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タイム・ゴースト・ストーリー  アントニア・バーバ『幽霊』
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 イギリスの作家アントニア・バーバ(1932-2019)の長篇『幽霊』(倉本護訳 評論社 1969年発表)は、「幽霊屋敷」に住むことになった子供たちが、過去の子供たちを救うためにタイムトラベルするという、ファンタジー作品です。

 夫を亡くし貧しい暮らしをしていたアレン夫人とその三人の子供たちは、訪ねてきた弁護士の老人から、ある提案を受けます。田舎にある古い屋敷に住み込んで家の世話をして欲しいというのです。喜んでその申し出を受けますが、その屋敷には幽霊が出るという噂があるといいます。
 快適な住まいに落ち着けて喜ぶ家族でしたが、ある日、姉ルーシィと弟ジェミーは、屋敷の外で不思議な子供たちに出会います。彼らには影が見当たらず、幽霊ではないのかと考えますが、セイラとジョージと名乗る姉弟は、自分たちは生きている人間だといいます。
 彼らが言うには、セイラとジョージは過去から魔法の薬によってやってきたというのです。両親を亡くした二人は、後見人であるおじに世話をされていますが、おじがほれ込んだ娘ベラの両親ウィッキンズ夫妻が家を乗っ取り、財産を手に入れるために、二人の子供たちを殺そうと相談しているのを聞いてしまったといいます。セイラとジョージは、どうにかして自分たちを助けてほしいと嘆願しますが…。

 「幽霊屋敷」に住むことになった子供たちが、過去に屋敷に住んでいた子供たちと時間を越えてめぐり合い、彼らを助けようとする、という物語です。時間を越えてきた子供たちは最初は半透明に見えたり、人によっては彼らを認識できません。それがゆえ、幽霊が出る噂が発生したという設定になっています。
 過去の子供たちが現代に来るのと同様に、現代の子供たちが過去にタイムトラベルすることになるのですが、やはり彼らの姿は過去の人間には一部しか認識できず、あちらの人間からしたらルーシィとジェミーは「幽霊」ということになるわけです。

 面白いのは、比喩的な「幽霊」だけでなく、本物の「幽霊」も登場するところ。「幽霊」自身も時を越えて移動するため、生前の人間としての存在と、タイムトラベルしてきた「幽霊」と、同時に同一人物が存在するというシーンもあり、非常に複雑な構成になっています。

 現代で、過去の子供たちが不遇な死を遂げることを知ってしまったルーシィとジェミーは、セイラたちを助けようと手段を考えますが、なかなか上手くいきません。彼らの命を救うことができるのでしょうか…?
 主人公の子供たちが屋敷に住むことになった原因である弁護士の老人も重要人物で、後半では彼の存在が鍵となってきます。彼はいったい何者なのか? なぜ子供たちを助けようとするのか? 彼の目的と真意が判明し、老人の勇気ある行動が描かれるクライマックスシーンでは、ある種の感動がありますね。

 「歴史は変えられる」というタイプの時間ファンタジーなのですが、そこに時間を越える「幽霊」の存在が絡むことによって、ちょっと特殊な感じの作品になっています。
 序盤は静かな展開なのですが、クライマックスでは派手な立ち回りやスペクタクルがあり、結末ではほろりとさせるなど、メリハリのある展開で、非常に面白い作品です。これは「時間ファンタジー」の名作の一つといっていいのではないでしょうか。
 作中での時間の扱い方は、フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』とも、どこか似たところがありますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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