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神秘の旅  ジョージ・マクドナルド『お姫さまとゴブリンの物語』『カーディとお姫さまの物語』
 ジョージ・マクドナルド(1824-1905)の『お姫さまとゴブリンの物語』『カーディとお姫さまの物語』は、アイリーン姫と工夫の少年カーディを主人公にした冒険ファンタジーの二部作。それぞれ独自の魅力を持った作品になっています。



ジョージ・マクドナルド『お姫さまとゴブリンの物語』(脇明子訳 岩波少年文庫)

 父親である王と離れて、山奥の館に暮らす幼いアイリーン姫は、ある日屋敷の中で迷ってしまい、部屋へ戻る道を探しているうちに、見たことのない部屋に入り込み、そこで姫の先祖であると名乗る、美しい女性〈おばあさま〉に出会います。
 乳母ルーティとともに出掛けたアイリーン姫は、ゴブリンに襲われそうになりますが、たまたま出会った鉱夫の息子カーディの機転により助けられます。カーディは鉱山内で働いている最中、ゴブリンたちの悪巧みの相談を耳にし、彼らの計画の詳細を聞くため、彼らの宮殿内にまで忍び込みますが、運悪く捕らえられてしまいます。
 アイリーン姫は〈おばあさま〉の導きでカーディを助けに向かうことになりますが…。
 ゴブリンの悪巧みを防ぐために、アイリーン姫と少年カーディがそれぞれ冒険をするという物語です。この作品に登場するゴブリンは、元は人と殆ど変わらない姿だったものの、地下で生活するうちに醜く退化してしまったという設定。
 彼らが飼っている家畜もまた、地上の生物とは違った形に変わってしまっています。このゴブリンたちがかなり性悪で、彼らが人間たちに対して行おうとしている計画を聞いてしまったカーディが、その計画を止めるために奔走することになります。
 ゴブリンたちにも王国があり、王や女王を中心に、階層社会があることが描かれるところも面白いですね。特に王以上に暴力的で性悪なゴブリンの女王のキャラクターはひときわ目立っています。

 鉱夫の息子であるカーディは家族思いで豪胆な少年。ゴブリンに囲まれても一歩も引かない勇気も持っています。そしてアイリーン姫は、怖がりですぐに泣いてしまったりと、幼い少女ではあるのですが、危機の際には前に進む勇気と決断力を持っています。
 この二人の主人公がとても純粋な少年少女で、読んでいて彼らの冒険を応援したくなるような魅力に満ちています。
 アイリーン姫と少年カーディのそれぞれの冒険が並行して描かれるのですが、アイリーン姫のパートでは、姫が広壮な城の中で不思議な部屋にたどり着くためにさまよい、カーディのパートでは、鉱山の中のゴブリン王国の内部を探索することになります。

 形は違えど、どちらのパートもある種の「迷宮探索」に近い感覚で、ハラハラドキドキ感がありますね。また、アイリーン姫のパートでは、たどり着いた不思議な部屋で、彼女の先祖であると名乗る魔法に満ちた存在〈おばあさま〉に出会うことになります。
 この女性がアイリーン姫の守り神というか、精霊的な存在として描かれていて、物語の鍵を握る存在ともなってゆきます。

 「悪役」であるゴブリンたちが性悪として描かれるのは当然としても、人間側の登場人物も全てが善人ではありません。特に目立つのは姫の乳母であるルーティ。姫を愛しているのは事実ながら、ことあるごとに保身を考え、嘘をつくこともたびたび。またカーディのいうことを信じず、危機を招いてしまう騎士たちなども、その種の人物でしょうか。
 それに比べると、主人公であるアイリーン姫の純真さは本当に真っ直ぐです。善人であるカーディでさえ、一時的に姫のことを疑ってしまうのに対し、アイリーンは最後まで徹頭徹尾相手を信じ続けます。
 そしてその「信頼」が二人を救うことにもなるという展開には、熱いものがありますね。
 また、出番は少ないのですが、脇役として印象深いのはカーディの母。アイリーン姫のいうことを疑ってしまったカーディに対して諭すという、良き大人としての面が描かれます。

