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日常の不思議  ジョーン・エイキン<アーミテージ一家のお話>
 ジョーン・エイキンの<アーミテージ一家のお話>(全三巻 岩波少年文庫)は、日常的に不思議な事件に遭遇するアーミテージ一家を描いた、ユーモラスでシュールなシリーズです。一家は、父親のアーミテージ氏と母親のアーミテージ夫人、息子のマークと娘のハリエットで構成されていますが、もっぱら冒険はマークとハリエットが中心となっています。
 設定上、毎週月曜日には不思議なことが起こる、とされているのですが、そうでない日にも事件が起こっており、正直、何でもありのハチャメチャなシリーズになっています。

 このシリーズ、作者のエイキンが10代のころから書いていた長寿のシリーズだそうですが、生前は本にまとめられていませんでした。遺言により、死後にシリーズがまとめられたそうです。未発表短篇を含む24篇がまとめた本を三分冊したのが、岩波少年文庫の三巻から成るシリーズです。
 ちなみに、かってこのシリーズの選集が、ジョーン・エイキン『とんでもない月曜日』(岩波少年文庫)として出ていましたが、現行の岩波少年文庫の<アーミテージ一家のお話>三巻で、シリーズ作品は全て読めるようになっています。



ジョーン・エイキン『おとなりさんは魔女 アーミテージ一家のお話1』(猪熊葉子訳 岩波少年文庫)

 結婚したばかりのアーミテージ夫人が、魔法の石に週に一度不思議なことが起こるように願ったことから、一家には、毎週月曜日にありとあらゆる不思議なことが起こるようになります。子供のマークとハリエットと共にアーミテージ夫妻は様々な不思議と出会うことになりますが…。

 一家に不思議なことが起こるようになった経緯を語る「お話のはじまり」、一家の元にやってきたユニコーンをめぐる「火曜日のふしぎ」、子供たちが通う幼稚園の先生は魔女だったという「おとなりさんは魔女」、魔法でアーミテージ氏がカッコウに変えられてしまうという「冷凍カッコウ」、マークが魔女に囚われ食べられそうになるという「ハリエットの誕生日プレゼント」、魔法で一時的に美声を手に入れたマークとハリエットが合唱隊に入る「こげた合唱隊」、マークが夢の中で飛行機乗りになり竜と戦う「竜の月曜日」、貸家に現れた家庭教師の幽霊が子供たちに勉強を教える「幽霊の家庭教師」、困窮した妖精を支援していたアーミテージ夫妻が逆恨みされてテントウ虫にされてしまうという「アーミテージ、アーミテージ、お家へ飛んでいけ」の9篇を収録しています。

 特に年齢層が低めの読者層を想定しているのか、エイキンの他の作品に比べても、突拍子もない発想と展開とが繰り広げられるシリーズです。あまりに不思議なことが次々と起こり続けるので、現実感覚が逆に揺らいでくるようです。
 しかもアーミテージ一家を含め、作中の登場人物たちがそれらの現象を「当たり前」として受け取るあたり、「現実世界」は設定されてはいるものの、ある種の「別世界ファンタジー」「ハイ・ファンタジー」的な感覚が強いですね。

 どれも面白いですが、特に印象に残るのは「竜の月曜日」「幽霊の家庭教師」でしょうか。

 「竜の月曜日」は、一家の息子マークの夢の中で展開するファンタジーなのですが、導入部がものすごく上手いです。歯医者帰りの汽車の中、眠ろうとして頭の中で羊の数を数えていると、羊が柵に引っかかっており、それを調べるために奥に行くと…という感じで物語が進んでいきます。
 子供の空想イメージがいつの間にか背景になってしまっているという、面白い夢ファンタジー作品です。

 「幽霊の家庭教師」は、ちょっとしんみりとさせるお話。
 一家が借りた貸家には、かってその家に住んでいて亡くなった家庭教師のおばあさんの幽霊が住み着いていました。マークとハリエットに無理やり勉強を教え始めた幽霊でしたが…。
 スラップスティックなゴースト・ストーリーかと思いきや、後半では、幽霊がなぜ出現し続けるのか? 彼女を成仏させる方法はあるのか? といった方向に物語が進み、結末ではほろりとさせます。幽霊物語として面白い作品ですね。




