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まわる世界  島崎町『ぐるりと』

 島崎町の長篇小説『ぐるりと』(ロクリン社)は、不思議な本を回転させることによって異世界に行けるようになった少年の冒険を描いた作品です。

 小学六年生の少年「シン」こと佐田真一郎は、図書室で辞典の中に隠されていた手作りらしき本を見つけます。その本は上下二段に分かれており、上は縦書き、下は横書き、しかも下の文字はさかさまに書かれていました。
 さかさまの文字を読もうと本を回転した瞬間に、シンは自分の周りが真っ暗であることに気がつきます。突然見たこともない獣じみた怪物に襲われそうになったシンは、現れた女の子に助けられます。
 シンは、その女の子、純とその友人左千夫から、その世界についての知識を得ることになります。そこでは三年前から太陽が沈み「クスクス」と呼ばれる怪物が現れ始めたこと、「クスクス」は光が弱点であるものの、道具や火を使っても光が起こせなくなってしまったことなどを知るのです。
 たまたまシンが父親からもらい、身につけていた腕時計の光が怪物に有効なことがわかり、彼らはそれを利用して怪物を倒そうと考えますが…。

 不思議な本の魔力によって、現実世界と異世界を行き来する少年の冒険を描いたホラー・ファンタジー作品です。本の文字が上下段に分かれており、上段の縦書き部分が現実世界、下段の横書き部分が異世界を示すようになっています。
 主人公シンが異世界に飛ぶと、物語が下段に移るようになっており、そちらはさかさまの横書きで書かれているため、必然的に本をひっくり返すことになるという趣向。もちろん異世界から現実世界に戻るときも、本を反転させることになります。

 異世界では、物理的なルールが異なっているほか、世界を移動する際のルールにも何らかの法則があるらしいのですが、主人公シンにはそれが最初はわかりません。すぐに分かったのは、腕時計の光で怪物を倒すことができるものの、その電池は長く持たず、現実世界に戻り太陽で充電する必要があることぐらい。
 異世界のルール、怪物たちを倒すための方策を探っていく過程には、知的なハラハラドキドキ感がありますね。異世界が、現実世界ともリンクしていることがわかってきたりするあたりも非常に面白いです。

 暗闇に覆われ、強力な怪物が常時闊歩している、という異世界パートは戦慄度が高く、ホラー味も強い作品になっています。異世界で怪物に傷つけられた部分は、現実世界に戻ってきても直らない、と主人公が気付く場面はゾッとします。

 実際の本のレイアウトと、物語内に登場する本の体裁とがリンクしているのも面白い趣向です。方向性は違いますが、どこかミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を思わせますね。
 変わった趣向だけでなく、物語自体も非常に面白く、また主人公の成長が描かれると言う意味で、成長小説としての側面もあります。SF・ホラー的な要素も多く、児童向けではありますが、大人が読んでも充分に楽しめる作品ではないでしょうか。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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