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さまざまな幻想  ペネロピ・ファーマー『陶器の人形』

 ペネロピ・ファーマー『陶器の人形』(山口圭三郎、山口昌子訳 篠崎書林)は、『骨の城』『イヴの物語』で知られるイギリス作家ファーマーの、秀作揃いのファンタジー短篇集です。

「陶器の人形」
 森と湖に囲まれた大きな城に集う貴公子や貴婦人たち。城にやってきた物売りは、商っているその不思議な品物で彼らの欲望を叶えようと持ちかけるのですが、彼らは面倒だとしてその申し出を断ります…。
 まるで「陶器」のような人間たちに物売りが施した魔法とは…? 皮肉な味わいの、幻想的な散文詩といった趣の作品です。

「魔女エミリー」
 おばあさんから魔女の後継者として育てられてきた美しい少女エミリー。おばあさん亡き後、魔女の修行に励んでいた彼女は、魅力的な水兵ジョン・スミスに恋をしてしまいます。しかし、魔女の力を捨てない限り、人間の男と恋をすることはできないのです…。
 恋する男性のために魔女の力を捨てようとする少女を描いた物語です。美しい恋物語かと思いきや、ブラックな結末には驚きます。

「かんしゃく姫」
 その王国には、美しい三姉妹の王女がいました。親切ながら頭のからっぽな長女、学問好きでお堅い次女、そして一番の美貌を誇りながらもかんしゃく持ちでわがままな三女のメリリンダ王女。かんしゃくを起こした三女は罰として、妖精に蜜蜂に変えられてしまいます。
 メリリンダ王女の肖像を見て彼女に惚れ込んだ隣国の王子は、となりの国に向かう途中、偶然にも蜜蜂になったメリリンダ王女に出会いますが…。
 かんしゃく持ちのヒロインがそれを克服して王子と結ばれる…という話かと思いきや、そうはならないところが実にシニカル。捻りのあるおとぎ話です。

「龍の兄弟」
 地球がまだ氷と雪に覆われていたころ、そこには龍の三兄弟が住んでいました。宇宙を散歩する兄弟たちでしたが、ふとしたことから周囲を回っていた月に、吐いた炎で火を付けてしまいます…。
 太陽が生まれた理由を描く、創世神話的な物語。宇宙を駆け巡る龍のイメージが壮大です。

「ある農夫の一生」
 考え深い農夫は、いかに効率的に仕事をするかについて普段から熱心に考えていました。魔法使いや魔女、博士など、様々な賢者のもとをめぐっては知恵を学ぼうとする農夫でしたが、完璧な方法は見つかりません…。
 「完璧な方法」などこの世には存在しない…という寓話的な作品です。

「心優しい王子さま」
 心優しく、民衆のことを常に考える優しい王子は、革命こそが最善の手段だと思い至り、それを実行しようと考えます。しかし魔法使いでもある家庭教師に、革命の結果がどうなるかを諭され、考え直すことになります…。
 その優しさゆえに、極端に走ってしまう王子を描いた物語です。堅実さこそが重要という、教訓的なテーマも含まれていますね。

「ナメクジ」
 魔女に仕えるナメクジは、褒美として何でも願いを叶えてもらうことになります。蝶に変身させてもらったナメクジはその生活を楽しみますが、その短い寿命に気がつき、別の姿に変えてもらいます。
 やがて王女の美しさに憧れたナメクジは、その姿を王女に変身させてもらいますが、その生活は思ったよりも窮屈で退屈なものでした…。
 様々な姿に変身させてもらったナメクジが、想像とは異なった生活に失望を繰り返すという物語。最終的には王女になるものの、それでも満足できないのです。最終的に元の姿(状況)に満足を見出す、というタイプのお話はよくありますが、本作では主人公の元の姿がナメクジだけに、その展開には、ギャップと驚きが感じられますね。

「羊飼い・ロビンの物語」
 トゥルーラブ七人兄弟の真ん中で、賢いロビンには、他の兄弟にあるような野心がなく、羊飼いとして平穏な生活を送っていました。ある日妖精の小さな男を助けたロビンは、お礼として「野心」を授けてもらいます。
 ふとしたことから王様の召使いになったのを皮切りに、どんどんと出世するロビンでしたが、彼は他の兄弟以上に「俗物」になっていきます…。
 富や名声を求めず平穏に暮らす青年が、「野心」を手に入れたことから俗物になってしまう…という物語。ロビンの俗物具合が誇張して描かれていて楽しいですね。

「天地創造」
 まだ人間や他の生き物が生まれる以前、天地創造を行った魔法使いは、風、水、火、地の4人の使者を召使いとしていました。あまり取り柄のない地の使者は、様々な能力を持つ他の使者に馬鹿にされてしまいますが…。
 天地創造とそれに協力したという4人の使者を描く神話的ファンタジーです。地の使者がやがてある生き物になった…という起源譚にもなっているところもユニークです。

