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月の姫の物語  エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』

 幻の動物たち、呪われた一族の伝説、引き裂かれた恋人たち…。
 エリザベス・グージの長篇『まぼろしの白馬』(石井桃子訳 福武文庫 1946年発表)は、一族の悲願を託された少女が幻想的な冒険を繰り広げる、ロマンティックなファンタジー作品です。

 両親を失った少女マリア・メリウェザーは、家庭教師で親代わりのヘリオトロープ先生、飼い犬のウィギンズとともに、またいとこであるベンジャミン・メリウェザー卿が住むムーンエーカー館に引き取られることになります。
 好人物のベンジャミン卿と仲良くなったマリアは、古い館や周囲の自然の素晴らしさにも感銘を受けます。館での生活を楽しむマリアでしたが、ある女性に関してメリウェザー卿に悲しい過去があったらしいこと、そして村の老牧師から、数百年前にメリウェザー家の当主ロルフ卿と敵対関係にあった「黒ウィリアム」との間に激しい争いがあったことを聞きます
 「黒ウィリアム」の領地を奪うために彼の娘「月姫」と結婚したロルフ卿は、妻を心から愛するようになりますが、「黒ウィリアム」が再婚して跡継ぎの息子が生まれたことから、妻との間はこじれてしまいます。やがて「黒ウィリアム」と息子の行方が知れなくなったことから、ロルフ卿が手を下したと信じ込んだ「月姫」は姿を消してしまったというのです。
 代々のメリウェザー家の女性もまた「月姫」と呼ばれ、その力で呪いを解くことができると言われていましたが、まだそれを果たした女性はいません。
 ベンジャミン卿の領地を荒らす黒い男たちが、かっての「黒ウィリアム」の子孫ではないかと考えたマリアは、友人となったロビン、館を守る巨大な獣ロルフたちとともに、平和をもたらすために奔走することになりますが…。

 数百年前の一族同士の因縁から争いが続いてきた土地にやってきた少女が、その因縁を断ち切るために活躍すると言うファンタジー作品です。この伝説が非常にロマンティックで、争いの当人たちが善人ではなかったにしろ、すれ違いによって悲劇が起こってしまうのです。
 両家の争いの犠牲者ともいえる初代「月姫」、そしてその血を引く代々の女性も解決できなかったことを、マリアは解決できるのでしょうか? 純真で善意に満ちたヒロイン像が魅力の一つになっていますが、物語を彩る登場人物や舞台も非常に魅力的です。
 数百年を経た古城、鬱蒼とした森と住み着いた悪漢たち、隠された秘宝、現代まで続く呪いと伝説、運命によって引き裂かれた恋人たち…。これでもかとばかりに放り込まれたロマンティックな要素が物語を彩っています。

 本筋である一族同士の和解の他に、いくつかの恋愛物語も進行していきます。ヒロインのマリアとロビンの恋の他にも、ベンジャミン卿とヘリオトロープ先生、それぞれの恋人たちの再会も描かれており、そちらのエピソードも面白いですね。
 タイトルにもなっている幻獣「白馬」や、巨大な獣ロルフ、他にも幻想的な生物ではないものの、犬や猫、ウサギなど、様々な動物が登場し活躍するのも魅力です。
 主人公たちだけでなく、脇役に至るまでそれぞれの過去と厚みを持った人間として丁寧な人物描写がされており、それは悪役たちも例外ではありません。ヒロインの純粋さによって、全ての人間に幸福がもたらされるという結末も、非常に後味が良いですね。

 ロマンティック・ファンタジーの極致のような作品なのですが、その過剰なほどのロマンティックさが全然嫌味になっていないところも魅力でしょうか。作品のメインモチーフとなっている「月姫」伝説は特に魅力的です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

子供の頃に、表紙に白い馬の絵がついた童話?を読んで、あれは何だったんだろうと思ったのを思い出しました。
違うかどうか、チェックしてみようと思います。これが、当たりだったらすごくうれしいんですけど・・・
結果はご報告しますね。
【2020/07/13 19:52】 URL | fontanka #- [ 編集]


本を読みましたが、子供の時に読んだ本とは違いました。。。。残念
でも面白く読みました
【2020/07/19 17:10】 URL | fontanka #- [ 編集]

> fontankaさん
違いましたか…。子供のころ読んだ本の記憶って、鮮烈なようでいて、結構曖昧だったりするんですよね。
グージのこの作品自体は、とても魅力的な作品でした。
【2020/07/19 17:13】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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