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闇のメルヘン  ジョーン・エイキン『月のケーキ』

 イギリスの作家、ジョーン・エイキン(1924-2004)は児童向け作品を多く遺した作家ですが、本書『月のケーキ』(三辺律子 訳 東京創元社)は大人向けのダーク・ファンタジー集となっています。以下、収録作を紹介していきましょう。

「月のケーキ」
 祖父の家に滞在することになったトム。祖父が住むウェアオンザクリフは、希望を失った人間ばかりが集まるという不気味な村でした。村の住人ミセス・ラリーディ・リーから「月のケーキ」を作るための材料集めを手伝ってほしいと頼まれたトムでしたが…。
 希望を失った者ばかりが集まる僻村、「月のケーキ」とはいったい何なのか…?
 住人たちの「後悔の念」が不幸な結末を呼ぶというダーク・ファンタジーです。

「バームキンがいちばん!」
 娘のアンナが話す謎の存在物「バームキン」に目をつけた父親は、経営する食料品店の品物に、バームキンが入っていないことを証明する文章を付け加えるように指示します。やがて人々はそれらの品物を争って求めるようになりますが…。
 子供が創造した、架空の存在「バームキン」をめぐるナンセンス・ストーリー。次々と品物に飛びつく人々が描かれますが、ファンタジーではありながら、どこか諷刺的な要素もありますね。

「羽根のしおり」
 母親の死に目に会えなかったことを後悔し続ける少年ティムは、まじない師のウィケンズさんから、死んだ人にさよならを言うための手段を教えてもらい、友人のスーとともに母親の墓に向かいますが…。
 死んでしまった母親と言葉を交わそうとする少年の物語です。詩人を目指す姉が作った詩が重要なモチーフとして使われています。家族愛もテーマになった、切ない作品ですね。

「オユをかけよう!」
 仲良しだったマンデーおばあちゃんから形見を受け取ったポール。それはオウムのフォッズと大きさがまちまちの包みが五つでした。包みを開くたびにフォッズは「オユをかけよう!」と繰り返しますが…。
 亡き祖母が孫のために残したプレゼントとは…。「死」で始まる物語ながら、読後感は非常にハッピー。洒落たお話です。

「緑のアーチ」
 その緑のアーチのような森に行くにはいくつかの条件がありました。雨が降っていること、金曜日であること、前夜に決まった夢を見ていること、そして兄のブランが作った曲を聞くこと。その場所を訪れた「ぼく」は何度も奥に進もうとしますが、なかなか果たせません…。
 いわゆる「異世界譚」なのですが、そこに行くための条件がユニークです。その異世界の魅力もさることながら、兄弟にとってその場所の「意味」が判明し、主人公である「ぼく」の真実が明かされる結末は非常に感動的。
 集中でも一、二を争う傑作です。

「ドラゴンのたまごをかえしたら」
 クロウネスの町のそばの山に巣くうメスのドラゴンのグリア。観光の目玉にもなり、町の人々から愛されていました。しかし突然現れた騎士によってグリアは殺されてしまいます。その後、山の奥の洞窟からグリアが生んだらしい卵が見つかりますが…。
 町ぐるみで赤ん坊のドラゴンを育てるというファンタジー作品です。このドラゴンが凶暴で、なかなか御すことができません。皮肉な結末も面白いですね。

「怒りの木」
 結婚により妻イザベルの広大な領地を手に入れたガストン卿は、人々を追い出します。皆から恨まれたガストン卿は、まじない女に呪いをかけられてしまいます。一方、彼の息子ジョンは、父の贖罪のための旅に出かけ、その優しさから人々に敬われますが…。
 中世風の世界で展開されるファンタジー作品ですが、後半では現代にまで時代が進みます。過去では「悪」だったものが、現代では必ずしもそうではない…という、逆説的なテーマも描かれています。エコ的な思想も出てきたりと、いろいろ多面的な要素を持つ作品です。

「ふしぎの牧場」
 高齢で亡くなったサラ・ラザロは所有する広大な牧場を子供や孫たちに残します。しかし遺言には牧場内の「ティターニアの土地」を<旅人たち>に残すという言葉がありました。その土地は別の次元とつながっているという伝説があるというのですが…。
 祖母の残した土地をふざけ半分で探す親族たちが遭遇する出来事とは…?
 ユーモラスなタッチながら、ちょっと怖い作品になっています。

「ペチコートを着たヤシ」
 ジョーは、キューおばあちゃんが大事にしているというヤシを寒さから守る手伝いをします。おばあちゃんが持っていたペチコートや服をヤシに着せたジョーは、冗談半分にヤシの木に踊ってほしいと願いますが、その結果、ヤシの木は歩いていってしまいます…。
 これはユーモラスなファンタジー。踊りだすヤシの木の描写が楽しいですね。

「おとなりの世界」
 昔からリンゴの木と共にその場所に住んでいたクウィルばあさんは、新たに所有者となったグロビー卿によって家を動かされ追い出されてしまいます。その後喉の渇きに苦しむようになったグロビー卿はクウィルばあさんに助けを求めますが、彼女の姿はこの世界から消えていました…。
 強欲な男が罰を受ける…というタイプの物語ですが、追い出した住人が「異世界」に行ってしまい助けてもらえない…という、ちょっと怖いお話です。この話では「救い」があるのですが、エイケンのお話では、悪人の末路は救いのないものが多い印象ですね。

「銀のコップ」
 土砂に埋もれた銀のコップを見つけたジムは、スタブスさんの話から、それがサンタクロースがプディングを作ってほしいと置いたものだと思い込み、サンタクロースにプレゼントを上げようと考えますが…。
 心温まるクリスマス・ストーリーです。

「森の王さま」
 森番の父親にひどい扱いを受けていた娘イェナは、自分が生まれると同時に亡くなった母親のことについて祖母から話を聞きだします。どうやら母は身分の高い女性であったらしいのですが…。
 土地をめぐって争う貴族、森の精霊、不遇な娘の生誕の秘密…、短いなかにも様々な要素が盛り込まれた、奥行きのある作品です。結末の余韻にも味わいがありますね。

「にぐるま城」
 少年コラムは、町がヴァイキングの襲撃を受けようとしているのを見つけ、魔女だったおばのエイリーが使っていた魔法を使って町を助けようと考えますが…。
 魔法の効果が鮮やかに描かれています。タイトルの意味が分かる部分は思わず膝を打ちますね。ジャンルは全く異なるのですが、江戸川乱歩風の趣向が出てくるところも面白いです。

 収録作品はどれも面白いのですが、「月のケーキ」「羽根のしおり」「緑のアーチ」「怒りの木」「おとなりの世界」「森の王さま」などは特に秀作で、ハイレベルな作品集です。本当にお薦め。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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