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<美しき>人々  ウィリアム・メイクピース・サッカレイ『バラとゆびわ』

 ウィリアム・メイクピース・サッカレイ(1811-1863)の『バラとゆびわ』(刈田元司訳 岩波少年文庫)は、それを身につけると魅力的に見えるようになるという魔法のバラとゆびわをめぐる、諷刺的なファンタジー童話作品です。

 バフラゴニアのギグリオ王子は、父王亡き後、おじであるヴァロロソ王に王位を奪われてしまうものの、持ち前の能天気さから、おじの家族のもとで呑気に暮らしていました。 いとこであるアンジェリカ姫にくびったけのギグリオは、彼女との結婚を望んでいましたが、アンジェリカはクリム・タタリ国の魅力的な王子バルボに夢中になってしまい、ギグリオに冷たくされます。
 幼い頃にギグリオにもらった指輪を外したとたん、ギグリオの故意の熱は冷めてしまいます。指輪はギグリオの母親が魔法使いの「黒杖」からもらった魔法の指輪で、それをつけている人間を魅力的に見せる品物だったのです。一方バルボ王子もまた、親から譲り受けた魔法のバラで、自らを魅力的に見せていました。
 かねてよりギグリオに思いを寄せていたアンジェリカのこしもとベチンダは、ふとしたことから指輪を手に入れ、その魔力でバルボを誘惑したとして城を追い出されてしまいます。バルボとアンジェリカを結婚させたいと目論むヴァロロソ王は、ギグリオを処刑しようと考えますが、忠実な家臣の気遣いで、命からがら逃げ出すことになりますが…。

 人を魅了する魔法のバラとゆびわをめぐり、さらに背景には二つの王位簒奪事件が存在し、なおかつ二組の恋人たちの恋の鞘当てが展開されるという、複雑な筋の童話作品です。全体におとぎ話風ながら、筋の絡み具合が錯綜していて、それにもかかわらず上手く解決がつくという、非常に良くできた作品です。
 魅力的な人物とされていたアンジェリカ姫とバルボ王子が、ともに魔法のアイテムの力で自らの虚像を作っていたのに過ぎず、その幻影の世話にならなかったギグリオとベチンダが幸せになるという、教訓的なテーマが提示されるのですが、それが単純に出てこないところが面白いですね。

 終始善人として描かれるベチンダはともかく、主人公のギグリオは登場時点では、頭のからっぽな自堕落な青年として現れます。苦労をすることで成長し、成功を手に入れるものの、慢心してまた酷い目に会うなど、その描かれ方もかなり諷刺的なもの。「ヒーロー」の描かれ方としては異色です。

 物語全体に諷刺的な要素が強く、主人公ギグリオ含め、登場するたいていの登場人物が笑いのめされています。そうならないのはヒロインのベチンダと、魔法のアイテムを作った魔女「黒杖」ぐらいでしょうか。
 典型的な「おとぎ話世界」で展開されるお話ではあるのですが、子供向けとは思えない筋の複雑さが魅力の一つですね。とにかく登場人物がやたらと動くのが特徴です。
 前半にあった伏線が結末付近で登場し、ここでこうなるか!という驚きもあります。アンジェリカとバルボのカップルも、最終的にはハッピーエンドになるのですが、その収め方も実に皮肉でブラック。

 終始、陽気な雰囲気で展開される楽しい作品で、古典的な作品ではありますが、今でも魅力を失っていません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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