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陽気な魔法たち  エドワード・イーガー『魔法半分』『魔法の湖』
 アメリカの作家エドワード・イーガー(1911~1964)のファンタジー作品『魔法半分』『魔法の湖』は、イーディス・ネズビットの影響が色濃い<エブリディ・マジック>作品。ネズビットの影響を受けた後続の作家は数多く存在しますが、作風もここまで近い作家は珍しいのではないでしょうか。
 順番に見ていきたいと思います。



エドワード・イーガー『魔法半分』(渡辺南都子訳 ハヤカワ文庫FT)

 父親を亡くし、新聞記者として働く母親と暮らす四人のきょうだい、ジェーン、マーク、キャサリン、マーサ。子供たちは、図書館でE・ネズビットの本を読み漁り、魔法が実際にあったらいいなと空想していました。ある日ジェーンは敷石のすきまに光るコインを見つけます。
 退屈していたジェーンは火事でも起こればいいのにと口に出しますが、途端に近くで庭にあったままごとの家が燃え出しているのに気がつきます。それからも不思議な事件に遭遇したきょうだいたちは、コインに触れて願えば、願いが叶うこと、ただしその願いは「半分」しか叶わないことを発見します…。

 願いを叶える魔法のコインを手に入れた子供たちを描くファンタジー作品です。作中でも言及されるように、イーディス・ネズビットのファンタジーに強く影響されている作品で、雰囲気や構造が非常に近いです。独自の要素としては、魔法が必ず「半分」の形で実現されるところでしょうか。
 例えば、どこか別の場所に移動したいと願っても、その半分の距離しか移動できなかったり、家にいたいと願ったら、存在が半分になり半透明になってしまったりと、あらゆる願いが「半分」となってしまい、それがトラブルを引き起こします。
 後半では、その「半分」のルールに気づいた子供たちが、願いに「二倍」の文言を入れることで、その不自由を解消してしまうのですが、あわてていたり、何の気なしにしゃべった言葉が実現されてしまったりするのも楽しいですね。
 日常レベルからタイムスリップまで、大小さまざまな願いが実現されますが、白眉はアーサー王宮廷にタイムスリップするエピソードでしょうか。魔法でランスロット卿をたたきのめしてしまったキャサリンが魔術師マーリンにたしなめられるなど、子供たちの破天荒な行動が描かれます。
 「ジェーンの冒険」のエピソードも面白いです。母親の再婚をめぐって弟や妹と喧嘩したジェーンが、よその家族になってしまいたいと願った結果、姿はそのままながら「もうジェーンではない子」になってしまいます。よその子になってしまったジェーンを取り戻そうと、きょうだいたちの活躍が描かれます。
 子供たちが魔法を使う契機が「ひまつぶし」や「遊戯」にあるため、その行動もいきあたりばったり。その結果、予想がつかない展開になるという意味で大変面白い作品です。ネズビット作品に比べるとライトな印象ですが、これはこれで楽しい作品だと思います。
 序盤で子供たちがネズビット作品について言及するシーンがあり、そこで具体的に言及されるのが『魔法の城』。作者イーガーもこの『魔法の城』の評価が高かったということでしょうか。




エドワード・イーガー『魔法の湖』(渡辺南都子訳 ハヤカワ文庫FT)

 『魔法半分』での魔法のコインの事件以来、魔法との関わりがなくなっていたジェーン、マーク、キャサリン、マーサのきょうだいだち。前作で知りあい、母親と再婚して義父となったスミスさんとともに、田舎の湖畔の山荘で過ごすことになります。
 湖のそばで、魔法を操る話す亀と出会ったきょうだいたちが、魔法を使ってほしいと話した結果、亀は湖に魔法をかけることになります。湖に対して願いを望めば、それが叶うというのです。様々な願いを叶えるきょうだいたちですが、それに応じて様々なトラブルも発生してしまいます…。

 今回は「魔法の湖」がテーマになっています。魔法をかけるのは亀なのですが、実際に魔法が働くのは湖を媒介した形になっています。最初は野放図に働いていた魔法を制御しようとして、子供たちは後付けで、亀にいろいろな魔法のルールを追加していくのですが、それもなかなか上手くいかない…というのも読みどころでしょうか。
 『魔法半分』同様、実現される魔法は、子供たちの純粋な遊戯のための願いが多いです。人魚や海賊が現れたり、「大きく」なってみたり、南極に行ってみたりと、娯楽に富んだ冒険が多く描かれていきます。
 大人には魔法の効果が見えないルールのため、危機を逃れようと亀に変身した子供たちが、亀の姿のまま親と一緒に移動したり、「16歳」にしてもらった女の子たちが不良少年たちにナンパされて出かけた先で、「大人」である少年たちには小さな女の子を連れているようにしか見えないなど、工夫された魔法の効果の表現にはユーモアがたっぷりです。 また、魔法の効力が「一日」のため、効果を打ち消そうとして、魔法により月を無理やり沈めてしまうなど、そのスケールの大きさも楽しいですね。
 南極に行ったものの、ずっと太陽が沈まないため、魔法の効果が切れずに帰れなくなってしまうなど、魔法のルールを上手く使った演出も光りますね。

 実はこの『魔法半分』『魔法の湖』、四部作のそれぞれ一作目と三作目になっています。登場人物が共通しているのがこの二作のため、一作目と三作目ではあるのですが、直接的な続編になっています。二作目と四作目は、一・三作目の子供たちの未来の子供たちが主人公になった作品になっているそうです。
 親の世代と子の世代が交互に活躍するシリーズになっているわけで、二作目と四作目に関しては未訳なのですが、ちょっと読んでみたいところではありますね。
 『魔法の湖』でも、子世代の子供たちが時を越えて助けに現れるシーンがあり、その部分の演出というか仕掛けも、なかなか凝っています。
 エドワード・イーガー作品、イーディス・ネズビット作品の影響が強いです。というか、ほとんどネズビットの作風そのままといってもいいぐらいです。ただネズビット作品に時折表れる「影」のような部分がイーガーにはなく、徹頭徹尾明るいのが特徴。「能天気なネズビット」といった感じでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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