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リチャード・ヒューズのナンセンス童話を読む
 イギリスの作家リチャード・ヒューズ(1900-1976)の童話はナンセンスかつシュール、次に何が起こるか分からない魅力があります。二冊ほど童話集の邦訳があるので、内容を順番に見ていきましょう。



リチャード・ヒューズ『まほうのレンズ』(矢川澄子訳 岩波少年文庫)
 原著の『クモの宮殿』『ウラマナイデクダサイ』の二冊からの選集になっています。

 スイートピー泥棒を捕まえようとする庭師の冒険を描いた「庭師と白ゾウたち」、緑色の顔をした男がサーカスから仲間の動物とともに脱走する「みどりいろの顔をした男」、電話を通してかけてきた人がいる場所に移動できる女の子を描いた「でんわからでてきた子」、ガラスの玉の中の国に入り込んだ家族の物語「ガラスだまの国」、クモに連れられて透明な宮殿で暮らすことになった女の子を描く「クモの宮殿」、互いを出し抜こうとする三つの宿屋の物語「三げんの宿屋」、通して覗くと、生物が無生物に、無生物が生物に見えるという魔法のレンズをめぐる「まほうのレンズ」、愛する夫を除いて女王だけが死ななくなった顛末を描く「年とった女王さま」、校長と女教師だけ一人だけの学校が生徒を集めようとする「学校」、思い込みの強いゾウと間の抜けたカンガルーのピクニックを描いた「ゾウのピクニック」、段々とワニに変身してゆくバイクを描いたシュールな物語「ウラマナイデクダサイ!」、学校の教師を引き受けたワニが子供たちを食べようとする「ジャングル学校」、人形と人魚と人間の女の子の三角関係を描いた「ガートルードと人魚」、人形が人間の子供をペットにするという「ガートルードの子ども」の14篇を収録しています。

 元々著者が、知り合いの子どもや自分の子どもたちに対して、即興で作ったお話が元になっているらしく、奇想天外でシュール、お話の面白さを追求した童話集になっています。
 やかんをやわらかく煮て食べてしまうという「ゾウのピクニック」、バイクが段々ワニに変身してゆくという「ウラマナイデクダサイ!」などを読むと、本当に「思い付き」で作ったようなお話です。特に「ゾウのピクニック」の結末は「悪ふざけ」の極致みたいな感じで楽しいですね。
 どれも楽しく読める作品ではあるのですが、非常に完成度が高い作品もいくつか混じっていて、「クモの宮殿」「まほうのレンズ」「ガートルードと人魚」「ガートルードの子ども」などがそれに当たります。

 「クモの宮殿」は、ある日クモに誘われて、彼の住まいである空の上にある宮殿で暮らすことになった女の子の物語。その宮殿はすべてが透明なのですが、唯一カーテンで覆われ中が見えない部屋がありました。クモは定期的にその部屋にこもるのです。女の子はその部屋の謎を探ろうとしますが…。
 お話自体は、昔話によくある「秘密の部屋」をテーマにしてるのですが、その秘密を知った後の展開がシュールな作品です。

 「まほうのレンズ」は、不思議なレンズの物語。小さな男の子は見つけたレンズを通して木でできたウサギを見てみます。すると木のウサギは本物のウサギのように動いているのです。また、レンズを通して両親を見てみると、彼らは木ぼりの人形のようになっていました…。
 通して覗くと、生物が無生物に、逆に無生物は生物に見えるというまほうのレンズを描いた物語です。圧巻は、レンズを通して鏡を見るというシーン。なんと鏡に映ったレンズもただの絵になってしまい、無生物のまま固まってしまう…という展開なのです。ちょっと怖さも含んだ、幻想物語の傑作です。

 「ガートルードと人魚」「ガートルードの子ども」は、動いて話す木の人形ガートルードを主人公にした連作です。
 「ガートルードと人魚」では、持ち主の女の子からひどい扱いを受けたガートルードが家出しますが、旅先で人魚と出会い彼女を連れ帰ります。
 女の子と人魚は仲良くなり、ガートルードが仲間はずれにされがちになる…というお話です。
 「ガートルードの子ども」は、家を出たガートルードが旅先で人間の子どもを売る店から小さな女の子を買い、自分の「持ち物」にする、という物語。
 こちらでは、ガートルードは人間の女の子に対してひどい扱いを繰り返します。前作で自分がやられていたひどいことを今度は自分が人に対してやっているわけで、構図が反転しているといえるでしょうか。二篇とも他人との関係性について考えさせるところがあり、味わいのある作品だといえますね。

 飛びぬけて完成度が高いのは「まほうのレンズ」でしょうか。レンズ幻想小説の傑作といっていい作品で、日本作家で言うと、江戸川乱歩や稲垣足穂のある種の作品に似た味わいがあります。




リチャード・ヒューズ『クモの宮殿』(八木田宣子、鈴木昌子訳 ハヤカワ文庫FT)
 原著の童話集 The Spider's Palace and Other Stories(1931)の全訳です。

