FC2ブログ
物語のかけらたち  J・ロバート・レノン『左手のための小作品集 100のエピソード』

 J・ロバート・レノン『左手のための小作品集 100のエピソード』(李春喜訳 関西大学出版部)は、それぞれ1ページ前後の掌編が100篇集められた作品集です。物語が充分に展開するほど長くはなく、かといって「断片」になってしまうよりは長い…という微妙なバランス感覚が魅力の作品集です。

 物語が短いため、「個性的」な人物はほとんど登場しません。ごく普通の人々が登場するわけですが、彼らが出会う数奇な出来事や運命、また出来事が「普通」であったとしても、それに対する人間心理には「不思議さ」が感じられる作品集になっています。
 物語が充分に展開する前に終わってしまうことが多いのですが、一篇一篇に非常に膨らみや余韻があり、読んだ後にその物語について読者にいろいろ想像させてくれます。掌篇ではありながら、充分なページ数の短篇を読んだような満足感がありますね。

 人生を悲観しての自殺と思われた大学生の死の真実が明かされる「模倣者たち」、地下鉄の騒音に魅了されてしまった男の物語「静寂」、道に迷ってしまった男の人生の変転を描く「近道」、飼い猫を取り違えていたことに気付いた家族の物語「入れ替わり」、ある哲学書が夫婦の人生に影響を与えるという「下線の引かれた頁」、殺人を犯したマジシャンが消失するという「トリック」、夢と現実との区別がつかなくなった男を描く「明晰夢」、あまりにも仲のよい双子の物語「双子」、友人との貸し借りを考えすぎた男を描く「ベルト式研磨機」、自らのルーツを示す箪笥を見つけた男が所有者の家に入り浸るという「箪笥」、若者の悪戯を防ぐために作られたセメント製郵便箱が引き起こす悲喜劇「セメント製郵便受け」、冷凍庫に入っていた腐肉をめぐるホラー味豊かな「豚肉」、知らぬ間に連れ去られていたという幼時の記憶をめぐる「喪失」、父親を反面教師とした三世代の男の皮肉な物語「息子」、娘のために創作したおとぎ話が人生の不思議さを醸し出すミステリアスな「デニムタッチ」、有名な言語学者のイメージが反転してしまうという「低い身長」、作曲家と批評家の評価がひっくり返り続けるという「ペテン師」、落下した隕石を神の啓示と考える家族を描いた「隕石」、学芸会の芝居が後年の人生にマイナスを与えてしまうという「名前」、精神科医に成りすました患者の物語「おかしな人たち」、洗濯物をかってにたたんでいく人物をめぐる「たたみ魔」など、面白い物語が目白押し。

 一篇一篇を紹介していると切りがないのですが、どれも本当に面白いです。ブラックなユーモアがある作品もあれば、ちょっとホラーっぽい作品もあり、無常観を感じさせる静謐な作品もあれば、人生の皮肉を描いた作品もありと、バラエティは非常に豊か。これはお薦めしておきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/1112-f54d8ba5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する