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ベッドの上の冒険 メアリー・ノートン『空とぶベッドと魔法のほうき』

 イギリスの作家メアリー・ノートン(1903-1992)の『空とぶベッドと魔法のほうき』(猪熊葉子訳 岩波少年文庫)は、魔女の卵によって魔法をかけられたベッドに乗り、南の島や過去に冒険に出かける子供たちを描いたファンタジー作品です。
 岩波少年文庫版は、『魔法のベッド南の島へ』(1945年)と続編『魔法のベッド過去の国へ』(1947年)の合本版となっています。解説によれば、今日では、二作は合本して出版されることが多いとのこと。

『魔法のベッド南の島へ』
 夏休みのこと、ベドフォード州のおばさんの家に預けられたきょうだい、ケアリイ、チャールズ、ポールの三人は、村の近所の住人で、しとやかな女性として知られるプライスさんが、足をくじいているのを見つけます。
 医者を呼ぼうとするケアリイやチャールズに対し、プライスさんはなぜか慌てます。ポールはそばに落ちていたほうきを見て、プライスさんはほうきに乗って飛んでいたところを落ちたのではないかと言い出します。ポールは、プライスさんがほうきに乗っているところを目撃したことがあるというのです。
 自宅に戻ったプライスさんは、自分は魔法を勉強中の魔女であることを子どもたちに明かします。彼女の正体を明かさないことを条件に魔法をかけてほしいと頼んだ結果、ポールがたまたま持っていた、ベッドの端のノブに魔法をかけてもらうことになります。
魔法のノブをベッドに取り付け、一方に回すと現在で行きたい場所に、反対に回すと過去に行くことができるというのです。子どもたちはベッドを使って様々な場所に行くことになりますが…。

『魔法のベッド過去の国へ』
 一度は魔法のベッドとプライスさんとに別れを告げた三人のきょうだいたち。二年後のある日、新聞広告で子どもを預かりますという広告を見つけた子どもたちは、それがプライスさんであることを確信し、母親に頼んで、彼女のもとを再度訪れることになります。
 魔法はもう止めたと話すプライスさんでしたが、末っ子ポールと共にベッドを密かに使っていたことに気づいたケアリイとチャールズは、まだ試したことのない過去への旅にベッドを使わせてほしいと頼みます。エリザベス朝に行くつもりだった三人がたどり着いたのはチャールズ二世の御世でした。
 現地の「魔法使い」エメリウスと対面した三人は、彼に未来のことを話しますが…。

 魔法のかけられたベッドを使って冒険の旅に出る子どもたちを描いたファンタジー作品です。一作目では同時代の別の場所、二作目では過去のイギリスが舞台になっています
 魔法がかかっているのは、あくまでベッドのみ。しかも「移動」機能のみなので、移動した場所でトラブルに巻き込まれた子どもたちは、なかなか事態を積極的に解決することはできません。逃げの一手になってしまうのです。
 やがて、魔法使いであるプライスさんが同行することによって、彼女自身が魔法を使って事態を解決することにもなります。

 実際、この二部作の真の主人公はプライスさんだと言っても間違いないと思います。淑やかで理知的なレディであり、練習中とはいえ、有効な魔法をいくつも駆使することができるのです。
 子どもたちの良き友人となったプライスさんは、最初は嫌々だったものの、共に冒険の旅に出ることにもなります。

 一作目の『魔法のベッド南の島へ』も、タイトル通り南の島への冒険を行ったりと楽しい作品ではあるのですが、作者の本領が発揮されているのは、二作目の『魔法のベッド過去の国へ』だと思います。
 過去へと旅立った子どもたちの手によって、現地の「魔法使い」の男性エメリウスと親交を深めることになったプライスさん。互いに孤独を抱えていた男女の時代を超えた愛情が描かれていきます。
 やがて過去へと戻ったエメリウスの命を救うため、過去へ舞い戻るプライスさんと子どもたちの冒険が描かれる部分は、この二部作のクライマックスといっていい迫力に満ちています。過去やその時代の登場人物を描くにあたっても、絵空事ではなく、リアルで等身大な描写がされているのも魅力ですね。

 プライスさんに比べると、子どもたちの存在感は多少薄れてしまうのですが、彼らの中で一番印象に残るのは、末っ子のポールでしょうか。魔法を使うにあたって、重要なのはこのポールで、実際彼を通してしか魔法は起動しないのです。プライスさんに一番可愛がられるのもポールであり、これは幼さゆえに、魔法を信じる純真さを持っているということなのでしょうか。
 「魔法」についても、無尽蔵にそれが実現されるわけではなく、必ず何らかの「たね」や「エネルギー」が必要だとされるところもリアルですね。
 日常の中に魔法が持ち込まれるという<エブリディ・マジック>の名作であるといっていいかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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