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盗みは精確に  マシュー・ディックス『泥棒は几帳面であるべし』

 マシュー・ディックス『泥棒は几帳面であるべし』(高山祥子訳 創元推理文庫)は、タイトル通り、几帳面な泥棒を描いたユニークなサスペンス小説です。

 青年マーティンは、泥棒を生業にしていました。泥棒といっても、大掛かりなものではなく、日用品や食品など、なくなっても気付かれにくいものをメインに盗みを行っています。しかも盗みに入るのは特定の家庭のみに限定されていました。
 ターゲットは、裕福で子供のいない夫婦。しかも裕福すぎず、品物に頓着しない性格だとなお良いのです。マーティンは時には数ヶ月から半年もかけて、ターゲットを調査してから仕事にかかるのです。夫婦の性格や仕事、場合によっては近所の住人の情報まで調べます。
 ターゲットを知り、何年も彼らの家に出入りするうちに、マーティンは住人たちを「友人」と見なすようになっていました。ある日「お得意」のひとつ、クレイトン家に侵入したマーティンは、ふとしたことから、クレイトン夫人の歯ブラシを便器に落としてしまいます。
 夫人に汚い歯ブラシを使わせるわけにはいかないと考えたマーティンは、新品の歯ブラシを購入し入れ替えようとしますが、折悪しくクレイトン夫妻が帰宅してしまいます…。
 人間関係が苦手な青年が選んだ仕事は「泥棒」でした。しかもその仕事は几帳面で、住民は何年もの間、品物が盗まれたことすら気付かないという徹底ぶり。家や住人に親しみを覚えていくうちに、彼らを友人と見なすようになった青年は、ある出来事をきっかけに「善行」をしようと考えるようになるのです。

 最初から最後まで、非常に几帳面な泥棒の仕事ぶりが丁寧に描写されていきます。実際に実践できるのではないかというぐらいの丁寧さです。正直、結末近くになるまで事件らしい事件は起きないのですが(泥棒自体犯罪ではあるのですが)、泥棒仕事の細かな描写だけで面白く読めてしまいます。

 主人公が家の住民に見つかりそうになるとか、買った歯ブラシを入れ替えるのに間に合うのかとか、ある種「小ぶりな事件」でサスペンスを保たせるのはすごいですね。そんな「地味な」人生を送っていた主人公が「冒険」を決断したとき、彼の人生を変えるような事件が起こるのです。

 読者を「笑わせ」ると同時に「泣かせる」という、豊潤な味わいの小説です。2013年に邦訳が刊行されており、あまり話題にならなかったようですが、これはすごく良い作品だと思います。「泥棒」の「仕事ぶり」が丹念に描かれるというユニークな作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

お久しぶりです。
この本面白かったです。泥棒のターゲットのみつけどころが良いなと思いました。
ちょっとづつ、相手に分からないようにって
森の小人さんの食事をちょっとづつ食べた 白雪姫を思い出しました。
【2020/05/03 18:16】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ご無沙汰しております。

これは拾いものでしたね。
ちょっと笑える設定で、お話もよくできているしで、楽しい作品でした。
同じ作者の作品がもう一作邦訳されて、積読しているので、そのうち読みたいと思っています。
【2020/05/03 18:33】 URL | kazuou #- [ 編集]

「泥棒は几帳面であるべし」読みました
 これは面白かったです。
泥棒の神髄は家に入ってから、ということでしょうか。
最近だったらお得意のSNSも分析しそうですね。

ちょっとスパイみたいでした。
【2020/07/12 09:59】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
目の付け所がいいですよね。泥棒を主人公にした「お仕事小説」の趣もあって、すごく面白く読んだ作品でした。
【2020/07/12 21:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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