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怪談のごった煮  矢野浩三郎、青木日出夫『世界の怪談』
世界の怪談―怖い話をするときに (ワニ文庫)
浩三郎, 矢野, 日出夫, 青木
ベストセラーズ (1984-01-01)

 矢野浩三郎、青木日出夫『世界の怪談』(ワニ文庫)は、一見、怪奇実話集みたいなテイストの本なのですが、実は海外の怪奇幻想小説のネタが沢山使われているという本です。

 例えば「精霊のえじき」と題された話はアルジャーノン・ブラックウッド「柳」「黒猫の復讐」はロバート・ブロック「猫の影」「恐怖の子守歌」はレイ・ブラッドベリ「小さな殺人者」のダイジェストになっています。他にも、ジョン・コリア「みどりの想い」、ヘンリー・カットナー「ねずみ狩り」、ロアルド・ダール「廃墟にて」などが使われています。
 原作のタイトルを紹介しているものもあれば、そうでないものもあります。しかも小説ではない本当の「怪奇実話」も混ざっているようで、かなり混沌とした編集の本になっていますね。

 「世界の名作にこんな怖い話がある」コーナーでは、ウォルポール『オトラント城』も紹介されています。このコーナーのセレクションもよく分からなくて、この次にマリヤット「人狼」、その後は上田秋成の作品が紹介されています(日本作品が紹介されているのはここのみ)。

 B級感漂う本なのですが、著者二人がベテラン翻訳家、特に矢野浩三郎は怪奇幻想の専門家といっていい人だけに、選ばれたお話のセレクションは悪くありません。原作が明記されていないお話(原作があるかどうかははっきりしないです)のなかでも、いくつか面白い話もありますね。
 インディアンに襲われ、まさかりで撃退するという夢を見た男が夢と符合する現実に遭遇するという「夢の中の殺人者」、絞首刑にかけられた男が何度も命拾いするという「絞首台の怪奇」、記憶を失った幽霊がさまよい歩く「わたしは幽霊」などが面白いです。

 海外作品を曖昧な形で紹介したり、実話とまぜこぜにしたりと、いろいろ問題がある本ではあるのですが、ごった煮的な面白さがあることは確かで、これはこれで面白い本ではないかと思います。
 カービー・マッコーリー編『恐怖の心理サスペンス』(矢野浩三郎訳 ワニ文庫)(これも矢野さんが絡んだ本ですね)でもそうでしたが、この版元、小説作品をやたらと実話集とか実用書の体裁で出したがる傾向があったようです。
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テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

いつも、楽しく読ませていただいています。
1970年代から80年代にかけては、最近のブームを上まわる規模で、新書で実話怪談ものがかなり売れていて、ベストセラーズもそういう新書を定期的に出していました。

矢野先生と青木先生は、そのブームに乗って、翻訳ネタを流用した怪奇本を出そうとしたものと思われます。ここに掲載されているのは、どちらも新書で売れた作品の、文庫落としですね。
怪奇実話からUMAまで、新書怪奇本を各社が出していた時代は、文庫でも角川のオレンジ背のシリーズもあったりと、怪しい作品があれこれと書店の棚に並んでいて、わくわくしたものです。
【2020/04/25 21:17】 URL | 尾之上浩司 #O4hQkYgM [ 編集]

>尾之上浩司さん
やはりこの本も、元版の新書があったのですね。
KKベストセラーズなどの昔の新書本を初め、一時期流行ったという、このタイプの「怪しい」新書は、最近では入手も難しくなって、なかなか全貌がつかめません。
中には面白いものもあるのでしょうね。
『世界の怪談』や『恐怖の心理サスペンス』は、監修者がちゃんとしていることもあって、面白く読めました。
【2020/04/26 08:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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