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夢のタペストリー  ジェイン・ヨーレン『夢織り女』

 ジェイン・ヨーレンの作品集『夢織り女』(村上博基訳 ハヤカワ文庫FT)は、『夢織り女』『月のリボン』『百番めの鳩』という、原書の三冊の短篇集をまとめたファンタジー作品集です。短めながら、どれも密度の濃いファンタジーになっていますね。

『夢織り女』
 大寺院の石段に座る盲目の老婆は、一ペニーと交換に、その人に合った夢を織ってくれます。それを喜んで受け取る人間もいれば、捨ててしまう人間もいるのです…。

「一番目の夢 ブラザーハート」
 森の奥に住んでいる兄と妹。魔法にかけられている兄は、毎夜、鹿の皮をかぶって鹿に変身し森を駆け回っていました。ある日戻ってきた兄は傷を負っていました。妹は、直後に現れた猟師が兄を追っていたことを知り、兄をかくまいますが、その一方、たくましい猟師にも惹かれていました…。
 鹿に変身する兄と、彼を追う猟師に恋してしまった妹を描く物語。やがて悲劇が訪れて…。兄妹に魔法がかけられた理由が明かされないなどもあり、非常に寓意的な味わいの強い作品になっています。

「二番目の夢 岩の男、石の男」
 石工のクレイグは岩のように頑固な男で、妻が子どもを欲しがるのに対して、それを拒否していました。子どもを作ることもできないと妻に挑発されたのに対し、クレイグは石を掘って「息子」を作ろうとします…。
 男によって作られた「息子」はやはり不完全で…。「息子」に対する父親と母親の態度の違いも面白いところですね。

「三番目の夢 木の女房」
 資産家の夫が亡くなり、裕福な未亡人となったドルシラ。彼女は財産目当ての求婚者たちと結婚するぐらいなら、庭にある白樺の木と結婚した方がましだと宣言します。ある夜、白樺の木から不思議な男が現れドルシラと一夜を共にします。やがて彼女は妊娠しますが…。
 木の精霊と結婚した女を描く物語です。木を愛する未亡人に対し、周囲の連中はそれを認めず、悲劇的な結末を迎えることになります。怪奇色の濃い作品ですね。

「四番目の夢 猫の花嫁」
 老婆は息子のトムと飼い猫を等しく可愛がっていました。病を得て死の床にあった老婆は、トムに飼い猫と結婚するようにと話します。すると猫は美しい娘の姿になって現れますが…。
 軽いタッチの幻想的な掌篇です。人間の娘になった猫の行動を描く結末のオチも楽しいですね。

「五番目の夢 死神に歌をきかせた少年」
 七人兄弟の末っ子のカールは、愛する母親を亡くした後、母を返してもらうために死神を探す旅に出ます。人々に死神の姿を訊ねるものの、人によってその見える姿は様々のようなのです。戦場でようやく探し当てた死神は美しい女性の姿をしていました。カールは得意とする歌で彼女を振り向かせようとしますが…。
 死神から母親の魂を返してもらおうとする息子を描いた物語です。どちらのパターンも暗いトーンではあるのですが、二通りの結末が用意されていて、その構成も面白い作品です。

「六番目の夢 石心臓姫」
石の心臓を持つ姫は、何も感情を感じ取ることができず、それゆえに石心臓姫と呼ばれていました。美しいきこりの青年ドナルは、動物たちから石心臓姫の孤独、そして姫の心臓を担ってやることによって、彼女を助けることができると諭します。ドナルは姫のもとに向かうことになりますが…。
 姫の負担を担うことによって彼女を救う青年を描いた物語です。生まれつき呪われた姫の呪いを解く主人公というパターンの物語はよくありますが、この物語では、一生、姫の負担を背負い続ける…という意味で、なかなか珍しいタイプの物語になっています。

