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世界は俺のもの  モルデカイ・ロシュワルト『世界の小さな終末』
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 ポーランド生まれのイスラエル人作家、モルデカイ・ロシュワルト(1921-2015)の長篇『世界の小さな終末』(志摩隆訳 ハヤカワ文庫NV)は、核ミサイルを積んだ原子力潜水艦が国家に対して独立を宣言し、海賊行為を働いて回るという、ブラック・ユーモアたっぷりのスラップスティックな作品です。

 アメリカ海軍の原子力潜水艦ポラー・ライオン号の副艦長ジェラルド・ブラウンは、艦内で勤務中に友人たちとともに酒を飲んでいるところを、艦長のジョンソンにとがめられ、かっとなって艦長を殴り、死に至らしめてしまいます。
 元から自分の地位に不満を抱いていたジェラルドは、艦内で有力な位置にある友人数人を抱き込み、本国に対して、軍からの独立を宣言します。ライオン号に搭載されている16発の核ミサイルで攻撃することを脅しとして、酒や金、女性などを差し出すようにアメリカ政府を脅迫するジェラルドでしたが…。

 核ミサイルを積んだ潜水艦が本国に反旗を翻し、やりたい放題に海賊行為を行う…という物語です。指導者となるジェラルドは自らの権力欲のため、それに追随する仲間の目的も酒や女にあったりと、高尚な目的や理想があるわけではなく、自分たちの欲のために乗っ取った潜水艦を利用していきます。
 最初は要求を飲んでいたアメリカ政府も、あまりの勝手な要求に拒否する態度を見せますが、それがきっかけとなり、潜水艦は世界各国を対象に海賊行為を働くようになります。主人公たちの行動は身勝手極まりないのですが、その野放図さは清々しいほどで、読んでいて痛快です。

 主人公ジェラルドを始め、潜水艦の乗組員たちは、いかに快楽を追求するかという動機のみで動くのですが、後半、物語は急展開することになります。ジェラルドに影響された「模倣犯」が現れるのです。
 核を悪用する者たちが次々と現れるあたり、作者の筆はコメディ調でありながら、現実に起こり得るのではないかと思わせて、フィクションにはとどまらないテーマを持った作品といえるでしょうか。

 正直、「核」という政治的、かつデリケートなテーマを「悪ふざけ」で描いたような部分もあり、読んでいて眉をひそめる向きもあるかと思います。ただ冷戦時代に描かれたにも関わらず、今読んでも「諷刺」という面では新鮮さを失っておらず、名作といっていい作品ではないでしょうか。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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