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死に寄り添う男  フリオ・ホセ・オルドバス『天使のいる廃墟』

 スペインの作家、フリオ・ホセ・オルドバスの『天使のいる廃墟』(白川貴子訳 東京創元社)は、廃墟になった村パライソ・アルトに住み着いた「天使」を自称する男が、村にやってくる自殺志願者たちの人生の話を聞く…という物語です。

 何らかの原因によって住人たちが逃げ出し、打ち捨てられてしまったために廃墟になった村、パライソ・アルト。それ以来、この村には、人生を諦めた自殺志願者ばかりが訪れるようになっていました。自らも人生を終わらせるためやってきた「わたし」は村に来て気が変わり、そこに住み着くことになります。
 村の家々に残された服や靴を身につけた「わたし」は「天使」を自称し、やってきた人々に歌を聞かせ、彼らの人生の話を聞き、そして彼らを「見送る」ことになります…。

 自らも人生を捨てかかっていた男が、同じく人生を終わらせるためにやってきた人々の話を聞き、彼らを見送るのを仕事とするようになる…という物語です。
 自殺志願者たちの死を思いとどまらせるのではなく、あくまで彼らの最後の日々につきあって見送る、というのが主眼になっています。訪問者たちの死の決意は固まっており、また「わたし」もそれを変えようとはしないのです。

 様々な訪問者たちと「わたし」とのやりとりが、オムニバス形式で描かれていくのですが、一部の人間を除いて、彼らの死に至るまでの手順や「死」そのものが描かれないのが特徴です。死んだり葬られたりという描写がないために、もしかして生きているのでは? と思ってしまうのですが、物語の最後まで言及がされないところを見ると、やはり皆亡くなっているのでしょう。

 人生を終わらせるためにやってきた訪問者たちが、皆そろいもそろって風変わりなのも面白いところです。逆立ちする少女、売れなくなった老奇術師、一世を風靡したポルノスター、骨の笛を吹く男など、破天荒な言動の人々や、また見た目が普通でも、彼らが語る人生の物語は皆一筋縄ではいかないものばかり。そんな人々に「わたし」は寄り添い、受け入れる役目を続けていくことになります。
 やがて「わたし」を探しにきた訪問者も現れ、「わたし」自身の人生の一片もまた描かれることになります。

 自殺志願者たちとその死、という暗い題材が、恐ろしいほどの明るさと透明感を持って描かれる不思議な手触りの作品になっています。浮世離れした語り手の「わたし」のキャラクターや、「死」そのものが直接的には描かれないために、全体が寓話的なトーンを帯びている、というのもあるかと思います。
 解説によれば、実際にある事件をきっかけに廃墟になってしまった村がモデルになっているということです。ただフィクションに取り込むにあたって、非常にミスティックな雰囲気の舞台に作り変えられているところは、作者の手腕といっていいでしょうか。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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