「七番目の夢 壺の子」
 年老いた偏屈者の陶工が壺の表面に描き出した子どもは、絵の中から抜け出してきます。しかし、少年は自分に魂がないことを嘆きます。陶工は自分が死んだ後、自分の魂を上げようと話すのですが…。
 壺から生み出された子どもが、魂を得て完全な存在となる…という物語。壺としては不完全なものの、それが生命を感じさせる、という結末も面白いところですね。
 他のエピソードが、夢織り女の老婆が客に対して語った(織った)物語(夢)であるのに対して、この七番目のエピソードは、老婆が自分のために語った物語になっています。職業は異なりながらも、物を作る職人という共通点があるあたり、比喩的なメッセージも込められているのでしょうか。

 夢織り女が、老若男女、様々な人物に対して、それぞれのエピソードを語ると言う体裁になっていて、その物語に対する反応も千差万別。カップルの男女で受け取り方が異なったり、何度も求める夢を語らせようとする男もいたりと、その掛け合い部分も含めて面白い短篇集になっています。


『月のリボン』

「月のリボン」
 父が亡くなり、意地悪な継母と姉たちに虐められていた少女シルヴァは、母が残してくれた「月のリボン」を大事にしていました。そのリボンは母や代々の女性が髪を織り込んだ銀色のリボンで、魔法がかけられていたのです。
 そのリボンを通して別の世界を訪れたシルヴァは、白銀の髪の美しい女性に出会います…。
 「月のリボン」によって幸福を手に入れる少女の物語。少女が置かれた現実的な状況や、継母たちの末路など、意外と残酷味が強いですね。

「蜂蜜と薪の少年」
 蜂の巣の精に子どもを授けてほしいと願う老夫婦ですが、その願いは叶えてもらえません。おばあさんは薪と蜜を使って人形を作りますが、やがてその人形は動き出し、夫婦は彼を息子として迎えます。自分を敬わなくなった老夫婦に蜂の巣の精は腹を立てますが…
 薪と蜜で作られた子どもを描く物語です。人形が命を持ち始める…というお話はよくありますが、薪と蜜というのは材料として面白いですね。

「バラの子」
 子どもを欲しがっていた年老いた女は、バラの花の中に小さい子どもを見つけます。百姓や地主、神父など、様々な人間にバラの子の育て方を訊ねるものの、誰もまともな答えを返してはくれません…。
 バラの子に本当に必要なものとは…? 寓意的な要素の強い掌篇です。

「サン・ソレイユ」
 太陽の光を浴びると死んでしまうと予言された美しき王子サン・ソレイユ。父王は、彼を太陽に触れさせないように大切に育てます。美しい娘ヴァイガは王子と結婚しますが、予言は思い込みだと考え、王子に光を浴びさせて目を覚まさせようとします。国中の雄鶏を隠して、朝が来たことを王子に悟らせまいとするヴァイガでしたが…。
 太陽の光で死んでしまうとされた王子と、それを信じない妻の物語です。現実しか信じない妻と伝説に支配される夫との対比が興味深いですね。最初は予言を信じていた父王も、ヴァイガの言葉によって感化されていく…というのも面白いところです。

「いつか」
 若者のトムは自分の運を試すために旅に出かけます。途中で出会った老人にどこに行くべきか訊ねると、彼は「いつか」に行くべきだと答えます…。
 夢の終着地点とはどこにあるのか…? 老人になった主人公が、自らの聞いた言葉を繰り返す…という結末も寓意的で面白いですね。

「月の子」
 太陽を崇拝するソーリン国の人々は、光の入らない<黒の森>を恐れていました。夜に生まれ青白い肌をした少女モナは、森の中に入っては散策をしていました。モナが国に恐ろしいものを持ち込むのではないかと恐れた人々は、少女を排斥するようになりますが…
 偏見と思い込みが少女を迫害するという物語。おとぎ話的な道具立てのお話ですが、その実、非常に現実的な要素を持つ物語になっています。


