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幻想の航海  ロバート・ネイサン『夢の国をゆく帆船』
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 ロバート・ネイサン『夢の国をゆく帆船』(矢野徹訳 ハヤカワ文庫NV)は、気弱な大工が自分の作った車輪付きヨットに乗り込み放浪の旅に出る…という、都会派ファンタジー作品です。

 ニューヨーク市ブロンクスに住む中年男性ヘクター・ペケットは、気弱な性格の大工でした。かかった分の費用の請求も上手くできない彼に対して、妻のサラは不満を抱いていました。そんなペケットの唯一の楽しみは、庭で自ら作り上げたボート<サラー・ペケット号>に乗り空想を楽しむこと。
 もともと防水処理も竜骨もないボートは水に浮かべることはできません。ボートを役立たずだと考えるペケット夫人は、夫に黙って、知り合いの肉屋のシュルツに売店としてボートを売ることを決めてしまいます。
 船の権利を売ってしまったことを聞かされたペケットは、最後に船の中で過ごすことにしますが、移動用の車輪がつけられていたこともあり、船は勝手に風に乗って動き出します。やけになっていたペケットは風に吹かれるまま、そのまま放浪の旅に出かけることになりますが…。

 車輪が付いた「船」で陸上を放浪する男を描いた、ファンタスティックな作品です。うだつのあがらない生業と高圧的な妻との生活に嫌気が差した大工の主人公は、風の吹くままに旅に出ることになります。
 その道中で、孤独な若いウェイトレスや放浪していた歯科医、後には農場で預かった子牛など、旅の道連れも徐々に増えていくことになります。
 もともと経済的な蓄えもろくになく、やけで飛び出した旅だけに、すぐに彼らの旅は行き詰ってしまいます。しかしその短い旅の間に、彼らの人生観に対する考えの変化、そして乗組員同士の恋愛なども芽生え、彼らの人生が変化することにもなるのです。

 主人公ペケットの行動は、風変わりでありエキセントリックではあるのですが、彼を描く著者の視線は非常に優しくなっています。ペケットと旅を共にすることになるウェイトレスのメリイ、歯科医ウイリアムズもまた、彼の純真さと旅の魅力に囚われて、人生を変えられることになります。

 旅自体は失敗に終わってしまうだろうことが、作品前半から予感されているのですが、それでも人生は捨てたものではない、というメッセージが全体に伏流していて、非常に後味のよい作品になっています。
 絶望的な状態に追い込まれてしまう主人公ペケットにもまた、最終的な「愛と救い」が用意されています。「大人のおとぎ話」と言うにふさわしい作品ではありますが、「おとぎ話」には終わらないリアルな感触が魅力ですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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