あまりにもオーソドックスな  F・ロッテンシュタイナー編『異邦からの眺め』
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異邦からの眺め
フランツ・ロッテンシュタイナー
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 F・ロッテンシュタイナー編『異邦からの眺め』(深見弾・他訳 ハヤカワ文庫SF)は、珍しいヨーロッパSFを集めたアンソロジー。収録作家の出身国もフランス、ドイツ、チェコ、ポーランド、イタリア、ソ連(ロシア)と幅広い層から集めています。さて内容の方はというと、かなりオーソドックスな話が多いようです。原著刊行の1973年としても、かなり古い感じは否めません。英米の1940~50年代のSFに近い感じでしょうか。いくつか紹介してみましょう。

 スタニスワフ・レム『完世音菩薩』 宙道士トルルは、クラパウチュスとの話のなりゆきから「普遍的善」を生み出してみせると豪語します。トルルは、察知するあらゆるものから幸福を得る「完全な幸福に浸る菩薩」すわなち「完世音菩薩」を作り出すのですが…。
 「完世音菩薩」をはじめ、トルルが善のために作り出すいろいろな発明が、ことごとく失敗してゆくというユーモア短編。善を観察するために、トルルが作り出す極小の文明社会など「フェッセンデンの宇宙」的なテーマも見られます。完璧な善など存在しないという、文明批評的な要素を持つ作品。

 J・P・アンドルヴォン『カドラーニュ観察日誌』 異星人に捕らえられた人間の男女。彼らは衣服をはぎとられ、透明な壁をへだてて閉じ込められます。貞淑な人妻である女は、粗野な男の野蛮さに眉をひそめます。やがて異星人は壁を消して二人を一緒にするとどうなるのか、観察を始めるのですが…。
 人間を捕らえた異星人の観察日記という、ある種、古くさいアイディア・ストーリー。異星人から見た人間の習性や態度が、いかに愚かで無意味であるかを描く、という点では、目新しさが全然ありません。ただ、この男女の性的な関係をねちっこく描いているのが、ユニークなところでしょうか。

 スヴェン・オゲ・マセン『指輪』 畑仕事をしていた男が、拾った指輪をはめてみたことから、突如として異世界にさらわれます。そこは球体をした超越的な存在者が作り出した世界でした。超越者は、男に三通りのあり得べき世界を示して、男に選択を迫るのですが…。
 なにやら民話の「金のおのと銀のおの」を思わせる作品です。選択できることがわかってしまったら、必ず後で後悔が残る、という皮肉な主題を持つ作品。作者は、SFプロパーの作家でないらしく、異世界の描写に独自色が感じられます。

 ヨゼフ・ネズヴァドバ『ネモ船長の最後の冒険』 数々の英雄的な功績を持つ、宇宙飛行士ペジンカ大尉は、民衆から「ネモ船長」と呼ばれ、尊敬を受けていました。ある日、彼は、かってないほどの重要な任務を任されます。それは太陽系に近づきつつある謎の宇宙船を、破壊もしくは追い払う任務でした。その宇宙船は宇宙を動き回っては、星をつぎつぎと爆破していたのです。彼らが太陽系に到着するのは1年後、それまでに彼らを止めなくてはならない。しかし宇宙船は、光速で航行するため乗組員が地球に帰還できたとしても、それは1000年後になってしまうのです! 「ネモ船長」はためらいますが、妻や息子との不和もあり、乗組員とともに出発するのですが…。
 宇宙から現れた謎の外敵、戦いのために故郷を捨てる英雄。雄大なスペース・オペラかと思いきや、意外な展開が待ち受けています。時代によって価値観は移り変わってしまう、英雄的な人間の勇気さえもが相対化されてしまうという、皮肉な作品。本書で一番SFらしい作品でしょう。

 リーノ・アルダーニ『おやすみ、ソフィア』 近未来、人間同士の恋愛はほとんど消滅し、人々は「ドリーム・フィルム」によって、その欲望を満足させていました。人気女優ソフィア・バーロウは、フィルムのロケに向かう途中、飛行機の故障によって、パイロットの男とともに僻地に取り残されてしまいます。ソフィアのファンであるその男は、本人を目の前にして、実物よりも「ドリーム・フィルム」を選ぼうとするのですが…。
 人々の願望充足のために作られる「ドリーム・フィルム」。今読んでいるこの話は本当に現実なのか?と言ってしまうとオチが割れてしまいそう。ブラウンやシェクリイを思わせるアイディア・ストーリーの佳作です。