『百番めの鳩』

「百番めの鳩」
 腕のいい鳥撃ちのヒューは、王さまに呼ばれます。王さまは美しい婦人を伴っていました。彼女との結婚式のために鳩を百羽ほど捕らえてほしいとの命令を受けたヒューは、99羽まで捕らえるものの、純白の美しい鳩1羽のみ、何度も取り逃がしてしまいます。
 ようやくその鳩を捕らえたところ、鳩はヒューに逃がしてくれればお礼をすると話しますが…。
 鳩を逃がすのか、王の命令を守るのか? 葛藤する鳥撃ちを描く物語です。悲劇的なトーンの物語になっています。

「炎の乙女」
 詩人肌の炭焼きの青年アッシュは、ある日炎の中に小さな娘を見つけます。娘にブレンナと名付けた青年は彼女を愛するようになります。やがて炭焼きが疎かになったことに気付いた周囲の人間はアッシュを問い詰めますが…。
 炎の精霊の娘を愛するようになった青年の物語です。結末は幻想的で美しいですね。

「風の帽子」
 百姓の青年ジョンは船乗りに憧れていましたが、一緒に暮らす母親からはそれを止められていました。ある日、亀を助けたジョンは、お礼に風の帽子をもらいます、それは風を自由に呼ぶことのできる魔法の帽子でした。ただ、一度かぶれば人間の手では外せないのです。
 衝動的に船乗りになってしまったジョンは、その力で船員たちから重宝されますが…。
 風を呼ぶ魔法の帽子を手に入れた青年の物語です。人間の手では取れない帽子という設定が面白いですね。

「白アザラシの娘」
 孤独な漁師のマードックは、白いアザラシが皮を脱ぎ捨てて美しい娘になるのを目撃します。さらに、彼女の周りに集まってきたアザラシは皆、皮を脱いで人間の姿に変身していました。マードックは、最初に見つけた白アザラシの娘セルと結婚します。セルは七人の息子を生み、マードックは幸福な結婚生活を送りますが…。
 正体を知られたために人間の男を結婚することになったアザラシの精の娘の物語、かと思いきや、意外な展開に驚きます。いろいろ考えさせる深みのある物語ですね。

「約束」
 結婚する約束をしていた少年ケイと少女ケイヤは、家の事情で引き離されてしまうことになります。ケイは魔法使いである老いた叔父のもとへ、ケイヤは修道院に引き取られることになりますが、ケイヤの美しさを見た叔父は彼女が大きくなったら自分のものにしようと考え、ケイを虐待します。やがて叔父は、ケイを魔法で鯉に変身させてしまいますが….
 魔法によって引き離された恋人同士の少年少女が結ばれる、という物語。魔法が解けても、全てが解決するわけではない…というところも面白いですね。

「昔、善良な男が」
 善良さで知られる男が、その褒美として天使から一つ願いを叶えてもらうことになります。男が望んだのは、天国と地獄をそれぞれ見せてほしい、という願いでした。地獄では、テーブルの上に食物があるものの、座っているものたちは皆縛られて食べることできない、という情景を見せられます。一方、天国でも地獄と同じような情景が繰り広げられていることに男は首をかしげますが…。
 天国と地獄の違いは本当にちょっとしたことにすぎない…という寓意的なファンタジーです。どこか、東洋の宗教説話のような味わいもありますね。

「人魚に恋した乙女」
 船長の娘ボーンは生まれつき醜く、それを指摘された妻は心労で亡くなってしまいます。娘を疎んじる父親に対して、ボーンは父親を深く愛していました。孤独な娘は、ある日出会った人魚の男に恋をすることになりますが…。
 報われない愛情を捧げる孤独な娘が、人魚に出会って恋をするという物語。ただこの人魚、話をすることはできず、娘の愛情に応えてくれているのかも実ははっきりしません。一見、純愛物語に見えるものの、どこか残酷さを感じさせる物語とも読めますね。

 この『夢織り女』、収録作は多いものの、どれも掌編といっていい長さでページ数はそんなにないのですが、どれも非常に密度が濃いです。解説文にもあるのですが、「ファンタジー小説」というよりは「妖精物語」「フェアリー・テール」といった印象が強い作品集になっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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