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子どものための幽霊物語  『鏡 ゴースト・ストーリーズ』
鏡―ゴースト・ストーリーズ
スーザン クーパー, マーガレット マーヒー, こみね ゆら, Susan Cooper, Margaret Mahy, 角野 栄子, 市河 紀子
偕成社 (1999-09)

 『鏡 ゴースト・ストーリーズ』(角野栄子、市河紀子訳 偕成社)は、児童文学作家のゴースト・ストーリーを集めたアンソロジーです。
 原著は1996年の国際児童図書評議会世界大会用に編まれたアンソロジーとのことで、ひとつの国からひとつの作家、対象年齢は12歳、ホラー短篇集という企画だったそうです。 全11篇のなかから、6編を抜き出した作品集になっています。


スーザン・クーパー「幽霊の話」
  トビー・ウォラーは、テニスに夢中な父親からテニスをするよう勧められていましたが、乗り気ではありませんでした。勝負に執着する父親に嫌なものを感じていたからです。 ある日、自宅のテニスコートで何気なく打ったボールが、誰もいないはずの場所から打ち返されてきます。しかも、自宅のコンピュータにはその「幽霊」と思しき存在からメッセージが打ち込まれてきたのです。やがて「幽霊」とのテニスを楽しむようになるトビーでしたが…。

 「幽霊」とテニスをするようになる少年を描いた作品です。「幽霊」はかって父親にテニスの英才教育を受けたものの父親を憎みながら死んだ少年であることがわかります。トビーもまた、勝ち負けに拘泥する父親に穏やかならぬものを感じており、そのよく似た境遇からやがて幽霊の憎しみが少年に乗り移る…という展開になります。
 過去と現在の父子関係が二重写しになるという、優れたテーマのゴースト・ストーリーです。


角野栄子「鏡」
 少女のアリは、ある日母親が骨董屋から買ってきた鏡を覗いているうちに、自分が鏡の中に閉じ込められていることに気がつきます。代わりに鏡の外には自分の鏡像が実体となって存在していたのです。鏡像は周囲の人間に意地悪な行動を繰り返します。
 アリは、鏡の中に以前から閉じ込められていた少年アキラに出会います。彼によれば、鏡像が手を触れてくれない限り元には戻れない、自分は既に二十五年も鏡の中にいるのだと…。

 鏡の中に閉じ込められてしまうという、いわゆる「鏡怪談」なのですが、かなり怖い作品になっています。というのも、先に閉じ込められていた少年から、永遠に出られない可能性、そして外に出た鏡像はいずれおかしくなり大抵死んでしまうという、恐ろしい話を少女は聞かされるからです。
 鏡の中の世界というと、いかにもファンタジーといった穏やかな話を想像しがちですが、この作品ではそれが思わぬ天災や事故にあったような感覚に近く、子どもが読んだらトラウマになってしまいそうな作品です。


マーガレット・マーヒー「首すじにおかれた指」
 曾祖母のメイにかわいがられていた少年イヴォール。しかしメイは体を悪くして車椅子の生活を余儀なくされます。介護費用が嵩むことが分かり、自分の進学費用として回してくれるお金が足りなくなりそうなことを知ったイヴォールは、散歩に出た際に、メイを車椅子ごと海に突き落としてしまいます…。

 金のために曾祖母を殺してしまった少年がその霊に殺される…という救いのない話です。心霊現象もさることながら、ためらいなく殺人を犯した上に白を切る少年の邪悪さが印象的な作品になっています。


チャールズ・ムンゴシ「山」
 バス停に行くために、友人のチェマイと共に夜の山を通ることになった少年の「ぼく」。怖がりの友人が話す話を一笑に付す「ぼく」でしたが、いつの間にか背後に黒いヤギが付いてきていることに気がつきます…。

 ジンバブエ作家による、アフリカの土地を舞台にした物語。欧米の同種の作品とは異なるユニークな雰囲気が魅力です。主人公の少年の心の動きが繊細に描かれています。


ウリ・オルレブ「クジラの歌」
骨董屋をしていた祖父ハンマーマン氏とその家政婦シボニエ夫人は、祖父が体を悪くしたことから店を閉め、孫のミカエルたちと一緒に暮らすことになります。祖父には特殊な能力がありました。一緒に寝る人間を夢の世界に連れていくことができるのです。
 ミカエルは祖父と一緒に夢の世界を楽しみますが、かって一緒に夢の世界に連れていってもらっていたシボニエ夫人は彼らの関係に嫉妬していました…。

 孫と共に夢の世界を旅する祖父という、一見ファンタスティックなテーマの作品なのですが、その関係に嫉妬する家政婦と、彼女に協力的だった亡き祖母との関係がやたらとクローズアップされるという妙な味わいのファンタジー作品です。
 夢を扱っているだけに不条理風の展開もあり、読み応えのある作品になっています。亡き祖母が「敵」として現れる夢はちょっと怖いですね。


キット・ピアスン「眼」
 シーラおばのもとに泊まることになったミシェルとバーニーの姉妹。しかしバーニーはかって祖母マーガレットが持っていたという美しい人形グリゼルが怖くてたまりません。 おばによれば、祖母は愛していた弟を火事で失い、その現場を目撃していた人形を疎みながらも、大事にしていたというのですが…。

 事故現場に居合わせたために、その持ち主から憎まれることになってしまった人形。その人形を愛情をもって「開放」するというテーマの作品です。邪悪なものだと思われていた人形が、人形自体に罪はないということがわかるシーンには感動がありますね。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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