「王女さまの婿えらび」
 美しい王女が結婚するため、婿選びをすることになりますが、いたずら好きの王女は妖精に協力してもらい、彼女が牝牛に変身したかのように見せかけます。宮殿に迎えられた牝牛に対して、王女に仕える者たちや求婚者たちは、ご機嫌を取ろうと必死になりますが…。
 婿選びでいたずらをする王女の物語です。妖精が登場するものの、目立った魔法は特に使われないという、珍しいタイプのフェアリー・テールです。

「魔女山の魔女が笑うとき……」
 フリッツとヘンゼルの兄弟は普段から魔女をからかっては楽しんでいました。やがてうり二つの姉妹とそれぞれ結婚することになった兄弟でしたが、魔女によって、結婚相手がいつの間にか入れ替えられていたことを知ります…。
 からかわれていた魔女によって復讐されてしまう兄弟を描く物語です。嫌いなものを我慢しているうちに、どんどん具合が悪くなっていく…という生活感あふれる描写が妙にリアルです。

「ヒバリとナイチンゲール」
 自分たちの環境にうんざりしたヒバリとナイチンゲール。普段とは逆に、ヒバリは夜に、ナイチンゲールは昼に鳴くようになりますが、それによって生活を狂わされてしまった人々によって、鳥たちは王様のもとに引っ立てられてしまいます…。
 昼と夜に鳴く鳥が、互いの環境を入れ替えてみるという物語。周囲の人間たちの生活のリズムがそれで狂ってしまうという、いささか大げさな設定が楽しいです。

「醜い王女」
 王は末娘の王女を結婚させたいと願いますが、器量の悪い王女の縁談は次々と断られてしまいます。様々な魔法使いのもとに助けを求めますが、助けることはできないと匙を投げられてしまいます。王女自身はきこりの青年を愛し、青年もまた彼女を愛していましたが、平民の青年とは結婚することができません。
 ただ一人、王女の助けになった魔法使いは、彼女に二つの薬を渡します。この世の男性が全て王女に恋をするようになる薬と、きこりの姿が王の目に結婚相手としてふさわしく見えるようになる薬。どちらを飲むかは王女の考えしだいだと…。
 虚栄心を満足させるのか、それともただ一人の愛を求めるのか、という「醜い」王女の判断を描いた物語です。純愛を貫く方向にはいかず、王女は判断を誤ってしまうことになるのですが、それでも別にいい…という割り切った結末もユニークですね。

「ロマンティックな王さま」
 王には、フレデリック、フェルディナンド、ジョージという三人の王子がいました。王は自らの後継者を決めるため、三人に様々な課題を出します。のんびり屋のフレデリック、野心に満ちたフェルディナンド、マイペースなジョージと、王子たちはそれぞれのペースで課題に挑戦することになりますが…。
 一見、第三王子のジョージが主人公的な扱いを受けており、上の兄たちが失敗してジョージが最終的に王位に就く話かと思いきや、そういう風には進みません。ジョージ以外の二人の王子も個性があり、特にずる賢い描かれ方をしているわけではないのも、おとぎ話の類型を外していて興味深いですね。

「フクロウ」
 幼いエリザベスはある夜、どこからか話しかける声を聞きますが、それは屋根裏部屋にあるフクロウの剥製が話していたのでした。フクロウと共に夜の空を飛び出したエリザベスは、、部屋にあった様々な家具と、それ以外にも大量の家具が一緒に飛んでいるのに気がつきます。
 やがて家具たちは、野原に降り立ち、様々な「部屋」を形成していきます…。
 古びた家具たちが空を飛び、部屋を形作るというファンタスティックな作品です。家具たちやフクロウの目的も特に分からないのですが、どこかシュール、奇妙な魅力のある作品になっています。古い家具に対する愛情が描かれている部分も魅力的ですね。

「公園の魔女」
 四人の子供たちの乳母になった魔女は、魔法の力で彼らに罰を与えたりと、子どもたちを上手くコンロトールしており、両親からも高く評価されていました。ある日子供の一人ロバートが乳母の魔法の枝を突然奪ってしまいます。彼はその魔法の力で周囲に魔法をまき散らしますが…。
 乳母になった魔女が、その魔力で仕事を上手くこなすものの、暴れた子供のせいで魔法のコントロールが効かなくなってしまうという物語。魔女である乳母よりも、言うことをきかない子供の方に邪悪さが感じられてしまいます。

「銀の花」
 その銀の花には、不思議な力がありました。その花の香りを嗅いだ人間を消してしまうのです。花の力により、若者から老人まで大量の人間が消えてしまいます。そんな中、うすのろと呼ばれる農夫サイモンが花に近づいていきますが…。
 人を消してしまう銀の花を描いた、奇妙な味わいのファンタジー作品です。純真な心を持つ男が現れるものの、それによって人々が救われるというわけでもなく、寂寥とした結末を迎えるという、なんとも言い難い味わいの作品になっています。

 この『陶器の人形』、著者ファーマーが20歳そこそこで刊行されたデビュー作品集だということですが、恐ろしく達者で、面白い短篇集です。基本のカラーはフェアリー・テールですが、その作風は多様。幻想的な散文詩のような作品や〈奇妙な味〉に接近した作品もありと、バラエティに富んでいます。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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