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世界の色彩  メガン・シェパード『ブライアーヒルの秘密の馬』

 メガン・シェパード作、リーヴァイ・ピンフォールド絵『ブライアーヒルの秘密の馬』(原田勝、澤田亜沙美訳 小峰書店)は、第二次大戦中のイギリスで結核の療養所で暮らす少女が、別世界からやってきた翼のある馬と出会うという、幻想的な物語です。

 第二次大戦中のイギリス、結核を患った少女エマラインは、両親や姉と離れ、かって資産家の伯爵夫人が住んでいた屋敷を改装したという、ブライアーヒル療養所にやってきます。周囲には同じ結核を患った子どもたちが集められていました。
 その中でも、エマラインは、年上で一番の古株であるアナになついていました。しかしアナは喀血を繰り返すなど、予断を許さない状態が続いていました。
 ある日、エマラインは鏡の中に翼の生えた馬たちが歩いているのを目撃します。しかし他の子どもたちには彼らが見えないようなのです。庭に、美しい翼を持った白馬を見つけたエマラインは、彼女こそ鏡の世界からやってきた馬なのではないかと考えます。やがて、エマラインは、馬のそばに手紙を見つけます。それは「馬の長」なる人物から彼女に宛てた手紙でした。
 それによれば、翼の生えた雌馬の名前はフォックスファイア。翼を傷つけてしまい、この世界に逃げてきたというのです。しかもフォックスファイアを追って、邪悪な黒馬ブラックホースが近づいているということも記されていました。
 虹の色を集めれば、黒馬に対して盾になると知ったエマラインは、虹に属する色のついた品物を集め始めます。
 療養所を手伝う片腕の青年トマスもまた、馬たちを見ることができると知ったエマラインは、彼の協力も得てフォックスファイアを守るために奔走することになりますが…。

 結核を患い療養所で暮らす少女が、鏡の中の世界からやってきたという翼の生えた馬と出会い、彼女を追ってきた黒馬から守ろうとする物語です。
 鏡の中の馬たちや、フォックスファイア、ブラックホースの存在は、基本的にエマラインにしか見えていません。後に、青年トマスや別の子どもにも彼らが見えているのではないかという描写がなされますが、本当に見えているのかは、はっきりしません。
 物語が進む間にも、エマラインの病は進み、死に近づいているわけで、フォックスファイアをめぐる超自然的な現象が本当に起こったのか、それとも死に近づきつつあったエマラインの幻覚(幻想)なのかは、物語の中ではっきりとは示されません。著者あとがきを読む限り、著者もそれに決着をつけようとはせず、読者の判断に一任しているようです。 実際、どちらとも取れるようにかかれており、その読み方次第では、エピローグの意味合いが多少変わってくるなど、読者の読み方の自由度も高い作品になっているといえるでしょうか。

 物語の中で重要な意味を持つのが「色彩」。「馬の長」の手紙から、虹の色を持つ品物が、ブラックホースからの盾になることを知ったエマラインは、色が付いた品物を集めようとします。その品物の色が、エマラインが慕う年上の少女アナが持つ色鉛筆の色と照応しているのも特徴です。
 エマラインが新たな色の付いた品物を見つけるたびに、「七八一-ターコイズ・ブルー」「九三五-ヘリオトロープ・パープル」など、色鉛筆の色の名前を叫ぶ、という描写も魅力的。彼女が色のついた品物を探していく過程は、どこか「宝探し」的な趣もありますね。
 作品の背景として暗い世相、陰鬱な状況を扱っているうえに、挿絵のモノクロ画の印象も相まって、どこか世界観全体がモノトーン的な印象を帯びています。「敵」である黒馬もその色は「黒」であるのも、その一環といえるでしょうか。

 黒以外の「色」は、アナが持つ色鉛筆(これは後にエマラインに譲られることになります)、そしてそれに準じたカラーを持つ様々な品物になっているわけです。戦中ということもあり、この療養所内では、品物が不足しており、なおかつ病気の子どもたちが持つ品物も限られています。
 その中で色鉛筆は、エマラインだけでなく、子どもたちの希望を象徴するものともなっているように感じられます。
 物語の途中で、色鉛筆は何者かによって折られてしまうのですが、ラストでそれらが再生され、エマラインが「独占」していた色鉛筆が、子どもたち皆のものになるシーンも描かれます。
 その意味で「希望」が一人だけでなく、皆の心にも宿った、という解釈もできそうです。

 上記にフォックスファイアをめぐる出来事が現実なのか幻想なのか、どちらとも取れるとは書いたのですが、この色鉛筆のエピソードを読む限り、出来事は実際に起こった…と取れる可能性が高いのではないかなと、個人的には思います。
 物語自体もさることながら、リーヴァイ・ピンフォールドによる挿絵も素晴らしい出来です。リアルでありながら幻想的という、作品のトーンを上手く表現しています。
 クライマックスでは、挿絵の領域を逸脱するほどの広い画面構成を取る場面もあり、挿絵というよりは、既に「共作」といってよい存在感を持っていますね。

 戦争や病気の子どもたちという、暗い題材を扱いながらも、重くなりすぎず、魅力的な幻想世界を描いた秀作といっていい作品ではないでしょうか。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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