分かる人には分かるでしょうか。

「将軍たちを満載した列車」
 事故により失明した父親と祖母、二人の息子、その秘書兼家庭教師からなる家庭。二人の息子は学校に嫌悪感を抱き、引っ越すのを心待ちにしていましたが、父親はすぐには引っ越さないと、それを否定します…。
 一見、ある家庭の様子を描く文学的な短篇と見えるのですが、物語が進むにつれ、一家の母親が死んだ事故とその事情、祖母が義理の息子を憎んでいること、子どもたちが何やら不穏な行動をしていること、などが描かれていくという不気味な作品です。
 明確な起承転結はないのですが、いろいろな部分で読者が深読みできる奥深い作品ですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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