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甘美な再会  ロバート・ウェストール『禁じられた約束』

 ロバート・ウェストールの長篇小説『禁じられた約束』(野沢佳織訳 徳間書店)は、若くして亡くなった初恋の少女に取り憑かれる少年を描いた、繊細なゴースト・ストーリーです。

 ヒトラー率いるドイツとの戦争中の英国、海辺の小さな町に住む14歳の少年ボブは、裕福な家の娘ながら病弱な少女ヴァレリーに気に入られ、家に遊びに来てくれないかと言われます。ヴァレリーの父親モンクトンは、ボブの父親の上司であり友人でもあったのです。
 度々遊びに行くうちに、ボブとヴァレリーは仲良くなり、それはやがて恋にまで発展していきます。しかしヴァレリーには生まれつきの重い病があり、とうとうその命を落としてしまいます。
 放心状態になってしまったボブはかってヴァレリーから預かった鍵を使い、生前の彼女の家に入り込みますが、そこには明らかにヴァレリーと思われる存在の気配がしていました…。

 正直、筋が分かっても読むのに支障がないタイプのお話だと思うので、あらすじで中盤までの内容を説明してしまいました。ものすごくシンプルに言い表すと「初恋の少女の霊に取り憑かれる少年の物語」です。
 前半はボブとヴァレリーの幼い恋が、様々なエピソードを連ねて語られていきます。この部分だけでも、青春小説としてよくできた作品だと思います。特にボブの自意識が細かく描かれていくところは面白いですね。ヴァレリーに恋をしながらも、周囲にそれがばれるのを恐れて秘密にしようとしたり、遊びに夢中になって彼女をほっぽらかしにしてしまったりと、大人にも子供にもなりきれない年齢層の少年として、非常にリアルなキャラクターとなっています。
 病のこともあり、ボブよりは内省的な少女ヴァレリーも、一方では、かなり自己中心的な振る舞いをすることが示されます。しかしそれは、自分に未来がないことが分かっているがゆえの行動でもあるのです。

 やがてヴァレリーは、自分は迷子になる夢をよく見る。自分が迷子になったら助けに来てほしい、という「約束」をボブとすることになります。彼女の死後、その「約束」は果たされることになるのです。
 ヴァレリーの死後、ボブは彼女の霊と「再会」することになるのですが、そこからは急激に恐怖小説的なトーンが強くなっていきます。再会できたことを喜ぶボブですが、ヴァレリーは生前の彼女とは既に違った存在になっていたのです。
 彼女との触れ合いに甘美なものを感じたボブは、自らも彼女と同じ世界に生きたいとまで思い至るようになります。奇しくもドイツ軍の空襲が激しくなり、身の回りにも死の影が濃くなっていきます。

 すでにして日常生活自体がリアルなものとは感じられなくなっている、という背景が、主人公ボブの心理に影響していくのも、非常に上手いところですね。
 ボブがヴァレリーに憑かれて殺されてしまうのか、それとも戦争により死んでしまうのか、どちらにしても死の空気が充満してくる後半は、雰囲気も張りつめており、読んでいてとても「怖い」です。
 戦争の描写は作品冒頭から描かれてはいるのですが、中盤まではボブにとって戦争はどこか遊び気分であり、空襲への防衛活動などを取っても、彼にとってそれは「楽しい事」として描かれています。
 それはヴァレリーに対しても同様で、彼女が余命わずかの重病であるということも本当には理解できておらず、彼女を傷つけるような言動も取ってしまいます。
 そうした前半の描写があるがゆえに、後半では霊となったヴァレリーに対して、償いのような意味もあり、ボブは彼女に尽くすことにもなるのです。

 初恋の少女の死を経験して成長を遂げる少年の物語ではあるのですが、この作品でユニークなのは、それがただの「死」ではなく「死後の接触」が必要であったというところでしょうか。
 全体に、少年少女の恋の甘美さが描かれていますが、前半ではそれが「生の世界」、後半では「死後の世界」におけるそれが描かれるというのも興味深い試みです。
 幽霊の登場するシーンも「怖い」です。ヴァレリーの霊が語る死後の世界も、冷たく淋しい世界観で描かれており、そのあたりも含めて、ゴースト・ストーリーとして強烈なインパクトを与える作品になっていますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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