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イーディス・ネズビット補遺
 今年初めの数ヶ月、まとめてイーディス・ネズビット作品を読んでいたのですが、読み残していた絵本と研究書、そして映画化作品も紹介しておきたいと思います。


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イーディス・ネスビット『まほうだらけの島』(中山知子訳 おのきがく絵 文研出版)

 赤ちゃんを授かるために魔法使いの老婆のもとを訪れたおきさきは、その望みを叶えてもらいます。授かった赤ん坊が女の子で王子ではなかったことに怒った王様は、母娘を邪慳に扱うようになります。やがて成長した王女を、王さまは遠く離れた小島にある塔に幽閉してしまいます。
 島の周りには9つのうずまきがあり、塔はグリフィンとドラゴンとが守っていました。王女を助ける男が現れるまで、彼女は年をとらないというのですが…。

 父王の手によって幽閉されてしまった王女を描く作品です。いわゆる「邪悪な魔法使い」が実の父親で、魔法使いの老婆はむしろ味方、というのが面白い設定ですね。
 やがて王女を助ける少年が現れるのですが、門番である怪物たちを倒すために智恵を絞ることになります。
 ネズビットの他作品「メリサンド姫」でも使われていた算数問題がここでも登場し、少年も王女もそれに惑わされてしまう、というのが楽しいです。母親であるおきさきとその友人である魔法使いの老婆が身を挺して、王女を守るとい自己犠牲的なテーマも美しく、ユーモラスな要素もありながら、正統派の冒険ファンタジーとして魅力的な作品になっています。
 「うず潮の島のドラゴン」(八木田宣子訳『ドラゴンがいっぱい!』講談社青い鳥文庫 収録)と同一作品の翻訳です。



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『イバラの宝冠 イギリス女流児童文学作家の系譜5』(ニュー・ファンタジーの会 透土社)

 日本ではおそらく唯一の、イーディス・ネズビットの研究書です。
 内容は、ネズビットの伝記的な部分と作品論、大きく二つに分かれています。
 ネズビットの生涯を追っていて驚くのが、その波乱万丈さ。幼くして父を亡くし、母親は病弱な姉の療養のために転地を繰り返します。そのため家族と引き離されて様々な学校に入れられたり慌しい子供時代を送っています。
 そのあたり子供時代の体験が、作品を作る上で大いに反映されているようです。結婚してからも夫の女癖の悪さと経済的苦境から晩年まで苦労しつづけだったようで、本当に苦労人という感じです。ただその経済的な苦境から、多彩な作品群が生まれたわけで、そのあたりは何ともいえないところがありますね。
 作品論部分では、「リアリスティックな作品の世界」「ファンタスティックな作品の世界」「短編物語の世界」に分けて、ネズビット作品が語られています。

 「リアリスティックな作品の世界」では主に『宝さがしの子どもたち』『よい子連盟』などの〈バスタブル家物語〉『鉄道の子どもたち』、未訳の『すばらしい庭』などについて語られています。この『すばらしい庭』は、子供たちが魔法の効果を確かめようとするものの、毎回その結果が偶然なのか魔法なのかわからなくなる…という話だそうです。

 「ファンタスティックな作品の世界」では、ファンタジーを扱った作品、『砂の妖精』三部作、『魅せられた城』(邦訳『魔法の城』)、未訳の『魔法の町』『濡れた魔法』『アーデンの家』(邦訳『アーデン城の宝物』)、『ハーディングの幸運』(邦訳『ディッキーの幸運』)などについて語られています。
 未訳の『魔法の町』は、少年と少女が自分の作った街に入り込んで冒険を繰り広げるという作品、『濡れた魔法』は、助けた人魚の王女とともに海底の王国を訪れる子どもたちを描いた作品だそうです。

 「短編物語の世界」では、ネズビットの短編作品について語られています。妖精物語の再話集『ばあやのお話』「最後の竜の話」(邦訳「最後のドラゴン」)、「メリザンド王女と割り算のお話」(邦訳『メリサンド姫 むてきの算数!』)、「緑の島の笑い鳥」(邦訳「緑の国のわらい鳥」)、「国を救った子どもたち」(邦訳『国をすくった子どもたち』)など。

