FC2ブログ
奇妙な触れ合い  ハーバート・リーバーマン『地下道』
tikadou.jpg
 ハーバート・リーバーマンの長篇『地下道』(大門一男訳 角川文庫)は、家の地下道に住み着いた青年と老夫婦との奇妙な交流を描いた、不思議な味わいのサスペンス小説です。

 郊外の田舎に家を買い、静かに老後を過ごしていたアルバートとアリスの老夫婦。ある日、給油会社の社員として青年リチャード・アトリーが夫婦のもとを訪れますが、人恋しさから夫婦は青年を歓待します。
 二度目に訪れた青年の振る舞いに異様なものを感じ取る二人でしたが、数日後、地下室に降りたアルバートは、そこに人間が住み着いていること、鳥や獣の食い散らかされた死骸を発見します。住み着いているのがリチャード・アトリーであることを知ったアリスは、彼と一緒に暮らすことを提案します。
 アルバートも賛成し、リチャードに地下道から出て、自分たちと家の中で暮らすように話しますが、彼は今の場所で問題ないと言い張り、奇妙な共同生活が始まります…。

 子供もなく、孤独感を抱えていた老夫婦が、家に突然現れた変わり者の青年を保護するようになり、やがて自分たちの息子であるかのように感じるまでになります。しかし青年は、周囲の人間とは相容れない気質と独自の感性を持つ人間であり、夫婦だけでなく近隣の町や住民達とも問題を起こしてしまいます。
 青年リチャードの行動で、周囲の人間から老夫婦は孤立してしまいます。やがて妻アリスは、リチャードの激しい気性に恐怖を感じ始めるのです…。

 家庭に見知らぬ者が入り込み、家庭が破壊されてしまう、というタイプの物語なのですが、本作ではその入り込む青年がある種、純粋な人間であり、また家庭側の老夫婦も彼を子供代わりとして暖かく迎える、というところがユニークな点になっています。
 青年リチャードの来歴は結末まで明かされないのですが、この青年の人格が歪んでいて、愛情を求めながらもそれを素直に受け入れることができず、やたらと極端な行動に及んでしまいます。
 アルバートとアリスの夫妻も、リチャードの行動を相当まで受け入れるものの、彼の限度を超えた行動に何度も彼を追い出そうと考えるまでになるのです。

 主要な登場人物はアルバートとアリスの夫妻、そして青年リチャードの三人というシンプルなストーリーなのですが、終始サスペンスが途切れません。彼ら三人の愛憎がめまぐるしく変転する様が、豊かな心理描写を持って描かれていくからです。
 居候となる青年リチャードが単純な「悪人」ではなく、また彼を迎え入れる側の夫婦もまた単純な「善人」ではないことが、この物語を面白くしている要因でしょうか。
 装いこそ風変わりなものの、「人間の絆とは何なのか?」というテーマを真摯に追求した、サスペンス小説の名作といっていいかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

『地下道』いいですね!!
これ、十年以上探してるんですけど、なかなか出会わないんですよね。まあ、ネットだと売ってはいますが、値段がどれも微妙というか、それで買うのも癪な気がして今に至ります(笑)。でもこの記事を読んでやはり読みたくなりました。
【2020/05/21 23:34】 URL | sugata #8Y4d93Uo [ 編集]

>sugataさん
変り種サスペンスとしてなかなか面白い作品でした。
市場に出ないというほどではないですが、状態が悪かったり、変にプレミアがついていたりするので、そういう意味では入手の難しい本ですね。でも一読の価値はあるかなと思います。
【2020/05/22 06:29】 URL | kazuou #- [ 編集]

地下道読みました。
kazuouさんの解説が興味深かったので読みました。ちょっと長いけど、緊迫感が焦らしながら迫ってくる感じ、いいですね。「出ていってくれ」と言われたリチャードが声をあげるところ、怖くて悲しすぎた。
【2020/07/21 23:23】 URL | hitomi #MMjM5zI2 [ 編集]

>hitomiさん
「異常者」に関わるサスペンス作品なのですが、一概に「異常者」といいきれないところに味わいがある作品ですよね。老夫婦だけでなくリチャードにもどこか感情移入させる筆致が上手いなあと思います。
【2020/07/22 18:12】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/1092-8f96ac8b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する