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「ローズマリー」の恐怖とユーモア  アイラ・レヴィン『ローズマリーの赤ちゃん』二部作を読む
 1967年発表の、アイラ・レヴィンの長篇小説『ローズマリーの赤ちゃん』(高橋泰邦訳 ハヤカワ文庫NV)は、映画化もされ、同時代の『エクソシスト』などと共に、1960~1970年代のアメリカにオカルトブームを引き起こす原因の一つともなった名作恐怖小説です。
 発表から30年後の1997年には、続編である『ローズマリーの息子』(黒原敏行訳 ハヤカワ文庫NV)も発表されています。続編に関しては「書かれなかった方がよかった」という評もあるようで、あまり評価はされていないようです。
 というのも、『ローズマリーの息子』は、諷刺的・パロディ的な要素の強い作品で、それが正当派恐怖小説である『ローズマリーの赤ちゃん』の雰囲気を台無しにしている…という感覚が強かったせいだと思います。
 ただ読み直してみると、そもそも『ローズマリーの赤ちゃん』自体に、諷刺的な面、ブラック・ユーモア的な面が多く含まれています。その意味では、ある意味「正統的」な続編といっていいのではないか?というのが個人的な意見ではありました。
 そんなわけで、今回は『ローズマリーの赤ちゃん』と、その続編『ローズマリーの息子』を紹介していきたいと思います。


ローズマリーの赤ちゃん (ハヤカワ文庫 NV 6)
アイラ・レヴィン, 高橋 泰邦
早川書房 (1972-01-01)

『ローズマリーの赤ちゃん』(高橋泰邦訳 ハヤカワ文庫NV)

 新妻のローズマリーと俳優である夫のガイは、新居を探している際に、ブラムフォードという由緒のあるマンションの部屋に空きが出たことを知ります。
 ローズマリーはブラムフォードでの生活にあこがれを抱きますが、友人ハッチは、その場所には黒い噂が絶えないことを話します。ブラムフォードには、過去に人肉食事件を起こしたトレンチ姉妹や、魔術師マルカトーが住んでいたというのです。
 忠告を振り切ってマンションに移り住んだローズマリー夫妻の生活は順風満帆で、隣人のキャスタベット夫妻とも懇意になります。夫妻は何くれとなく世話を焼いてくれるようになり、妊娠のわかったローズマリーに対して、有名な産婦人科医サパースタインを紹介してくれたりもするようになります。
 妊娠後、体の不調に悩まされるローズマリーですが、夫もキャスタベット夫妻も気のせいだと言って取り合ってくれません。一方、夫のガイは、とんとん拍子に出世をしていきますが…。

 黒い噂のある古いマンション、やたらと親切な人々、夫の不自然な出世、そして起こる怪事件…。違和感を感じたローズマリーは、ふとしたきっかけから、マンションに住む人々は悪魔崇拝者ではないかと疑いを抱きます。悪魔崇拝者たちの目的は、自分の赤ん坊だと考えたローズマリーは、彼らの手から逃れようとするのです。

 悪魔崇拝者たちの存在が、妊婦の過敏な空想なのか事実なのか? といったトーンで話は進むのですが、ほとんど事実であることは疑い得ないように書かれています。先が読めてしまうという意味で、今となってはかなりシンプルな恐怖小説だと言えるのですが、シンプルだけに、読者に与えるインパクトは強烈です。
 マンションに入った時点から感じさせる建物自体の違和感、住人たちの不自然な言動、そして夫の変貌。細かい違和感を積み重ねて、不気味さを醸成していく手腕は見事です。 そして、クライマックスを迎えたかのように見えた、その後のエピローグがまた素晴らしい。ブラック・ユーモアとでもいうべき味が感じられるのです。
 結末の賛否はあるでしょうが、恐怖小説の歴史に残る作品であることは間違いないと思います。



ローズマリーの息子 (ハヤカワ文庫NV)
アイラ レヴィン, Levin,Ira, 敏行, 黒原
早川書房 (2000-11)
売り上げランキング: 913,779

『ローズマリーの息子』(黒原敏行訳 ハヤカワ文庫NV)

 名作ホラー小説『ローズマリーの赤ちゃん』の数十年ぶりの続編です。前作で「悪魔」の赤ん坊を産んだローズマリーは昏睡状態になり、27年ぶりに目を覚まします。息子のアンディは33歳となり、世界中に賛同者を持つ団体のカリスマ的存在となっていました…。

 「アンチキリスト」として祭り上げられるはずだったローズマリーの息子アンディは、逆に悪魔崇拝の教団を平和組織へと作り変え、世界を平和へと導きつつあった…という物語。何とも人を喰った続編であり、評判が悪かったのもわからないではありません。

 自己パロディの要素が強いので、ホラーとしての続編を臨んだ人はがっかりするかもしれません。ただ、悪魔の申し子が「キリスト」になぞらえられるなど、風刺的な部分は非常に面白く、ホラーとして見なければ、これはこれで面白い作品だと思います。
 あと結末にも「仕掛け」があるのですが、これも賛否両論分かれるかもしれませんね。 失敗作とする人もいるようですが、才人のお遊びの効いた作品として考えるとなかなか面白い作品ではないでしょうか。

 『ローズマリーの息子』は、超自然的な事件が起こったりとホラーの要素はあるものの、その筆致は徹頭徹尾、諷刺的なそれになっています。確かに前作『ローズマリーの赤ちゃん』と比べると、パロディのような形になっているのですが、そもそも『ローズマリーの赤ちゃん』自体にも、かなり諷刺的・ユーモア小説的な要素が強いのです。
 特に結末に近いあたりはそのテイストが顕著です。このあたり、スティーヴン・キングも評論集『死の舞踏』の中で、こう表現しています。

 レヴィンがすごいのは、このような諷刺がストーリーのホラー的な風味をそこねるどころか、事実上ますます強めている点だ。『ローズマリーの赤ちゃん』は、ユーモアはホラーに添い寝できるという考えかたを、いっぽうを否定するのは他方を否定するにも等しいとう考えかたを、みごとに裏付けている。
「第9章 ホラー小説」より


 『ローズマリーの息子』を付け加えることによって、前作の『ローズマリーの赤ちゃん』もまた、スラップスティックなブラック・ユーモア小説に切り替わる…。そういう「仕掛け」として捉えると、また作品の違った面が見えてくるのではないでしょうか。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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