 セーヴェル・ガンソフスキー『実験場』 軍隊は、インデアンの住む島を強制撤収し、新しく開発された兵器のための実験場にします。その兵器とは、人間の恐怖を関知して自動的に攻撃を開始するという画期的なもの。しかし、作動し始めた兵器は、兵隊や幹部たちをも攻撃し始めます。しかも機械には停止スイッチはついていなかったのです…。戦争の愚かしさを描く作品。軍人たちが殺される描写が、なかなか凄惨です。

 ワジム・シェフネル『内気な天才』 子供のころから発明癖のあったセルゲイは、恋人リューシャではなく別の女と結婚してしまいます。しかし口うるさく利己的な妻から、発明品をけなされ続けるセルゲイは、再びリューシャのもとに走ります…。
 主人公の発明品の描写が愉快です。未来が撮れるカメラ、重力を減らす「反効器」、周囲の障害物を透かして内部を見ることのできる「電場可眼」など、どうしてこんなすごい発明品が、反響を巻き起こさないのか疑問に思ってしまいます。世間に受け入れられない孤独な天才発明家、みたいな話だと思うのですが、その発明品があまりに超絶的すぎるのが逆に不自然。こんなすごい発明をしていたら、社会がほっとかないはず、と思ってしまうのは、アメリカSFを読み過ぎなのでしょうか。

 本書には、いわゆる前衛的な作品は皆無で、レムを除いて、どれもわかりやすい作品が並んでいます。レムの作品が頭抜けているほかは、ネズヴァドバ、アルダーニ、ガンソフスキーの作品が水準作といったところでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
レムの夢
こうしてみるとヨーロッパ(大陸)SF界でのレムの屹立ぶりを再認識しちゃいますね。今月のSFマガジンがちょうどレム追悼特集だったので、目次と本文の一部を立ち読みしました。ジュヴナイルを別にするとレムの初読がハヤカワ・ポケット(箱付き!)『泰平ヨンの航星日記』だったので、レムのイメージはまずユーモア作家です。
今思いついた小話。寒いですが、夏ということで。
「レムはよく夢を見たらしいね」
「ふ~ん、そうなんだ」
「そう、レム睡眠!」
【2006/06/28 12:36】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


以前『東欧SF傑作集』を読んだときにも、感じたことですけど、SFに関してはヨーロッパの作品は一時代遅れているというか、はっきり言って「古い」感じが否めません!
そんななかで、やっぱりレムは飛び抜けているというか、屹立する巨峰といった感じです。とはいえレムの作品はあんまり読んでないんですけどね(難しくて最後まで読めません!)。この作品集に収められているのはユーモア作品なので、なんとか読めましたが。ちなみに『泰平ヨン』などのユーモア作品はけっこう好きです。
あと、このアンソロジーの中ではネズヴァドバが、けっこう面白かったです。僕この作家けっこう好きなんですよ。アンソロジーにぽつぽつ訳されているだけで、たぶん単体の翻訳本はないと思うんですが。いくつか読んだ限りでは、ブラウンとかシェクリイに近いアイディア・ストーリー系の作家のように思います。
【2006/06/28 18:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


昔持ってたけどなくした本のひとつです。
内容は(レムをふくめて)ぜんぜん覚えていません。
今読むとまた違う印象なのかなあ
でもどこにも売ってないぞ
【2006/06/29 11:55】 URL | piaa #- [ 編集]


印象に残るような傑作というほどのものもなくて、はっきり言って水準は高くないアンソロジーでしょうね。レムの作品も、レムにしては、そんなに傑作というわけでもないようですし。
絶版になって久しいようですが、復刊するほどの魅力には欠けるかと。
【2006/06/29 18:32】 URL | kazuou #- [ 編集]

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【2014/04/26 19:34】 | # [ 編集]


アドリアン・ロゴズ『確率神の祭壇』の翻訳者は、住谷春也ですね。
【2014/04/26 20:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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