ジョーン・エイキン『ねむれなければ木にのぼれ アーミテージ一家のお話2』(猪熊葉子訳 岩波少年文庫)

 アーミテージ夫人を含む婦人会の人々が船で遭難してしまうという「ロケットでとどけられたパイ」、家を追い出された小人のような体格のペロウ一族がドールハウスに転居するという「ドールハウス貸したし、設備完」、アーミテージ一家が住む家に数百年前から住み着く老紳士の幽霊をめぐる物語「幽霊のお茶の会」、毛織り機で編まれた髪の毛製のマットをめぐって兄弟の老人の争いが描かれる「ハリエットの毛織り機」、おばあさんの庭にある登ると眠り込んでしまう魔法の木をめぐる「ねむれなければ木にのぼれ」、強引な女性ジャーナリストによって盗まれたマルメロの木をめぐる物語「ぬすまれたマルメロの木」、住まいを追い出されたゴブリンの一族が隣家に住み着くという「ゴブリンの音楽」、小男からもらった魔法のリンゴをめぐって復讐の女神たちが現れる「やっかいなリンゴ」を収録しています。

 独特の世界観を持ったシリーズで、魔法や怪物や不思議な出来事が頻発する世界が描かれるのですが、その世界の一貫した法則のようなものは特になく、いつ、どこで、何が起こるかわからないという、ある種不条理に近い味わいの作品になっています。
 小人(妖精としての小人なのか小さい人間なのかちょっとはっきりしないですが)や魔女、ゴブリンといった人間以外の種族が普通に登場し、登場人物たちが彼らの存在を不思議に思わないあたり、「ハイ・ファンタジー」や伝統的なおとぎ話に近い構造になっていますね。

 どんなに不思議な出来事が起こっても、大抵は秩序が回復されるパターンが多いのですが、中ではメインで登場するキャラクターが死んでしまい、そのまま終わってしまうという「ゴブリンの音楽」のような作品もあります。

 一番印象に残るのは、表題作の「ねむれなければ木にのぼれ」でしょうか。
 おばあさんの家に預けられることになったアーミテージ家の子どもたち、マークとハリエット。子どもたちはおばあさんから、庭のゲッケイジュには登ってはいけないと言われていました。
 木の持ち主である「シルバー・レディ」に捕まり眠らされてしまうというのです。引っかかった矢を取ろうと、ふと木に登ったマークは途端に眠り込んでしまいます。しかもその木の上には、行方不明になっていた郵便配達員や肉屋の小僧、縞猫たちが眠り込んでいました…。
 その木に登ると、眠りに囚われてしまうという魔法の木をめぐる物語です。眠り込んだマークを助けるためハリエットはフクロウに導かれ夢の世界へ旅立つことになるのですが、その世界の幻想的なイメージが印象的です。
 ぶっきらぼうな医者グローブス先生や、極端に耳の遠いおばあさんなど、登場するキャラクター像も秀逸。せっかく目が覚めた人たちがまた眠るために木に登ってしまうという結末も楽しいです。




ジョーン・エイキン『ゾウになった赤ちゃん アーミテージ一家のお話3』(猪熊葉子訳 岩波少年文庫)

 朝食用ブリックスの箱に描かれた庭が魔法の詩によって現実化するという「王女さまとふしぎな庭」、突然現れた老婦人により部屋が空間的に入れ替えられてしまうという「ナッティ夫人の暖炉」、魔女により飼い猫がオオカミに変身させられてしまう「鏡の木」、魔女だと言う噂のあった女性から遺贈された二体のロボットが事件を引き起こす「めいわくなロボット」、女山賊がつけていたという伝説の猫の仮面をめぐる「銀の仮面」、さらわれた中国の竜をめぐる物語「中国の竜」、アーミテージ氏が買い取った呪いをかけられた池で息子のマークが行方不明になるという「魔女の日には釣り禁止」、電話で秘密を耳にしたために魔法でゾウにされてしまった赤ちゃんを描いた「ゾウになった赤ちゃん」の8篇を収録しています。

 前2巻よりも、物語としてかちっとまとまったものが多い印象です。唐突に不思議な出来事が頻発するという、このシリーズの特徴は出しながらも、本巻では、登場人物の目的がはっきりしていることが多いこともあって、物語の展開が滑らかに感じられますね。

