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山村正夫の怪奇小説集を読む
 ミステリ作家として知られる山村正夫(1931-1999)の作品には、もともと怪奇幻想的な要素が強いのですが、純粋な怪奇小説も数多く残しています。以下、怪奇小説を集めた三冊の短篇集について紹介していきたいと思います。


魔性の猫 (角川文庫 (5826))
山村 正夫
角川書店 (1984-09)

『魔性の猫』(角川文庫)
 オーソドックスかつ「ベタな」展開の怪奇小説ばかりなのですが、その怪奇味溢れる語り口には味わいがあります。

 妻と娘が化け猫に取り憑かれてしまった男を描く「魔性の猫」、幽霊の夫婦とスワッピングしてしまうという「交霊の報い」、ふと手に入れたどくろ盃からかっての恋人の霊が導かれるという「どくろ盃」、数十年前に戦火の中で死んだ娘の霊が、かっての恋人の息子に取り憑くという「死恋」、現代の「安達ヶ原」をテーマにした怪奇譚「怪異の部屋」、幽霊が家政婦になって現れるという「お迎え火」、結婚詐欺を目論んだ男が目を付けた女は幽霊だった…という「騙すと恐い」、妻の妊娠中の子供を「誘拐」したという若い女をめぐる「水子供養」、失踪した父親を見かけた息子が怪異現象に巻き込まれる「廃園の遺書」の9篇を収録しています。

 過去に悪事や罪を犯した男が、幽霊(基本女性の霊ばかりです)に復讐されるという。因果応報的なフォーマットに則った話が中心です。大抵、主人公の男はろくなことをしていないので、恐ろしい目に会う(もしくは取り殺される)のが爽快感を伴っていたりするのですが、非道いことをしておきながらも逆に改心してハッピーエンドになってしまうという「水子供養」などという、逆パターンのお話もあるのが面白いところです。

 家の壁に埋め込まれていた、人間の骨で作ったどくろ盃から展開される悲恋テーマの幽霊物語「どくろ盃」、行きずりの女に誘われた男が見てはいけないと言われた部屋を覗いたことから怪異現象に出会う、民話や伝承をモチーフとした「怪異の部屋」などは、非常に怪奇度も高く楽しめる作品でしょうか。

 ある種の「臆面のなさ」が逆に魅力になっているタイプの作品集で、あまり驚きはないものの、安心して楽しめる作品揃いになっています。



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『怨霊参り』(角川文庫)
 エンターテインメント要素に富んだ怪奇小説集です。

 魂の宿った人形に誘惑される男を描いた「怪異人形妻」、不思議な能力を持つ妻に夫が不審の念を抱くという「狐火」、心中で死にきれなかった男が心中相手の霊に呪われるという「死んでも離さない」、かって母親を守り切れなかった武者人形が殺人犯に復讐するという「武者人形」、死んだ家族と冥界で記念写真を撮ろうとする「記念写真」、かって恋人を捨てた男が復讐されるという「人体解剖模型」、暴力金融業者を追っていた刑事が霊の存在を知るという「怨霊参り」、幽霊屋敷のアルバイトの青年二人が心霊事件に巻き込まれるという「幽霊アルバイト」、強盗二人組が入り込んだ屋敷は幽霊屋敷だったという「飛んで火に入る」、親友の怪死から吸血鬼の存在が浮かび上がってくるという「吸血蝙蝠」の9篇を収録しています。

 ほぼ全ての作品で女性の幽霊が登場しており、その恨みから男を取り殺す…というパターンの作品が多くなっています。明確な理由があって幽霊が現れるという、因果応報的な形が多いので、怖さという点ではいまいちですが、その作品展開のバリエーションは多彩で、安心して楽しめる作品が多いですね。

 男を愛した人形が実体となって現れ、男を誘惑するという「怪異人形妻」、強引に入り込んだ屋敷の母娘が実は死者だったという「飛んで火に入る」などは面白い趣向です。

 山村正夫作品に登場する幽霊は、ただ被害者を怖がらせるとか脅かすだけでなくて、物理的に殺してしまったり、直接的な死に導くなど、かなり強力な形で登場するのが特徴です。あと幽霊と交情を重ねたりと、肉体的な要素が強いところも面白いですね。

 巻末の「吸血蝙蝠」は、タイトル通り吸血鬼を扱った作品で、他の収録作品とは大分カラーが異なっています。以前にヨーロッパに滞在した経験のある親友が憔悴し、吸血鬼の実在を匂わせた直後に死体で発見されますが、彼は蝙蝠をつかんだまま息絶えていました。しかも以前に、若い女性が同じような状態で死んでいるのが発見されていたのです…。
 殺された男が滞在していたのがトランシルヴァニアで、吸血鬼が誰であるかも読んでいてほぼわかってしまうのですが、その怪奇的な雰囲気は抜群で、楽しめる作品になっています。



恐怖の花束 (ノン・ポシェット)
山村 正夫
祥伝社 (1996-09)

『恐怖の花束』(祥伝社ノン・ポシェット)
 1996年刊行と、著者の怪奇小説集としては最後期のものですが、若い頃の作品とその味わいはほとんど変わらず、よい意味で「ベタな」怪奇小説集になっています。
 あとがきに著者自らも語っているのですが、収録作ほぼ全てが一つのパターンの話型に収まっています。それはある男から不当な被害を受け命を落とした女性が霊となって男に復讐する…というもの。
 その意味で、皆同じような話といえばいえるのですが、どれも面白く読めるのは著者の職人芸といったところでしょうか。著者お得意の艶かしい描写とともに、バブル崩壊直後であった当時の時代風俗的な部分も、今読むと意外に味わいがありますね。

 「同じような話」とはいいつつ、それぞれの物語の肉付けや衣裳は異なっています。中には変わった設定で読ませる作品もあります。
 美容エステに現れた霊を描く「餓鬼の女」、誘拐した社長令嬢は既に死んだ幽霊だったという「恐い誘拐」、モデルルームに現れる家族の幽霊を描く「奇妙な家族」、休んだ介護士の代りに介護に表れる霊を描いた「朝顔供養」、前科持ちの元産婦人科医がホステスの霊に復讐されるという「断罪」、女性を手篭めにした占い師が霊現象に襲われる「天中殺の聖夜」、乗車させたアベックの女の方が人間ではなかったことに気付くという「乗車拒否」など。

 それぞれ工夫が凝らされており、楽しく読むことができます。基本的には主人公である男が過去に悪事を働いている(無意識の場合もあり)ために霊から復讐されるというパターンなのですが、そのしがらみがひねった方向から来る「朝顔供養」「乗車拒否」は中でも面白いですね。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
懐かしい怪談
女性が惨い目に遭うのはイヤですが怨霊となってからの無敵っぷりたるや!生前にその何分の一かでもパワーがあれば・・・。ひばり書房の怪奇漫画や怪奇系児童書と同じ懐かしさを感じます。7月に出る短編集が楽しみです。
【2020/04/10 10:52】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


山村作品に登場する霊はエネルギッシュですよね。このぐらいはっちゃけてくれると、逆に楽しくなってきます。
【2020/04/10 20:06】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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