ショート・ショート以前  二宮佳景編『一分間ミステリ』
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 1959年出版のこのアンソロジー、二宮佳景編『一分間ミステリ』(荒地出版社)は、一分間で読める短い作品を集めたという趣旨の作品集です。時代が時代だけに、ショート・ショートという言葉は使われていませんが、実質的にはショート・ショート集といっていいでしょう。英米仏独と各国からさまざまな作家の作品を集めていますが、当時としてもあまり有名とは思えない作家を多く収録していて貴重です。一番有名な部類で、モーリス・ルヴェル、S・A・ステーマン、バリー・ペイン、トリスタン・ベルナールあたりでしょうか。以下面白かったものを紹介します。

 トリスタン・ベルナール『嘆きのハムレット』 ハムレットをやらせたら天下一品という名優。あまりに役に入れ込みすぎたため、ポロニアス役の俳優を刺し殺してしまいます。しかし、芸術熱心のためということで、彼は無罪になります。また次の公演でも、彼は俳優を殺してしまいますが、またしても無罪になります。そして劇場側は、万一の事態に備えて次の公演では、自殺願望のある俳優をポロニアス役に抜擢します。そして当日、劇場側も観客たちも妙な期待感を持って、開幕を待ちかまえるのですが…。オチが楽しいユーモラスな小話です。

 モーリス・デコブラ『青春』 若い頃は絶世の美女だったレイディ・ウィルチェスタは、自分の容姿が衰えはじめたのを知って故郷の城に引きこもります。そこで彼女は、若い頃の自分の蝋人形を作らせ、毎日それに見入っていたのです。ところがある日、泥棒が城に侵入し、彼女の蝋人形を壊してしまいます…。非情なオチがショッキングな作品。

 R・クロフト・クック『一周忌』 元警察署長ウィリアム卿は、老婦人の殺害犯人と目される甥に、自白させる計画を考えます。それは評判の高い女優に老婦人の幽霊を演じさせ、甥を驚かせようとするものでした。計画は見事に成功し、甥は自白するのですが…。オチが読みやすいのが難ですが、オーソドックスで手堅いゴースト・ストーリーです。

 アーチー・ビンズ『十人目』 バスの運転手が、深夜に最後の一走りにとりかかったとき、乗客は9人でした。やがてある客が、ここで降ろしてくれと言い、運転手は客を降ろします。運転手は不審に思います。そこはなんの横道もない場所だったからです。そしてひとり、またひとりと客たちは店も建物もろくにないはずの妙な場所で降りてゆきます。しかも客たちの話し方や声の調子は、ほとんど同じなのです。そして客が最後のひとりになったとき、その客は運転手に向かい、恐るべきことを話し出します…。前半の怪談じみた鬼気迫る展開が素晴らしいだけに、後半、犯罪小説にシフトしてゆくのがちょっと残念な作品です。

 H・ホーン『新聞』 世故に長けた賭博屋トムソンは、ある日妙な老人から、新聞を手渡されます。その日付はなんと明日のもの! 半信半疑ながら新聞の通りに賭けたトムソンは大もうけします。しかし、悦にいったトムソンが、新聞を見返すとそこには驚くべき記事が…。悪人は罰を受ける、という因果応報譚なのですが、『恐怖新聞』を思わせる背筋の寒くなる結末は一読の価値あり。

 フレデリック・ブーテ『緑衣の淑女』 幼い頃からリュシイは「緑色の着物の淑女」という架空の遊び相手を持っていました。彼女が長じるにしたがって、その存在は薄れはじめます。結婚したリュシイは夫に熱烈な愛情をそそぎますが、夫は忙しさにかまけて、彼女をかまってくれません。そのころから「緑色の着物の淑女」が再び現れ始めます。今度は友人ではなく、リュシイを苦しめる存在として…。
 架空の友人「緑色の着物の淑女」によって主人公が精神のバランスを崩してしまうというサイコ・スリラー。

 S・A・ステーマン『作家の最期』 人気作家ユーゴー・ロルムは、アルシバルド・エス・ブルウという人物を主人公にした作品で大当たりをとります。それは主人公がやたらと不幸な目にあうのが売りの物語でした。助手はブルウをこれ以上不幸な目に会わせるのは、可哀想だといさめますが、ロルムはかまわず作品を書き始めます。その翌日ロルムは死体で発見されます。彼を殺したのは一体誰なのか…。小説の登場人物が実体化するという怪奇小説。

 モーリス・ブラクス『アリバイ難』 心配性の青年トルラクは、犯罪に巻き込まれたときのために、異常に規則正しい生活を送っていました。ある日彼の住むアパートで殺人事件が起こします。トルラクはここぞとばかりに正確なアリバイを言い立てますが、あまりに正確なアリバイに不審を抱かれ、警察に連行されてしまいます…。アリバイの不自然さを逆手にとったユーモア・ストーリー。

 この本「ミステリ」と銘打ってはいながら、幻想小説や怪奇小説も混じっています。その選択眼はなかなか幅が広く、出版年を考えると、編者には、なかなか先見の明があったようです。基本的に大した作品はないので、復刊するほどの魅力には欠けますが、読んで損はないアンソロジーです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

ワンアイデアで読ませるショートショートは大のお気に入りです。短い時間で気軽に読めるというのが何ともいいです。
今でも星新一の「ボッコちゃん」を読んだ小学校5年の夏は忘れられません。

紹介されている中では「十人目」が非常に気になります。
【2006/06/09 23:24】 URL | 加納ソルト #- [ 編集]

やっぱり気になりますよね
ショート・ショートといえば、やはり星新一でしょうか。本書は、星新一の作品にくらべると、大した作品が入っているわけでもないのですが、なかなか楽しめます。
『十人目』は、途中まではすっごくいいんですよ。ちょっと不条理なホラー小説かと思ってたので、結末にはちょっとガッカリしましたが。
【2006/06/10 00:13】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんばんは。
今、kazuouさんの過去のコメントとか参考にさせていただいてます。
荒地出版のアンソロジー確か何冊かありましたよね。結構面白い内容だったと。

アンソロジーって最近はもしかして復権(?)とも思うんですが、
なかなか良い企画がなくて、結局昔のをさがしてしまいますよね。
【2007/10/31 00:18】 URL | fontanka #- [ 編集]

荒地出版のアンソロジー
荒地出版のアンソロジーは、年間ミステリの傑作選が何冊か出ていたほかに、『プレイボーイ』の傑作選とかもありましたね。
荒地出版の本って、古いわりには、古本屋でもあんまり高値はついていないので、見かけると手に入れるようにしています。
年間ミステリの傑作選は、今読んでもかなり面白いです。

現代でもアンソロジー自体は作られ続けていますが、やっぱりむかしのものの方が出来がよかったように感じてしまうのは、ひいき目なんでしょうか。現代のものってどうも、一般小説との境目がなくなってきているというか、「ノワール」系のものが多くて、あんまり受け付けません。
【2007/10/31 06:20】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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