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二度と戻れない夜  スタンリイ・エリン『断崖』
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 スタンリイ・エリンの第一長篇『断崖』(三樹青生訳 ハヤカワ・ミステリ)は、とある少年の一夜の成長と幻滅を描いたサスペンス小説です。

 ジョージ・ラマンは、いささか内気な16歳の少年でした。体格は良く、実年齢よりも上に見られることもあるジョージは、父親アンディの酒場で過ごすことが多く、店の手伝いなどもしていました。ジョージの母親は亡くなっており、父のアンディは看護婦のフランシスとつきあっていましたが、ジョージは父親の私生活には干渉しないことにしていました。ある夜、有名な新聞記者でスポーツ欄の担当者アル・ジャッジが酒場に現れます。ジョージは、彼の記事を愛読しており、ジャッジ自身にも好感を抱いていたのです。
 しかしジャッジは客たちの目の前で、父のことをステッキで打ち据えたのです。されるがままにされる父の姿を見たジョージは、その瞬間ジャッジを殺さなければならないと決意します。父の拳銃を懐に入れたジョージは、ジャッジを殺すため、彼が訪れているであろう拳闘の試合会場に向かいますが…。

 侮辱された父親の復讐として殺人を決意する少年を描いた物語です。思い込みの強い少年ジョージがジャッジを殺害しようと夜の街を歩き回りますが、なかなか彼をつかまえることができません。その間にも、酔っ払いに金を巻き上げられたり、知り合いになった大学教授に引きずり回されたり、一夜のアヴァンチュールを経験したりと、少年は様々な経験をします。ジョージは復讐を遂げることができるのでしょうか?

 本を沢山読み、内省的で、実年齢よりも大人びた少年。しかし世界は彼の思っていたとおりのものではなく、彼の行動も幼い子供のそれでしかないことが描かれていきます。殺人まで決意した事件の真相を知ったとき、彼の世界観はがらがらと崩れることになるのです。
 少年の行動によって引き起こされてしまった事態に対し、自らの責任を認識するという結末は、彼が「大人」になろうとする証拠なのでしょうか。

 端から見ていて痛々しいほどの幼さと少年の自意識、非常にほろ苦い味わいの、異色の青春小説といえます。
 短篇デビュー作にして代表作「特別料理」と同時期に世に出た作品だそうですが、既に独自の世界が描かれた完成された作品だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
面白かった
「断崖」。ここで知りました。すごく良かったです。ありがとうございました。
【2020/05/10 01:23】 URL | hitomi #- [ 編集]

>hitomiさん
楽しんで読んでいただけたようで幸いです。エリンの長篇はテーマ性が強くてかちっとまとまった、面白いものが多いですよ。
【2020/05/10 08:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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