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バラエティ豊かなアンソロジー  清水武雄監訳『安らかに眠りたまえ 英米文学短編集』
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 清水武雄監訳『安らかに眠りたまえ 英米文学短編集』(海苑社)は、文学作品からエンタメ作品まで、様々な英米の短篇小説を集めたアンソロジーです。
 特に決まったテーマがあるわけではないようですが、幻想的な作品が多く含まれており、実質的に幻想小説アンソロジーといってもいいかと思います。以下、紹介していきましょう。

エドガー・アラン・ポオ「復讐譚 樽詰めのアモンティリャード」
 フォルチュナートに侮辱された「私」は彼に復讐を誓います。アモンティリャードの名前を出し、葡萄酒に目がないフォルチュナートを誘い出すことに成功しますが…。
 ポオの名作の一つ。ユーモアと残酷さが同居する作品です。

ナサニエル・ホーソーン「胸の蛇」
 若き彫刻家ハーキマーは、従妹のロジーナに乞われて、彼女の夫であり旧友でもあるロデリックのもとを訪れます。ロデリックは、かっての才気を失い精神を荒廃させていました。彼によれば胸に蛇が巣食っているというのですが…。
 胸に蛇が巣食っているという青年を描いた寓意的な作品です。実際に蛇がいるのか、それとも青年の妄想なのかははっきりしません。青年により人々の「悪」が指摘されていき、「誰の胸にも蛇がいる」というテーマが出てくるあたり、非常に象徴的な作品ですね。

ナサニエル・ホーソーン「随想 雪舞い」
 雪の舞う光景を美しく語った随想。象徴的・文学的な表現が多く使われています。

ナサニエル・ホーソーン「泊まり客」
 荒涼とした峠道で旅籠を営む家族のもとを訪れた若い男性の旅人。暖かく迎えられ、家族の美しい娘にほのかな恋心を寄せる旅人でしたが、そこに山崩れが襲います…。
 人間味にあふれた朴訥な人々も、未来を夢見る才気あふれる若者も等しく死んでしまう…という、無常感あふれる短篇です。物語は全く異なるものの、同じくホーソーンの名作「デーヴィッド・スワン」とも通底するテーマを持った作品ですね。

シャーロット・パーキンス・ギルマン「黄色の壁紙」
 医師で夫のジョンと子供とともに、植民地時代の古い屋敷に住むことになった主婦の「私」。精神のバランスを崩した「私」は部屋の黄色い壁紙に執着するようになりますが…。
 狂気に陥った女性の一人語りの迫力が強烈な一篇です。壁紙のなかで動き回る女性という、類例のないイメージにはインパクトがありますね。英米の怪奇幻想小説中でも「怖さ」という点で記憶に残る作品です。

イーデス・ネスビット「ハーストコート城のハースト」
 尊大な態度から男性には嫌われているものの、女性には何故か絶大な魅力を及ぼす男ハースト。黒魔術の研究書を出版したハーストは一躍人気作家になります。村一番の美女と言われるケイトと結婚したハーストは、一族の城、ハーストコート城を相続します。学生時代からの親友で医者である「僕」は、ハーストに招かれ、ハーストコート城を訪れます。そこで見たのは、更なる美しさを重ねたケイトと、かってとは別人のように好人物となったハーストでした。
 愛し合うハースト夫妻を好ましく思う「僕」でしたが、ある時を境にケイトが病に陥り、重態に陥ります。しかも倒れる直前に、彼女はハーストについての懸念を「僕」に打ち明けていました…。
 古城で展開されるゴシック・ロマンス風味の強い怪奇幻想作品です。かって黒魔術に凝っていた夫は、妻に対して何を行ったのか? ポオの有名な短篇作品と同じアイディアが使われていますが、こちらの作品ではそれが夫婦の愛情の絆を表すものとして使われています。名作といっていい作品では。

マンリー・ウェイド・ウェルマン「奴隷の歌」
 残忍な男ジェンダーは、アフリカで49人の原住民を捕らえ奴隷としてしまいます。奴隷船で彼らを運ぶ途中、原住民たちはジェンダーを呪い、彼が死ぬようにと呪いの歌を歌い出しますが、それに対してジェンダーは激怒します。
 奴隷船を摘発していた英国艦に船が見つかり、罰せられるのを恐れたジェンダーは、すべての奴隷を海に投げ込み、溺死させてしまいます…。
 大量のアフリカ人たちを殺した残忍な男が復讐されるというゴースト・ストーリーです。アフリカの呪術を扱っており、「幽霊」ではなく死後の肉体のまま霊たちが現れるという点でも、どこか「ゾンビもの」の趣が強いですね。奴隷たちが歌う「ハイロワージェンダ!ハイパナージェンダ!」のリフレインが印象的です。

ビル・プロンジーニ「みーつけた」
 荒っぽい仕事をしていた男ロウパーは、かって幽霊屋敷の噂もあった家に住むことになります。家の中に人の気配を感じ取ったロウパーは、家の中をしらみつぶしに探し回りますが…。
 登場人物は一人きり。誰もいない家のなかを歩いているうちに、子供時代の恐怖がよみがえってくる…という心理的に怖い作品です。ゴースト・ストーリーなのかどうかもはっきりしないのですが、恐怖小説として面白い作品です。

ジョイス・キャロル・オーツ「ヤギ少女」
 父親の敷地の納屋で飼われているという、ヤギのような少女「ヤギ少女」。「あたし」は彼女に関心を寄せていましたが…。
「ヤギ少女」が超自然的な生物なのか、それとも人間なのかははっきりわかりません。母 親が精神的に病んでいること、「ヤギ少女」が隔離されていることなどを始め、断片的な情報から、読者に物語の全体像を想像させるようになっています。残酷さがありながらも、強く惹きつける魅力のある作品ですね。

アン・ウォルシュ「避暑地の出来事」
 幼い娘二人とともに避暑地の山小屋を訪れたシングルマザー。彼女は、近くに荒廃した別の大きな山小屋を見つけます。夜になると周囲に人声が聞こえてきますが、その音は前に見つけた別の山小屋から聞こえてくるらしいのです…。
 小屋に出没する鼠、人がいないはずの山小屋から聞こえる人声、精神のバランスを崩した母親…。短い枚数の中に、様々な要素を入れ込んだ、想像力を刺激する恐怖小説です。いろいろな解釈ができそうで、非常に面白い作品です。

リング・ラードナー「ある家族のクリスマス」
 長年経済的に苦労してきたものの、発明の特許で突如裕福になった夫婦は、息子と娘にとっておきのクリスマスプレゼントを買い込んで、彼らの帰りを待っていました。しかし、帰ってきた二人は友人との約束を優先し、すぐに出かけてしまいます…。
 両親と子供たちのすれちがいを描いた、しんみりとした作品です。アメリカ家庭を描いていますが、他の国、他の時代の人が読んでも通じるような、普遍的な味わいがありますね。

 収録作のほとんどが、幻想・恐怖小説に分類される作品のアンソロジーなのですが、巻末のリング・ラードナー作品のみ、ちょっとカラーが変わっていますね。
 この本でしか読めない作品も多数あり、面白い作品も多いです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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