 作品論部分では、作品の評価だけでなく、未訳の作品含めネズビット作品の詳細なあらすじも紹介されており、ブックガイドとしても役に立ちそうな本になっていますね。

 ネズビット作品の特徴として、宗教色が薄いこと、子どもの「自由」が描かれていること、ネズビット以前の児童文学が大人の目線から見た子どもの話なのに対して、ネズビット作品は子どもの目線から見た子どもの話になっていることなどが挙げられていますが、なるほどという感じです。
 弱点として、ネズビット作品の主人公である子どもたちのキャラクター性が薄く、互いに交換可能な感じになっている、というのも言われていますが、頷けるところがあります。ネズビット作品を連続して読むと、物語そのもののストーリーは記憶に残るのですが、
 主人公の子どもたちの印象がごっちゃになりがち、というのは確かにそうだなと思いました。もちろん例外もあって『宝さがしの子どもたち』の語り手のオズワルドなど、個性が強くて印象に残るキャラクターもあります。

 全体にネズビット作品を概観するのに非常に便利な本だと思います。特に伝記的な事実から作品への影響関係は細かく語られていて参考になります。
 例えば『お守り物語』(邦訳『魔よけ物語』)が大英博物館の考古学者との交流から生まれたとか、興味深い話題も沢山取り上げられています。ネズビットファンは読まれるといいのでは。




ジョン・スティーヴンソン監督『ジム・ヘンソンの不思議の国の物語』(2004年 イギリス)

 イーディス・ネズビット『砂の妖精』の映画化作品です。設定をいろいろ変えてはいますが、原作のエッセンスを汲んだ楽しい映画作品でした。

 第一次世界大戦時、父親はパイロットとして、母親も負傷者の介護の仕事に従事しているため、ロバートたち五人の子どもたちは伯父の住む田舎の館へと預けられることになります。立ち入りを禁止された中庭の秘密の入り口から浜辺へと出た子供たちは、そこで砂の妖精サミアドを発見します。
 何でも願いを叶えるというサミアドに、子供たちはいろいろな願いを叶えてもらいますが、どれも上手くいきません。しかも彼の願いは日没までしか効果が続かないというのです…。

 五人の子どもたちが砂の妖精サミアドにいろいろな願いを叶えてもらう、という中心テーマは原作そのままですが、それ以外はいろいろと現代風に改変がなされています。オリジナルキャラとして、算数の教科書を書いているという変人の伯父さん、怪物の研究をしているマッド・サイエンティスト風のいとこのホレスが登場しています。家政婦のマーサも、原作にも登場するキャラですが、映画版では頭のねじのいささか外れたキャラとして登場していますね。
 舞台が第一次大戦の最中に変更されているのは、上手い改変だと思います。
 従軍して離れた父親を子供たちは敬愛しており、後半にはそれが物語の重要な鍵になっていきます。全体に兄弟愛・家族愛がテーマとして盛り込まれており、90分弱の映画作品としては上手くまとめられた作品だと思います。]
 作中に登場する「願い」のエピソードとしては、原作にもあった、金貨をもらうエピソードと子供たちが翼を生やすエピソードのほか、映画オリジナルとして、大掃除するために子供たちが大量に増えてしまい屋敷をめちゃくちゃにしてしまうエピソード、恐竜の卵を孵化させてしまい、いとこが食べられそうになるエピソードなどが追加されています。
 翼を生やした子供たちが、父親が従軍するフランスまで飛ぼうとして、途中でドイツ軍のツェッペリン飛行船に遭遇し、そのためドイツ軍が驚いて撤退し、父親の命が助かるという流れは、非常に上手いですね。

 ドイツ軍が「天使」を見て撤退する…というのは、もしかして「モンスの天使」(元はアーサー・マッケンの創作)事件を意識しているのでしょうか。

 原題は FIVE CHILDREN AND IT で、原作の『砂の妖精』の原題と同じなのですが、ジム・ヘンソンのスタッフが作ったということで、こんな邦題になってしまったようです(ジム・ヘンソンは 1990年に死去)。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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