 冒頭の「王女さまとふしぎな庭」は、マークが食糧品店で手に入れた「朝食用ブリックス」を手に入れて、その箱の絵を切り取って工作していたところ、箱に書かれた詩を唱えることによって、魔法の庭に入り込むことができるようになる、という作品。その庭には恋人を何十年も待ち続ける王女がいたのです。
 王女の恋人が、マークの音楽教師ヨハンセン先生であることがわかり、マークは二人を引き合わせようとするのですが果たせません。
 このシリーズには珍しくアンハッピーエンドなのですが、このヨハンセン先生、続くエピソードで何回か登場することになり、王女との再会に関して、いろいろ試行錯誤するという展開になっていきます。このヨハンセン先生の存在もあって、この3巻は続きもの的な印象も強くなっていますね。

 後半に収められた短篇では、時系列的に後の時代が舞台になっているらしい作品もいくつかあります。「魔女の日には釣り禁止」では、飼い猫のセイウチが老衰で死んだことが言及されることから、今までのシリーズ作品よりも後の時代であることが推測できますし、最後の「ゾウになった赤ちゃん」では、初登場の末っ子の男の子ミロが登場します。ミロに関してはこれが最初で最後の登場でしょうか。

 面白く読んだのは「ナッティ夫人の暖炉」「めいわくなロボット」「銀の仮面」「魔女の日には釣り禁止」などでしょうか。

 「ナッティ夫人の暖炉」は、音楽家のヨハンセン先生が町の部屋と田舎の部屋とを交換したいとう広告に手紙を出したところ、現れたナッティ夫人により、部屋のみが空間的に入れ替えられてしまうという物語。
 他の家の部分はそのままなのに、部屋とそこから見える景色だけが入れ替わっているのです。
 やがて夫人が置いていった荷物のなかに孵化寸前の卵があることに気がつきますが…。 ファンタジー要素てんこもりのスラップスティックなお話で非常に楽しいですね。

 「めいわくなロボット」は、アーミテージ夫人が競り落とした鏡をめぐって、その鏡を売るように強要していたホーティングさんが亡くなり、二体のロボットがアーミテージ家に遺贈されるという物語。月光をエネルギーとするロボットたちは、何やら悪意を持って動いているらしいのです…。
 魔法や妖精が当たり前のように出現するこのシリーズの世界観にあっては異質なロボットが登場する作品です。ロボットというよりは魔法人形といった感じで、その行動もどこか魔法じみています。ロボットの由来も含め、ちょっぴり怖いお話になっています。

 「銀の仮面」は、ハリエットがふと見つけた仮面をめぐる物語。糸つむぎを習っているホールダーネッスさんによれば、その仮面はアフリカの宗教的な儀式に使われる、猫の女神を崇拝するための仮面であり、数百年前に処刑された女山賊が身につけていたものだというのです…。
 いわゆる「呪いの仮面」を扱っていますが、この<アーミテージ一家>もので最も恐怖度の高いエピソードではないでしょうか。

 「魔女の日には釣り禁止」は、呪いをかけられた池に囚われたマークを、父親のアーミテージ氏とハリエットが助けにいくというお話(父親はほとんど役に立たないですが)です。
 呪いでマークが過去に送られてしまったと判断したハリエットが、魔術を駆使して彼を助けようとする過程が読みどころです。同時にさまざまな過去が入り乱れるという、ヴィジュアル的にも濃厚な描写が魅力的ですね

 ジョーン・エイキンの父親が著名な詩人コンラッド・エイキンなのは有名な話ですが、解説によると、継父も作家のマーティン・アームストロングだそうです。日本では怪談「パイプをすう男」「メアリー・アンセル」などが訳されている人ですね。
 母親も作家ではなかったものの教養豊かな人だったようで、かなり文学的な雰囲気の濃い環境で育った人、という印象が強くなりました。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
多作の女流作家
ネズビットともダールとも違う読後感で引き込まれます。小人のペロウ一族の話が面白い!こういう隣人っていますよね。あと凄くベーコンが食べたくなります。
【2020/06/15 03:07】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
何でもありといった感じの、想像力豊かな作風ですよね。ペロウ一族の話はなかなか面白くて、独立したスピンオフ作品などが出来そうな感じでした。
【2020/06/15 18:11】 URL | #- [ 編集]


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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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