 純度の高いファンタジー作品であり、ハラハラドキドキさせてくれるという冒険物語の魅力も持った作品です。付けられたアーサー・ヒューズの挿絵も魅力的ですね。ファンタジーの古典として、今も魅力を失っていない作品です。




ジョージ・マクドナルド『カーディとお姫さまの物語』(脇明子訳 岩波少年文庫)

 アイリーン姫とカーディ少年がゴブリンの悪巧みを防ぎ、平和をもたらしてから一年。カーディはその状態に慣れきっていました。目に付いた鳩を傷つけてしまったカーディは後悔の念に囚われます。直後に光に導かれ訪れた先に現れた老婆の正体は、アイリーン姫の先祖である<おばあさま>でした。
 <おばあさま>の試練を受けたカーディは、手を握るとその者の本質を見極める能力を授かります。
 <おばあさま>から王の住む城に向かうように言われたカーディは、「リーナ」と名付けられた獣を旅の供として旅に出ます。
 ようやく城下町にたどり着いたカーディは、王が病に倒れていること、人心が荒れていることを知りますが…。

 『お姫さまとゴブリンの物語』の続編です。相対した者の本質を見極める能力を手に入れた少年カーディが、王に対する陰謀に対して、味方を集めそれを挫こうとする物語です。前作では、アイリーン姫とカーディ少年の二人が主人公として同じぐらいの扱いだったのですが、本作ではカーディ少年がメインとなり、姫は後半少しだけの登場になります。
 謎が多く、背景に隠れていた感のある<おばあさま>が前面に現れ、カーディに対する導きと支援を行うことになります。

 前作では「ゴブリン」というわかりやすい敵がいたのですが、本作の「敵」は人間になっています。王様に陰謀を働く部下や官僚たち、そして悪い心を持つ国民たち。露骨に「悪人」である連中はともかく、表面上は親切で忠誠心を装う人間もいるのが厄介なところです。
 カーディが<おばあさま>から授かった能力により、その者の本心を読み取ることができるようになり、その能力を使って味方と敵を判別することになります。
 この能力、人間以外にも効果があり、お供となる獣のリーナや後半で仲間になる他の獣にもそれが使われ、見た目の醜さとは関係なく、心の美しさが強調されます。

 全体を通してテーマとされるのは、見た目に惑わされない「心の美しさ」を強く持つこと、見極めること、でしょうか。カーディは陰謀に立ち向かうに当たって、そうした「心の美しさ」を持った者たちを味方として集めていくことになるのですが、カーディ自身もまた最初はそうした心の弱さを<おばあさま>に指摘され、それを克服するための冒険に出ることにもなるのです。
 著者のマクドナルドが精神的に弱っていた頃に書かれた作品であるそうで、その「人間不信」がかなり強く出ているのも特徴です。カーディに対する民衆や召使いたちの心根の醜さはなかなかに強烈で、折悪しく攻めてきた別国に味方する民衆も現れる始末。
 一部ではなく、国民の大部分がそうであるというのだから、参ってしまいます。結果的に、カーディは国を救うことになり、守り神として<おばあさま>も国を庇護していくことになるのですが、それにもかかわらずエピローグでは、悲観的な結末が仄めかされています。

 前作よりも現実的・政治的な要素が強くなっており、そうした陰謀にまつわるサスペンスという意味では非常に面白いのですが、その分ファンタジーとしての魅力は前作に譲るところがありますね。ただ、本作ならではの面白さもあります。
 全体を通して活躍する<おばあさま>の魔法の力、醜い姿ながら愛情あふれる獣のリーナ、リーナに協力することになる数十匹の獣たちなど、ユニークな要素がたくさんあります。また、クライマックスでの敵国軍隊との決戦シーンは、スペクタクルに満ちていて素晴らしいですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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