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人生を変える旅  アルト・パーシリンナ『行こう!野ウサギ』

 フィンランドの作家、アルト・パーシリンナ(1942~)による長篇小説『行こう!野ウサギ』(ハーディング・祥子訳 めるくまーる)は、仕事や妻との生活に疲れた男が、森で出会った野ウサギの仔とともに衝動的に旅に出てしまうという、ユーモラスなロード・ノヴェルです。

 雑誌記者のヴァタネンは、カメラマンとの取材旅行の途中、林を通る際に車で野ウサギの仔をはねてしまいます。幸い軽傷だった野ウサギを介抱しているうちに、カメラマンはしびれを切らして一人で帰ってしまいます。
 置き去りにされたヴァタネンは、身持ちの悪い妻との生活や仕事について考えた結果、全てを放り出してそのまま衝動的に旅に出ることにします。なつき始めた野ウサギとともに自然の旅を満喫するヴァタネンでしたが…。

 野ウサギとともに気ままな旅に出る中年男性を描いた物語です。「旅」といっても、主人公ヴァタネンがめぐるのは、自然あふれる場所が中心となります。森を散策したり、釣りをしたりと主人公が行うアウトドア生活が細かく描写され、そのあたりも魅力的な部分になっていますね。
 「マスコット」的な野ウサギの存在もキュートです。野ウサギの存在をきっかけに現地の人と親しくなったり、また野ウサギが原因で争いごとが引き起こされることもままあったりと、ウサギそのものが何かするわけではないのですが、エピソードの「点景」として存在感を示し続けます。

 野外生活を繰り返しているうちに、精神的にも若返ったヴァタネンは、ある種怖いものなしになっていきます。酔って問題を起こしたり、現地の人と軋轢を起こしたりと、エピソードが進むにしたがって訴えられた件数が多くなっていき、とうとう逮捕されてしまう、という展開も人を喰っていますね。

 作品全体が細かいエピソードの集積からなっている作品です。主人公に特に決まった目的はなく、楽しみを求めて放浪するという形なので、大きな盛り上がりはない代わりに、それぞれのエピソードが小話・笑話的な魅力を持っています。
 一番盛り上がるエピソードは、後半に現れる熊狩りのエピソード。熊に襲われ助かるものの、逆上した主人公が延々と熊の跡を追っていくことになります。やがてフィンランドの国境を越えソビエト連邦に不法に侵入してしまうのです…。

 主人公以外に多数の人物が登場しますが、一つ一つのエピソードが短いので、あまりレギュラー的な人物は少ないです。ただ、さらっと描かれる人物たちの中でも、フィンランド大統領が偽物だと信じる男だとか、野ウサギが守り神だと信じ込む婦人、動物を生け贄にささげる狂信者など、エキセントリックな人物がちょこちょこと登場するのも楽しいですね。

 本作は1975年に発表された著者の代表作で、海外でも多く翻訳されているとか。一見、大自然の中で生の喜びを取り戻す話、といえば聞こえはいいですが、正直そこまで深いテーマがあるわけでもありません。ただ文字通り「大人のおとぎ話」といった感があり、小味な秀作として面白い作品といえますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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