 透明な手紙でパーティーに誘われた女の子の物語「ご招待」、電話を通して世界中移動できる女の子を描いた「電話旅行」、通して覗けば生物と無生物がひっくり返って見えるというガラスを描く「魔法のガラス」、平和な心の人しか入れない不思議なガラス玉の中の国を描く「ガラス玉の中の国」、花を荒らすウサギと庭師の争いを描いた「庭師と白いゾウ」 、それぞれ不思議な場所への旅をするヒツジたちを幻想的に描いた「三びきのヒツジ」、空中の透明な宮殿でクモと一緒に暮らすことになった女の子の物語「クモの宮殿」、テーブルの上の「無い」をめぐって展開するシュールな物語「なんにも無い」、緑色の顔の男が仲間とともにサーカスから逃げ出すという「緑色の顔の男」、馬車の旅で様々な人や物を乗せることになるというコミカルな「馬車に乗って」、魔法のボタンのせいで動けなくなってしまった男の子が料理として出されてしまうという「あわてもののコック」、三軒の宿屋が互いを出し抜こうとする「王さまの足屋」、生まれつき暗闇を放つ男の子の物語「暗やみをはなつ子ども」、薬の吸入のし過ぎで巨大化してしまった子供たちを描く「吸入」、犬が言い出した魔法の言葉が世界中に広まってしまうというナンセンス・ストーリー「ピンクと緑の…」、学校を始めよう生徒を集める男女の教師の物語「学校」、クリスマスツリーのおもちゃが一斉に隠れてしまうという「クリスマス・ツリー」、クジラのお腹の中で暮らそうとする女の子と犬の物語「くじらでくらして」、アリに囚われた息子たちを救出しようとする老農夫を描いた「アリ」、年をとっても死ななくなったおきさきを描く「年とったおきさきの話」の20篇を収録しています。

 『まほうのレンズ』(リチャード・ヒューズ 矢川澄子訳 岩波少年文庫)は、この『クモの宮殿』ともう一冊の短篇集からの抜粋なので、結構内容がかぶっています。原著を全訳した、こちらの『クモの宮殿』の収録作の方がナンセンス度が高いでしょうか。

 時間を置かずに再読になりましたが、やはり一番の傑作は「魔法のガラス」。それを通して覗くと、見た生物は無生物に、無生物は生物に変わって見えるという魔法のガラス(レンズ)を描いた物語。どこか哲学的なエッセンスさえ感じるようなシュールな物語です。

 以下、こちらの作品集のみに収録されているものから、いくつかお気に入り作品を紹介しておきます。

 「三びきのヒツジ」は、それぞれのヒツジが冒険の旅に出ますが、気付くと、元の場所で草を食んでいる…という物語。百年間囚われていたりと、それぞれスケールの大きな冒険をするヒツジたちですが、それらがみな「夢」や「幻想」の可能性もある…という幻想的な作品です。

 「なんにも無い」は、テーブルの上に散らかされた物をめぐる物語。その中にあった「無い」をめぐるナンセンスな物語です。「無い」が物質的なものとして扱われるのが楽しいですね。

 「馬車に乗って」は、馬車に乗っているうちに、おじいさん、おばあさん、ツル、のし棒、じゅうたんなどを乗せてやるというお話。やがてそれらの所有者であるおきさきが現れますが…。
 シュールなストーリーで、乗せている物も後半登場するおきさきの役目もよく分からないのが楽しいですね。

 「暗やみをはなつ子ども」は、生まれつき暗闇をはなつ男の子を描いた物語。彼のそばにいると真っ暗になってしまうため、煙たがられる男の子はどうにかしようと手段を探します。逆立ちすると逆に光を放つことを発見した男の子は常時逆立ちすることになりますが…。
 「暗闇をはなつ」という設定がまずシュールなのですが、ひっくり返ると光が出る…というのもまたおかしな設定です。ファンタスティックな方法で男の子の悩みが解決されるという結末も面白いですね。

 「くじらでくらして」は、クジラのお腹の中で暮らすのが快適だと思い込んだ女の子と犬が、クジラの体の中に入り込み暮らそうとします。しかし食べ物も家具もないところから、食べ物や家具をクジラに飲み込んでもらいます…。
 大きなクジラのお腹の中には人間が住めるのではないか?という空想を物語にしたような作品です。消化されてしまわないかなど、もっともな疑問を吹っ飛ばす大雑把な物語展開が楽しいです。

 「アリ」はファンタスティックな冒険物語。
 密猟をしている二人の息子が行方不明になったことから、猟場番人と共に老農夫は彼らを探します。谷間のへこみを通った二人は、いつの間にか体が小さくなっていました。アリたちに拉致された二人が閉じ込められた場所には、二人の息子も囚われていました…。 アリのえさになりかけた四人が智恵を絞って逃げ出す?末を描いています。それぞれ上着の中に頭を突っ込んで一列になり、イモムシのふりをして逃げ出す…というのは何ともシュールですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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